アガペー
僕には可愛い彼女がいる。コロコロとよく笑い、楽しいことや嬉しいことがあると咲き誇らんばかりの笑顔で感情を体現する。いわゆる「犬系彼女」というやつだ。
そんな彼女はFランと称される私立大学に通っている。対して僕は大体の人が知っている県立大学。周りからは「どうしてそんな子と」、「もっとレベルが同じくらいの子にした方が」などとよく言われる。
IQが20違えば会話が成立しないというが、果たして僕たちの知能に大した差がないのか、それともお互いがお互いに歩みを合わせているのか……。
まあ、それはどちらでも良い。なんといっても僕たちはかれこれ6年の付き合い。
「でも、お互いうまくやれてるならそれでいいんじゃない」、「そんなに続いてるなんて素敵。羨ましいなぁ」
これが幸せなのだと、そう思っていた。
やけにあっさりとその幸せが崩れたのはなんでもない平日の夕方。僕は見てしまったのだ。
彼女が、他の男と歩いているのを。
彼女が、嬉しそうに腕を組んでいるのを。
驚いた、と同時に本気で理解ができなかった。どうして恋人がいるのに他の異性と親しそうにできるのか?それを本人に見られたらどうなるか考えないのか?なんて可哀想なんだろう。そんな愚かな行動に走るなんてきっと思考回路の何処かがエラーを起こしているのに違いない。
それから僕は何にも手がつかず帰りの電車にも2度乗り間違えてしまった。普段ならあり得ないことだ。これもきっと彼女が僕に与えた影響ということなのだろう。
その日の夕方、僕から話を切り出した。
「今日、他の男の人と並んで歩いていたけれど一体どんな関係なの?少なくとも友達という間柄ではないように思えたけれど」
「っ、え……
あ、あれは、その……」
愛しい彼女は背を丸めこちらの目線を伺うように見上げる。その姿はまるで怒られた子犬そのものだった。
こういう場面では違う、とか誤解だよ、とか言うものだと思っていたけれど馬鹿正直に言葉に詰まり固まってしまった。たっぷり1分の沈黙のあと。僕は罰を与えることにした。
慈しみという名の罰を。
「大丈夫。ならいいよ。今日はもう寝よう。」
「ちょ、ちょっと待って!!違うの、あの、ほんとに。信じて…っ。お願い……」
もう今更何を言おうと過去は変わらないのに。それでもしっぽを丸めて、耳を伏せて。本当に可愛い彼女だ。僕は別に怒っているのでも悲しんでいるのでもない。ただ理解できなかっただけ。けれど恋人はお互い欠けているところを補うのが理想というし、僕達は相性がいいのではないだろうか。僕はそんな心持ち上機嫌に寝室へと向かった。




