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第66話 第一王子はポンコツでした

「うおおおおおおお! その腕輪を寄こせ!!」


 突然、後ろの廊下から走ってくる音がしたと思ったら、第一王子が突っ込んでくるではないか。しかも目は血走っており、その手には鈍色に光る刃物が見えた。


「!?」

「ソフィーリア様は、お下がりください」

「おおおおおおおおおおお!」


 素早くローズが私の前に出る。第一王子が近づいた瞬間、ローズではなく執事服を着こなした妖精の護衛者(スプリガン)が取り押さえた。


「え」


 突然現れたのでびっくりしたが、護衛者として私の傍に居たのだろう。ナイフを捨てさせると、そのまま片腕を折った。普段は優しい老紳士なのだが、まったくもって容赦がない。


「があああああああ!」

「ご無事ですか、ソフィーリア様?」

「ええ、貴方のおかげで無事よ。ヤマさん」

「それはよろしゅうございました」


 騒ぎを聞きつけて衛兵たちがすぐさま現れた。しかし暴れ出したのが第一王子だと知り、衛兵たちは尻込みしてしまう。喚き散らす第一王子を取り押さえるように指示する者がいないからだ。


(他国の私が指示を出してしまおうかしら)

「何をしている。すぐさまその男を独房に放り込んでおけ!」


 手厳しい──妙な声だった。知っている声に似ている。

 指示した人物が気になり振り返った。目に飛び込んできたのは黒髪に、アメジスト色の瞳、凛々しい顔立ちはまさしくフェイ様だった。

 だが何かが引っかかる。感覚めいたものだったので、確証はない。


「これは、第十王子!」

「しょ、承知しました!」


 衛兵はきびきびと動き出した。騒ぎ立てる第一王子に縄をかけて縛り上げる。


「無礼者! 俺を誰だと思っているんだ!? 医者を呼べ。あの女を捕えろ!」

「自国の娘ならいざ知らず、他国の王族に無礼を働いて父上が何もしないなどあり得ないでしょうに。そんなこともお忘れになったのか」

「だ、黙れ。出涸らしのお前が居なければ──」

「さっさと連れていけ。その男は直に王族の座も失うのだ、遠慮はいらない」

「ハッ!」


 王子は引きずられるようにして、衛兵たちに連れていかれた。自業自得とはいえ、連れていかれる姿を見つめる。誰も注意しないで好き勝手に生きてきた大きな子供のよう。

 環境と周囲の人が違えば、こうはならなかったのではないだろうか。例えば……フェイ様のように。そんなことを想っていると、私の傍の誰かが歩み寄った。


「大丈夫だったか、ソフィーリア」

「……()()様?」


 私の言葉に彼は安堵の笑みを浮かべた。


「君が心配で……。部屋に行ったら誰もいなくてね」

「妖精たちがいたと思いますが、誰もいなかったのですか?」

「……ああ」

「そう、でしたか」


 黒のカンフクに身を包んだ青年は、私に手を差し出す。だがその手を掴む気にはなれなかった。違和感は先ほどの返答で確信めいたものとなる。


「第一王子もこれで終わりだろう。他国の王族に無礼を働いだのだから」

「…………」

「失礼。貴女の前で話すことではなかったね」

「いえ」

「部屋まで送ろう」

「お気持ちだけで結構です」


 食い気味だったかもしれないが断る私に、青年は心底驚いた顔で見つめ返す。


「しかしソフィーリア……。私たちは婚約者なのだから、もう少し私と一緒にいる時間を作ってもらえないだろうか。二人きりで、お互いの事を理解したい」

「冗談にしたいのなら聞き入れましょう。けれど、まだ私をからかうおつもりなら、第一王子以上に容赦しませんが、よろしいでしょうか」


 女王としての態度を維持したまま、フェイ様に変装した青年に問う。艶やかな黒髪、アメジスト色の瞳に整った顔立ちは確かにフェイ様の姿によく似ている。


 だけれど別人だ。話し方、そしてなによりこういった手口を使う人物をフェイ様から聞いていた。しかし彼はフェイの変装を続ける。


「酷いな。貴女が心配だったので、迎えに来てあげたというのに」

「はあ」

「けれどせっかくスペード夜王国まで来てくれたんだ。第一王子の用意した部屋ではなく、もっといい部屋で、可愛がってあげましょう」


 甘い声だというのに、そこには不純な感情も伴っており背筋がゾッとした。

 本物のフェイ様に言われるのと雲泥の差だ。違和感が一つ見つかれば、綻びは早かった。


()()()()()()()()()、ダイヤ王国の次期女王を欺くとはどのような用件でしょうか。ことと次第によっては、不敬と捉えますがよろしいですか?」

「……!」


 今までの笑顔が完全に消え去った。

 これで決定打である。フェイ様のポーカーフェイスを見習ってほしい。


「ソフィーリア、これは──」

「もう結構です。抗議文は明日にでもグエン国王陛下に出させていただきます」


 話を切り上げた私に対し、青年は忌々しげに睨みつけた。


「──っ、証拠はあるのか。私が第二王子だという証拠が」

楽しんでいただけたのなら幸いです。

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