第61話 婚約者様は有能・前編
「うう……。初めての旅行がぁ……」
「国王の無茶ぶりにソフィを巻き込む形になってしまって、申し訳ない。……まさか後継者選びを急ぐあまり悪手に出るとは……賢王じゃなくて愚王じゃないか」
「フェイ様?」
表向きは気楽な旅行だったが、一気に責任重大な役割を引き受けることになったのは致し方ない。
この際出来るだけ穏便に済ませられるように動こう。それで問題ないはず。
「いいかい、ソフィ」
「は、はい」
「スペード夜王国の王族は、基本的に自意識が高く、プライドが高い上に強欲だ」
(知っています!)
「その上、自分以外の者を侮り、嘲笑う者が多く、自分が優位にいると信じ切っている」
「ええ……。十年前にパーティー会場で挨拶をした時から、なんとなくは思っていました」
「そっか。そういえば挨拶はしたことがあったんだった」
妖精たちが第一から第三王子まで強制転移魔法を使ったのは忘れていない。
そして向こうの王子たちも、きっと覚えているだろう。根に持っている可能性だってある。
「もし何か嫌な事をされたら、ちゃんと私に話してくれ」
「はい」
「私が、なんとかするから」
目が笑っていない。
六年前、「政治的地位がない」といっていたフェイ様とは違う。今なら他の兄王たちにだって負けないのだろう。最近はジェラルド兄様と一緒になって、何か企てていたし……。
「私がダイヤ王国とクローバー魔法国との外交を掛け持ちしているのだが、私以外の王族との交流がかんばしくないのだ。特にハート皇国、クローバー魔法国共に王族の評判がすこぶる悪い」
「そ、そんなに酷いのですか?」
ダイヤ王国はそもそも入国そのものが難しいので、そう言った手合いの心配はないが、他国は違うのだろう。
「スペード夜王国はハート皇国とは異なり海に魔物がいないので、漁での魚を取ることは可能だ。そのためハート皇国では魚介類の取引が数年前まであった……」
数年前まであった。
過去形だ。つまりは「今」は行っていないということで、この話の流れを鑑みても交渉決裂になった原因は──。
「王子たちが外交で失敗した? 単なる交渉決裂ではなく、ハート皇国を敵に回すようなやり方をスペード夜王国が行ったのですか」
「その通りだ。愚かな兄たちだと思っていたが、ここまで馬鹿だったとは思わなかった。私はいずれソフィの所に婿養子になるのだから、ダイヤ王国以外の国は他の者に任せた方が良いという案が出て引継ぎをした結果がこれだ」
「ですが人選の段階でフェイ様が、王子たちを選ぶとは思えないのですが……」
「ああ。最初に任せていたのは、もちろん王子たちじゃない。伯家の者とスラム街校正プログラムの一環として、外交関係の知識を叩き込んだ者たちに任せた。双方ともに実技試験など受けてもらって、厳選した人材を選んだ」
フェイ様の話を聞いていると、いかに有能かがわかる。礼部は外交と教育を司ると聞く。人の育て方や扱い方など適材適所をよく理解していた。
「フェイ様が積み上げた実績を自分の手柄にしようとして、失敗なさったのですね。ですがそれだと、雇った者たちは仕事がなくなってしまい生活が大変なのでは?」
「今はハート皇国との貿易が出来なくなっているので、ダイヤ王国との外交と、別の仕事などに就けるようにしている。だが数年後には見込みがありそうな人材を、ダイヤ王国に迎えられないかどうかジェラルドと協議しているところだ」
「まあ、そうだったのですね」
仕事の話をしている時のフェイ様は生き生きとしている。スペード夜王国の民の事を考えて、対策をしっかり立てていく、その姿勢は為政者としてあるべきではないだろうか。
「フェイ様が国王になれば、スペード夜王国は安泰になるのでは?」
口に出した瞬間、私は自分の失言に気づき唇を両手で覆った。刹那だったけれど、フェイ様の瞳が大きく見開いたのに気づいた。
謝らなければ。
そう思ったのに、声が出ない。
楽しんでいただけたのなら幸いです。
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