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第30話 夢が一つ叶いました

 ぶんぶんと首を横に振りたいが両手で固定されているので出来ない。申し訳ないけれど、名前呼びは是が非でも拒絶しなければならない。


 数秒ほど見つめ合っていたがシン様は私から離れると、そっぽを向いてしまった。怒ったのかと身構えたが──。


「わかった。気長に待つよ」

「……ありがとうございます」


 思っていた以上に、声のトーンが暗い。「嫌ではない」と口にしたいのに、なんだか言い訳みたいで言葉が喉元で止まってしまう。

 名前呼びなんてしてしまったら、それこそもう引き返せない。たったそれだけなのに自分がシン様にとって特別だと勘違いして、封じた想いが溢れてしまう。


 この気持ちは芽吹かせてはいけない。

 気づいてはいけない。揺れ動く程度で収めていくべきだ。

 何も言わない方がいいとわかっているのに、私は口を開いた。


「あの……シン様」

「なんだ」

「……嫌いとかではないですから。どちらかと言うと……その……好ましいというか」


 消え入りそうな声だったので、シン様に届いたかどうかはわからない。

 

(──って、言わなくていいことまで!)

「ソフィーリア(ソフィが私を!!)」

「!」


 掴んでいた手を引かれ、抱きしめられる。シン様の温もりに、心臓の鼓動がうるさく騒ぎ立てる。


「し、シン様!?」

「不意打ちとは、本当に油断も隙も無い」

(不意打ちはシン様じゃ?)

「(可愛いすぎる。しかも照れて顔が真っ赤なところもまた良い!)本当に私の婚約者は、可愛らしい。愛しているよ」

「……!」


 体中の血液が沸騰しそうなほど、熱くなる。

 きっと顔は真っ赤だろう。

 ドキドキする。嬉しい─────違う。

 これは驚いたからだ、と必死で自分に言い訳をする。


「からかわないでください」


 蚊の鳴く声で反論するのが精いっぱいだったが、上機嫌になったシン様は歯の浮くような言葉を口にする。


「(どうすればソフィがすごくすごく好きで、片時も離れたくないほど、重苦しい愛情が伝わるんだ? いや束縛しすぎると嫌われるって本にも書いてあったしな)からかってなどいない。私の想いが本物だということが、少しでも伝わってくれるとありがたいのだが」

「シン様……」


 婚約者との入場は、思いのほか胸が躍った。気持ちを消そうとしても、気づくとシン様を見てしまう。

 シン様のエスコートは完璧だったし、挨拶も上手くできた。その後のダンスだって、シン様がリードしてくれて、楽しく踊れたのだ。


「やっと夢が一つ叶った」

「え?」

「なんでもない(昔はずっと遠い場所だと思っていたが、やっとソフィと踊ることができた)」

「(本当に、私とダンスを楽しみにしていてくれた? あのシン様が? ……だったら嬉しいな。私も……)シン様とダンスができて……嬉しいですわ」

「ソフィ……」


 嬉しそうに微笑むシン様の顔が近い。私を見つめて笑ってくれている。続けて五曲も付き合わされるとは思っていなかったが、それでも一緒に踊れて、幸せで泣きそうになる。


 何度繰り返しても気づけばシン様を目に追ってしまう。そのたびに婚約破棄をしたことが、悪夢だったのではないかと思うようになった。

 それほどまでに今のシン様は、とても優しくて好いてくれている。

 自惚れかもしれないが。


(シン様は魅力的だ。その証拠に私がジェラルド兄様と踊っている間に、いろんな人がシン様の周りにいる。次期女王である私に話しかける人はいるけれど、あんなふうに囲まれたことなんてない)

「暗い顔をしているけれど、どうしたんだい?」

「兄様。人の熱気が凄くてちょっと疲れちゃったのかも。……少しバルコニーで風に当たってきてもいい?」

「ああ、挨拶もだいたい終わっているし、構わないよ。戻ってきたら軽食を用意しておこうか?」

「うん、お願いします」


 私は妖精にお願いをして、人気の少ないバルコニーへ移動してもらった。瞬間転移というものだ。これで少しは一人の時間を堪能できる。



 やはり会場内よりも夜風が心地よい。

 満月の空と星々の下、宮殿近くに咲く薔薇の花びらが宙を踊っている。幻想的な風景に私は心が洗われるような気持になった。


(そういえば昔、バルコニーで座り込んでいた男の子がいたけれど、あの人はもう死にたいって思わなくなったかしら?)


 あれからカネレのドライフルーツを袋に入れて持ち歩くようにしている。また会った時に渡せればと思ったのだが、この四年の間姿を見たことはない。

 初めて自分の本心をぶつけた相手。


 八つ当たりだったと、思い返しても恥ずかしい。次に会ったら謝って、話の続きをしたいと思っていた。自分を知っている人よりも、知らない人に話を聞いて欲しかったからなのかもしれない。


「死にたくなる気持ちなんて、私にはわからないわ」


 いつだって私は生きたかったし、死にたくなかった。家族や国を守って、平和な日々を過ごしたい。


(会場に戻りたくないけど、一応今日は主役だから最後までいないと駄目よね。婚約者として仲良しですってアピールもしないとダメだし……)

「貴女がダイヤ王国第一王女ソフィ・グロリア・フランシス様かしら?」



楽しんでいただけたのなら幸いです。

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