第64話 礼節の欠いたお茶会の末路・前編
高そうな白い陶器のティーカップに触れた瞬間、取っ手が折れてそのまま落下。
かしゃん、と音を立てて割れた。
「あ」
「きゃあああ、なんてことを!」
「その陶器は特別なものだというのに……!」
(うん、やっぱり穏便に済みそうもないわね)
遡ること数分前──。
ギスギスとしたお茶会は、水の庭園の東屋の一角で行われた。ダイヤ王国で呼ばれたのは、本当に私一人のようだ。隣に侍女のローズが付き添っているが、歓迎された感はない。
みな美人と言えば美人だ。目鼻立ちは整っており正妃というのも頷けるし、王女たちも美しい。艶やかな宝石とアクセサリー、絹で作られた異国の民族衣装は華やかだ。正妃と傍に居る王女たちも目一杯着飾っているが華美すぎる。よく見れば第一王子の姿もあった。
あまりにも不躾で、見下した視線が嫌でしょうがなかった。
(ふぐっ……フェイ様に会いたい)
早々逃げ出したい気持ちでいっぱいになる。普通は表面上だけでも笑顔で取り繕うものなのだが、彼らには社交性は勿論、外交でのマナーも弁えていないようだ。
ここがスペード夜王国の城という、たったそれだけで、何もかもが思い通りになると思っているのだろう。
席に座りお茶を進められてカップに触れた瞬間、勝手に陶器が滑り落ちたのだ。それを彼女たちは私の落ち度としたかったのか、それとも取っ手に付着した即効性の毒が効いたと思ったのか、ケラケラと笑っている。
あまりにも品に欠けた笑い声だ。
(よ、予想以上に毒々しいお茶会だわ。……いや、真っ先に毒を盛られるなんて思ってなかった。何ここ、すごく怖い! まあ既に部屋に四つも毒を仕込ませているのだもの、この毒茶も挨拶みたいなものなのかしら。そういえばフェイ様が昔、私に毒見係がいないことを知ってとっても驚いていたわね)
ダイヤ王国の王族は常に妖精の加護があるので、毒効果は無効化されるのだ。今回のように他国に居る時でも例外はない。しかし過保護な妖精王は、万が一を考えてドライアードとウィンディーネたちに頼んだようだ。
そのため先ほどティーカップを落としたのは、加護の影響も関係している。「これは絶対に飲むな」と。
「まあ、それはグエン国王が正妃様に贈られた陶器だというのに、割ってしまうなんて」
「これだから異国人はマナーがなってないのです」
「本当に品のない。それに私たちに贈り物もないなんて」
「母上が以前に仰っていた通り、頭の足りない次期女王だ。だからこそ姑息な手で婚約者に収まった役立たずでも務まったんだろう」
「……!」
私のことなら別に何とも思わない。しかし仮にも同じ王族で、半分は血の繋がりのある弟に対しての侮辱の言葉は看過できなかった。自分の中で『ブチッ』と血管が切れたかのような音が聞こえた。
(フェイ様の親族であることは変わらなかったので、あまり気乗りしなかったのですが……。気にする必要なかったですね)
私が黙っているのを、臆病で言い返せない気弱な次期女王と勘違いしたのか、その後も散々好き勝手なことを口にする。彼女、彼らは悪意しかない。
「思ったよりも毒の周りが早いようね。どう? わたくしが特別にあつらえた中毒性の高い毒は。無味無臭。指先が震えて、呼吸もつらいのでは?」
(あ、自分で毒って言ってしまっている。私が録音機能のある魔導具を持っているとか思わないのかしら?)
フェイ様を相手取る気持ちでいたので、なんだか拍子抜けをしてしまう。よくよく考えれば、あの方に舌戦で勝ったためしがない。フェイ様を苦しめる相手ということで、かなり狡猾な相手だと思っていたのだが、そうでもなかった。
「流石、お母様です」
「ふふ、これも可愛い息子が王位継承権を得るためだものね」
親が親なら子供も子供といったところだろうか。
詰めが甘すぎる。でも勝手に話してくれそうなので私は黙ったままにすることにした。ローズも空気を読んで黙っている。
「さあ、ここに二枚の契約書があるわ。一つは私の息子が次期国王となるよう、惜しみなく援助をすること。次にダイヤ王国の宝石類をスペード夜王国正妃、つまりわたくしに定期的に貢ぐこと。これにサインをしてくれれば、毒の中和剤をあげましょう」
露骨な嫌がらせに、引いた。母様とジェラルド兄様、そしてフェイ様がいたら、この段階で完膚までに叩きのめしていただろう。
(いなくてよかった。できるだけ血を見るような決着は嫌だもの)
どうにか穏便にお茶会を退室したいが、ここで引き下がって弱さを出せば、今後も同じ手口をするのは明白だった。いまだに自分の立ち位置を理解していない彼女らは、自国で好き放題やってきたのだろう。
礼節の欠片もない。第一王子が王太子とならなかったのは当然と言えた。
「そうやって気に入らない人たちを無理やり従わせたのですね」
「な──っ! おほほほほ、やせ我慢は体に良くなくってよ! さあ、早くサインすると言いなさい!」
核心を突かれると人はさらに凶暴で嗜虐的な言葉を使うようだ。もはや人の声というより獣に近いだろう。人の皮を被っただけの得体のしれない何か。
そんな相手に私は、朗らかに微笑んだ。
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