表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/53

第5話 微かな希望を持って

 十五歳の誕生日で王の適性がないと知ったジェラルド兄様は、絶望と共に公務に縛られないことに安堵していた気がする。でも、もし少しでも政治に興味があるのなら──。


「数学しか興味のない私に、宰相なんて大役が務まるとは思っていないよ」

「そんなことないです。頭の回転が速いですし、兄様の計算式は今後ダイヤ王国にとって貴重なものとなりますわ! 優良人材です!」

「そう……かな?」


 ジェラルド兄様は眉を八の字にして困ったといった顔で微苦笑する。


「私はいてもいなくても、この国にとって意味などな──」

「意味はあります!」


 思わず叫んだ。

 十二回繰り返された時間軸で、私は兄様の才能の片鱗を傍で見てきたのだ。だからあの兄様の才能を馬鹿にすることは兄様自身でも許さない。

 十二回目の時、兄様は宰相補佐として政治に関わっていた。「もっと早い段階で関わっていたら」と、戦争が起こったときに嘆いていた兄様を私は忘れていない。

 兄様の最期を思い出して、グッと涙を堪えた。


「ソフィ?」

「たとえば感染対策による数理シミュレーションだと、人一人が何人に感染するかなどの指数関数というのを理解しているかどうかで、国としてどのように対応するかの指針を早めに決めることが出来ます。また他国で飢饉に陥った時に、人口数に対しての一日平均でどれだけの食料援助が必要か、その運搬の距離や時間なども数学に明るい者がいるかいないかで、全然違います! ジェラルド兄様ならこの問題の意味が分かるでしょう!」

「y ・ ax で表される関数を、ソフィは理解しているのかい?」

「え、あ、はい?」


 まったく分からないけれど、頷いてしまった。

 どっと冷や汗が噴き出す。


(どういう計算式かとか聞かれたら絶対に答えられない!)

「さすがソフィだ。着眼点がすごい。これはすごいことだよ!」


 十二歳の子供がわかるはずのない知識だが、ここはジェラルド兄様を味方に引き入れるためにも知っている風で通すことにした。


(y ・ axってなんなのか全くわからなかったけれど、兄様の表情が明るくなってよかったわ!)

()()で私を宰相に推薦するなんて……さすがは私の妹だよ」

「ん?」


 今「八歳」という単語が聞こえたのだが、空耳だろうか。


「ああ、王になれなくとも宰相という形でソフィ()を支え、裏で策謀を巡らせるのは中々に面白そうじゃあないか。フフフッ……」

「え、あの……兄様?」


 兄様はなんだか変なスイッチが入ってしまったようで、悪そうな笑みを浮かべている。生き生きとしているのは嬉しいのだが、ちょっぴり心配だ。


「ありがとう、ソフィ。これで明日、誕生日パーティーで堂々とできる」

(誕生日パーティー? 堂々とできる……?)

「これで私に王位継承権がなくても、父上や母上、ソフィの役に立てるな」

「兄様」


 ジェラルド兄様の言葉に、心臓の鼓動が早まる。

 私が今まで巻き戻った時間は一五〇五年七月、私の十八歳の誕生日だ。


 同日、女王に即位し、その年の十二月に婚約破棄と四か国同盟が白紙になる。巻き戻ってもたった一年、いや数ヵ月では、婚約破棄や他国との信頼関係を回復することは難しかった。


(最初は十二歳だと思っていたけれど、六年じゃなくて、十年も巻き戻っていた?)


 ごくりと緊張が走る。

 本当に十年前なのか、確かめなければならない。私はあどけない子供っぽさを出しながら、兄様の年齢を尋ねることで確証を得ることにした。


「兄様は、明日で何歳になられるのですか?」

「明日で十五歳だよ。こんな私でも祝ってくれるかい?」

「! ……もちろんですわ」


 考えるまでもない。すんなりと言葉が出てきた。


「私にとってジェラルド兄様は大好きな家族ですもの! 兄様は凄くて素晴らしい方だと明日の誕生日パーティーでみせつけましょう!」

「ソフィ! ああ、お前は私の未来を明るく照らす可愛い、天使だよ」


 現状を冷静に整理する。

 ジェラルド兄様が十五歳。

 つまり今の私は八歳であり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。この段階ですでに思考回路がパンクしそうだ。


(兄様。……今まで女王として不甲斐ないばかりに父様や母様、兄様に迷惑をかけてしまった分、この時間軸では絶対に同じ末路にはさせない!)


 十二回の時間跳躍(タイムリープ)の中で、婚約破棄や四か国同盟解除となった愚かな女王だったのに、家族だけは私を見捨てなかった。

 最後の最後まで私を擁護し、私の目の前で死んでいった。


 ダイヤ王国の滅亡が迫る中、兄様は「私が妹を支えていたら!」と泣いて詫びたのだ。恨まれても仕方ないと思っていたのに。しかし幸いにも、この時間軸で兄様を宰相にするという指針を指し示すことが出来たのは僥倖と言える。

 子供の口約束でも、今は言葉にして言質を取っておきたい。


「ジェラルド兄様、私が女王になったら宰相としてしっかり支えてくださいね! お兄様なら四ヵ国随一の宰相になりますわ!」

「ああ。もちろんだとも!」

(これで国の強化はもちろん、情報収集がはかどるはず! 一歩前進だわ)


 もはや女王だから一人で何でもやろう、という矜持はゴミ箱にポイした。そんなのよりもどうやって生き残るかだ。


(十三回も繰り返して、やっとこの結論に辿り着くなんて、本当に私は女王に向いてないわ)

「……ソフィは私が王に就けば、自分が自由になるって思わないのかい?」

「ジェラルド兄様……」


 私だって女王にならなくていいのなら、なりたくない。

 自由でのんびり静かに暮らしたい。

 けれどその筋書きは用意されていないのだ。


「王なんて面倒で、好きなことができない貧乏くじだよ。なにより他国との面倒ごとも処理しなきゃならないし、他国の王族貴族たちの悪意ある言葉で傷つくことも増える。だから、ソフィにはそんなつらい役割を担わせたくなかった」


 悔やむような声に、涙がにじむ。

 ジェラルド様がそんなことを考えていたなんて、全く知らなかった。


「兄様は……てっきり私の事を嫌っている、恨んでいると思っていました」

「そんなことは無い! ソフィは純真無垢で、お人好し過ぎる。今だってハート皇国の早馬が火急の件で面会を求めて、一悶着起きているのだ。それを今後、ソフィが玉座に着いたら上手くできるか──だから宰相の道はずっと考えていたのだけれど、踏ん切りがつかなかった」

(ハート皇国からの早馬ってなに!?)



楽しんでいただけたのなら幸いです。

下記にある【☆☆☆☆☆】の評価・ブクマもありがとうございます。

感想・レビューも励みになります。ありがとうございます(ノ*>∀<)ノ♡


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

(↓書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください↓)

https://potofu.me/asagikana123

html>

平凡な令嬢ですが、旦那様は溺愛です!?~地味なんて言わせません!~アンソロジーコミック
「婚約破棄したので、もう毎日卵かけご飯は食べられませんよ?」 漫画:鈴よひ 原作:あさぎかな

(書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください)

html>

【単行本】コミカライズ決定【第一部】死に戻り聖女様は、悪役令嬢にはなりません! 〜死亡フラグを折るたびに溺愛されてます〜
エブリスタ(漫画:ハルキィ 様)

(↓書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください↓)

https://potofu.me/asagikana123

html>

訳あり令嬢でしたが、溺愛されて今では幸せです アンソロジーコミック 7巻 (ZERO-SUMコミックス) コミック – 2024/10/31
「初めまして旦那様。約束通り離縁してください ~溺愛してくる儚げイケメン将軍の妻なんて無理です~」 漫画:九十九万里 原作:あさぎかな

(書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください)

html>

コミカライズ決定【第一部】死に戻り聖女様は、悪役令嬢にはなりません! 〜死亡フラグを折るたびに溺愛されてます〜
エブリスタ(漫画:ハルキィ 様)

(書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください)

html>

攫われ姫は、拗らせ騎士の偏愛に悩む
アマゾナイトノベルズ(イラスト:孫之手ランプ様)

(書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください)

html>

『バッドエンド確定したけど悪役令嬢はオネエ系魔王に愛されながら悠々自適を満喫します』
エンジェライト文庫(イラスト:史歩先生様)

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ