第84話 また明日、そう約束した
絵物語のように、好きな人と街を見て回る。隣を歩きながら、様々な物を見て話をしたい。それが好きな人の国なら一度はやってみたかった。
明日と明後日の予定は決まってない。母様とジェラルド兄様は会議やお茶会があるらしいが、私は自由にしていいと言われた。
(城外に出てみたいとか、フェイ様に相談してもいいのかしら?)
結局、自分から切り出せず、話し合いはお開きとなった。
現状を鑑みて、あまりにも自分勝手な願いだ。口にすれば、みんなできる限り考慮してくれるだろう。だから私は口にしない。
スペード夜王国では果たせなかったとしても、この後向かうハート皇国や、自国でデートをすることは出来るのだ。
この城内でもまだ行ったことのない場所があるのだから、フェイ様を誘ってみるぐらいなら護衛者たちの負担も減るだろう。この国……フェイ様の育った国で、フェイ様ともっと思い出を作りたい。
(そう考えてもいいわよね……?)
明日も早いということで、母様とジェラルド兄様、フェイ様たちは立ち上がり退室しつつある。みんなドアへと向かうが、フェイ様だけは途中で足を止めた。何か言い忘れたことでもあるのかしら?
「ソフィ、明日午前中だけ一緒に城の外に出てみないか?」
「え?」
「もちろん、警護もしっかりつける」
「えええ!? で、で、ででも……」
私はお母様とジェラルド兄様に視線を向けた。兄様は何か言いたそうだったが、お母様は「いってらっしゃいな」と賛同する。
「お母様、ありがとうございます」
「護衛で私も行く。妹を守るのは兄の役目だからな」
「ジェラルド兄様! 大好き」
「私も愛しているよ。私の可愛い、可愛い、天使!」
ジェラルド兄様に抱きしめられ、私も背中に手を回す。だが数秒後にフェイ様によって兄様から引き剥がされ、後ろから抱きしめられる。
「まったく、兄弟のスキンシップも我慢できないのか」
「五秒は我慢しただろう」
「それは我慢と言わないからな! ……ソフィ、嫌だと思ったら、真っ先に兄様に相談しなさい。全力で守ってあげますから」
「に、兄様……」
「ソフィ。もし兄妹とはいえスキンシップが過ぎるようなら、真っ先に私に言いなさい。全力で潰すので」
「フェイ様、発言が物騒です」
「そうですか?」
私は苦笑いを浮かべて答えた。ジェラルド兄様とフェイ様は互いに文句を言い合っているが、仲がいいからこそ出来るものだ。男の友情というものだろう。
兄様と母様は先に退出した。そののち、
「おやすみ、ソフィ」
「はい、おやすみなさい」
フェイ様が少しだけ寂しそうに微笑むのを見送った。
部屋のドアが閉じかけた瞬間、私は衝動的に数歩前に出る。ドアノブを開いて、部屋の外へ──。
「フェイ様」
今度は私からフェイ様の背中に抱きついた。パタン、とドアが閉まる音が後ろで聞こえる。
驚いた彼は少し慌てて私を見ようと振り返り──そのタイミングに合わせて、背伸びをする。そうしないと届かないからだ。
「ソフ──ん!?」
ついばむようなキスは、拙くて上手くできたとはいえない。けれど初めて不意打ちのキスが成功したのだ、頑張ったと自分にいってあげたい。
「おやすみなさいのキスです」
「…………」
無反応。何か失敗してしまった?
けっこう勇気を振り絞ったのだけれど、こうもっと大人っぽい雰囲気のあるキスのほうがよかっただろうか。大人のキスがどういうものか、今一つ分かっていないのだけれど。あれよね。長くキスするとか。
「………………」
時間が経つにつれ不安が広がり、急激に恥ずかしくなった私は逃げるように部屋に入り「その、おやすみなさい」といってドアをそっと閉めた。
心臓の鼓動がドクドクと騒ぎ煩いままだ。少し落ち着こうと座り込もうとした瞬間、ドアが勢いよく開いた。
「ソフィ!」
「ひゃ──はい!?」
フェイ様は瞬時に距離を詰め──腰に素早く手を回して、私を抱き寄せる。
なんだかスペード夜王国に来てからずっとくっ付いている。前よりもフェイ様が近くに感じられて嬉しくて、くすぐったい。この温もりが好きで、安心する。自然と背中に手を回した。
「やってくれたな」
「嫌……でしたか?」
「まさか。とても嬉しくて──ああ、駄目だな。上手く言葉が出てこない」
「ふふっ、それなら私も勇気を出した甲斐がありましたわ」
こつん、と額をくっ付けると、唇に触れるだけのキスが落ちてきた。
「愛している」
「私も愛しております」
幸福なひと時。
それが明日も当たり前のように続くのだと、その時の私は信じて疑わなかった。
そしてその切実な願いが、いとも容易く砕け散ることを私は知らない。
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