第65話 礼節の欠いたお茶会の末路・後編
「お断りします。交渉ではなく、脅迫に当たるということをご存じでしょうか。国家間での今回の行為は四か国同盟において『脅迫罪』、『毒殺未遂』、および次期女王とその婚約者に対する不敬罪に該当します。その罪状を次回の四か国会議で書面として抗議させて頂きますが──よろしいですか」
「な──」
「今ここで謝罪するなら、許して差し上げますが、その気はありますか?」
私が言い返すとは思っていなかったのか、正妃の顔がやや引きつった。
「ふ、ふふ……。ずいぶんとはっきり喋れるのね。それとも強がりかしら?」
「いいえ」
「生意気ね。まだ自分の立場が分かっていないのかしら?」
「その言葉をそっくりそのままお返しします。申し訳ないのですが、私には毒は効きません」
嘲り笑っていた彼女たちの声がピタリと止んだ。
「え?」
「は?」
正妃と第一王子の声が重なった。二人とも目を丸くして絶句していた。
「妖精や精霊の加護範囲が、ダイヤ王国だけだと誰が言いましたか?」
「え、な──」
「あなた方の要求が、いかに破綻しているかお分かりになりました?」
私はニコニコと微笑んでいたが、女王としての仮面をつける。刹那、目が合った正妃は「ひい」と小さく悲鳴を上げた。次期女王として品格、覇気、毅然とした態度を示す。
張り詰めた空気に、愚かな彼女たちは自分たちが「誰」に喧嘩を売ったのか、ようやく気づき始めた。もっとも王都に到着する前にある程度、王妃はもちろん王子たちの情報をフェイ様と父様たちが調べていたので、この展開は予想していた。
「妖精王や精霊の加護のこともご存じなかったのですか? ハート皇国、クローバー魔法国の者なら誰でも知っていることですよ」
「な、なにを──」
「あら、私はダイヤ王国の次期女王よ。この程度の児戯で一々驚かないでほしいわ。外交する上で基本のキも出来ていない正妃と、その王子では王位継承など夢のまた夢でしょうに。少なくともダイヤ王国は貴方がたの王位継承権剥奪をグエン国王に進言させて頂きます」
自分でも驚くほど淡々とした言葉が出てくる。そこに感情の起伏はない。
王妃の顔色が土色に変わっていくが、それに対してなんら感情は動かない。自業自得と割り切る自分がいた。
「馬鹿なことを! 貴様が何を話したところで証拠などない。この場にいる全員が、そう証言すれば黒も白に変わるのだ!」
カップをたたき割って吠えたのは第一王子フジヨウだ。
時間跳躍の時間軸でアレクシス殿下の怒号や、兵士の声を聞いてきたせいか全く怖くない。むしろ子犬が一生懸命吠えているように聞こえる。
「ちょ、藤陽。貴方は黙っていなさい」
私は茶番を終わらせるため、切り札の──腕輪のボタンを押した。
『思ったよりも毒の周りが早いようね。どう? わたくしが特別にあつらえた中毒性の高い毒は。無味無臭。指先が震えて、呼吸もつらいのでは?』
『流石、お母様です』
『ふふ、これも可愛い息子が王位継承権を得るためだものね』
王妃の声を遮ったのは自分と同じ声だった。そしてその音声の出どころは、私の付けている腕輪から発せられている。
「これは音声と動画を録音する魔導具です。私だけの話では国王陛下が信じてくれないかもしれませんし。変に言いがかりや、濡れ衣をかけられても困りますからね。証拠としては十分でしょう」
「そんな……そんなことが……」
「ぐう」
王妃は震えるばかりで、その場に座り込んでしまった。王子は顔を真っ赤にして鋭く睨みつけるが、これ以上叫べば自分がさらに不利になると気づいたようだ。
「それでは王妃様、第一王子様もごきげんよう」
私はドレスの裾を掴むと優雅に礼をして東屋を出る。
水路を挟んで渡る廊下は、なんとも新鮮だ。木材で出来た足場は思いのほかしっかりしているた。
これで第一王子の王位継承権は消えたようなものだ。下手に権力を残すと反乱や暴動などを起こしかねないのだが、その辺はフェイ様が手を回しているそうだ。
(六年前、この国に居場所がないと言っていた人の発言とは思えないわ。……でも、頑張ってそう言えるだけの人になったのね。それが──、婚約者として嬉しい)
そんな風に思いながら私は部屋に戻る。
しかし、この時の私はさらなる面倒ごとに巻き込まれることを知らなかった。
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