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第35話 打ち明けた記憶

「……ソフィ、もう体調はいいのか?」

「はい。ご心配をおかけしました」


 ぺこり、と頭を下げる。シン様の視線に私は小首をかしげた。

 いつもと何かが違う。そう思って観察すると、真っ直ぐに向けられた瞳はどこか憂いを帯びていて、儚げだ。自分の気持ちを吐露しないシン様の心内を理解するのは難しい。


「シン様?」

「いや。ソフィは大人びているから本当に十二歳なのだろうか、と思っていた」

(うっ……)


 思わず目線を逸らしてしまった。


「だからソフィが泣き出したあの日、驚いたのと同時に安心した」

「?」

「ああ、背伸びをしているけれど小さな女の子なのだな、って思えて──余計に愛おしくなった」

「!」


 この人はどうして狡いのだろうか。

 知らない間に私の背中を押してくれる。


「私が、あの日泣いたのは……その、理由があって」

「どんな?」


 私は溢れる思いを必死で抑えながら、冷静に六年後に何が起こるのかを語った。

 さすがに十二回ほど時間跳躍(タイムリープ)を繰り返しているという話は突拍子もないので、省略した。あくまで予知夢めいたものだと強調し、《《幼いころに何度も繰り返し夢で見たと伝えた》》。

 こちらの方がまだ現実味があるだろう。


「ソフィが十八歳の時に、私が婚約破棄と四カ国同盟解除を告げる。……だから婚約の話を阻止しようとしたのか」

「はい。その影響で怒った声や人に睨まれると、夢を思い出して体が硬直してしまうのです」


 正確にはシン様、エル様、アレクシス殿下の三名なのだが、それは伏せる。私はそれからダイヤ王国滅亡までのあらましを、ざっくりと語った。

 話し終わると部屋は静寂に包まれ、重苦しい空気が流れた。


(全部話しちゃった……。信じて、くれる……かしら)


 不安で私はシン様の顔が見られず、視界を下に落とす。

 ふとそこで、今日は一度もシン様の心の声が聞こえないことに気付く。


(いつもは意識しなくても聞こえてくるのに……? どうして今日に限って聞こえないの?)


 もっと早く声が聞こえないことに気付いていれば、反応が分かったはずなのだが気持ちが急いて冷静な判断ができないでいた。そのことを後悔する。


「……ソフィ。なぜ婚約の時ではなく、今話をしてくれたのか聞いてもいいか?」

「え」

「もし話すのなら、婚約の時に話せたはずだ」

「それは……」


 シン様の声は掠れており、困った顔で私を見つめ返す。その反応に目を見開いて驚いた。


(今の話を信じてくれた上で質問している?)


 一蹴されると思っていた。

 子供が見た夢だ、と。くだらない、と言われるかもしれないと、身構えていた。

 彼が向けてくれる思いに応えたい。未来に怯えるだけじゃなくて、踏み出すために──私は顔を上げてシン様と目を合わす。


「この三カ月で、夢に出てきたシン様と、目の前にいるシン様の雰囲気が違うから……。もしかしたら、シン様に協力して貰えるかもしれないと思ったのです」

「……協力?」

「はい。(本当はシン様に裏切られた……のだけれど、それを言う勇気はない)……私の目的はダイヤ王国の繁栄です。だから個々人の気持ちよりも、国の存続を優先します。スペード夜王国が婚約破棄を皮切りに、我が国を滅ぼそうと考えているのなら、是が非でも回避したい。もう殺される夢を見るのも、裏切られるのも嫌だったので」

「は?」


 シン様は眉を寄せ、頭痛でもするのか頭を抱え込んでいた。頭をくしゃくしゃにかき乱すと、ジッと私を睨んだ。鋭いアメジスト色の瞳に怯む。


「だから、あんなに婚約を拒んでいたのか」


 一語一語を強調して聞き返す。


「はい。最初はこれ以上好きになったら、裏切られた時に立ち直れなくなってしまいそうだから──苦肉の策として色々と条件を付け加えさせて頂きました」

「……!」


 消え入りそうな声だったが、頑張って気持ちを伝えた。

 好きになりかけている。いいやルイジェ嬢に嫉妬した段階で、答えは出ていたのだ。


「その……今まで、シン様に気持ちをお伝えできなかったのですが……。えっと……」

「それは──私のことを、好いていると受け取ってもいいのか?」

「…………………………………はい」


「好き」という単語に対して、私は体が熱くなる。きっと私の顔は真っ赤になっているだろう。恥ずかしくて死にそうだが、ニヤリと口元を綻ばせたシン様は悪戯を思いついた子供のように無邪気に笑った。


「……ちなみに私のどこに惹かれたたんだい?」

「答えたら……その」


 シン様はニッコリと微笑む。

 これは答えるまでは逃さないという顔だ。私の知るシン様はこんな風に意地悪なことを言う人ではなかった。

 婚約者として完璧な振る舞いをする。素の表情も、笑顔すらあまり見せるような人ではなかった。物静かで、でも優しくて、大事にしてくれた──そんな人だ。


「…………全部です」

「!」

「私の夢で知っているシン様とは違った今のシン様に──惹かれたのだと思います。感情豊かで、いろんな顔をなさってくださったから、もっと見たいと欲がでました。それに私に向けてくれる眼差しや、労いの言葉や、愛しむ行動一つ一つが私に勇気と、少しだけ希望を持たせてくれたのです」

「ソフィ、それは私のセリフだ」

「え?」

「私は貴女が居たからここにいる。貴女があの日、気まぐれに発した言葉でここにたどり着けたのだから」

「私の?」


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