自分の本音を知らなかったりするからな。
遺体を抱いて泣き続ける彼に、溜息しか出ない。
「馬鹿だな」
本当に大切な物を失ってから気づくなんて。
自らの過ちを、失くさないと気付かなかったなんて。
慰めは、なんだろうか。
「けれどまあ、人間なんて、そんなものだろう」
「そんな物、だって?」
彼はゆっくりと振り返る。その目は意外にも空虚ではなく、怒りに満ちているようだった。
「彼女は死んだんだぞ?よくもそんな」
「ああ死んだな。お前のせいで」
「俺のせいだと?」
「俺は何度も警告してやったろう。自らを振り返ってみろと。何も気付こうとしなかったのはお前じゃないか」
いくさで手柄を立てるのだと、戦場に出る度に怪我を負う度に奇跡的に助かり笑顔で戻って来た。
その不可思議さを、何度も指摘してやった。
魔法使いの娘を嫁に貰った、魔法使いの娘の加護だと、吹聴していただろうに。
本当に考えもしなかったのだろうか。身代わりの魔法なのだと。
「……彼女が、勝手に、した事だ」
「それが本音か。お前のその涙は彼女のためではなく失った自分が可哀想だから、か」
ふう、とまた溜息を零した。ああ、本当に、人間は利己的だ。
「娘は、リディアはいったいお前の何が良かったんだろうな」
「少なくとも、あなたよりは俺が良かったんでしょう」
耳が痛いな。リディアは確かに俺を嫌って家を出ていった。
けれど。
「遺体をどうする気だ?」
「うちの一族の墓に」
「そうか」
彼はもう振り返らなかった。親である俺に詫びを入れる事もなく。
リディアの遺体を抱いて去って行った。
「本当に、あれの何が良かったんだ?リディア」
胸元に忍ばせていた宝珠を取り出し問いかけた。
小さな体のリディアはすうっと目を開けた。
「父さまより、魅力的に見えたんです」
「まあ、確かに若いし夢や希望に溢れて見えてはいたな」
「あんな風に思われてたなんて知らなかった」
「人間は本音を隠したり、自分の本音を知らなかったりするからな」
勉強になったろうと、娘に――ホムンクルスに問いかけた。
「はい。とても勉強になりました。父さま、勝手をしてごめんなさい」
「いいさ。子どもの我が儘を聞くのも親の仕事だ」
新しい体を作ろうなと約束してやり、宝珠を大事に懐にしまい直した。
END