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第24話 心の声

(大丈夫。婚約と言っても距離を取って形だけ取り繕っておけばいいのかもしれない。そうこれは契約であり、政略結婚。個々人の感情など必要としない)


 婚約は契約として破滅の象徴ではなく、それを防ぐための楔にする。そういう使い道を今まで取ってきていなかった私の落ち度だ。王族として国家間の摩擦や関係性をもっと注視しておくべきだった。


「(各国と良好名関係を維持していただけで、スペード夜王国の情勢を当時のダイヤ王国が把握しきれていなかったからこそ、十二回も全貌が分からないまま婚約、同盟破棄となった。ハート皇国は逆恨みだったけれど、どうしてスペード夜王国やクローバー魔法国まで同盟を破棄したのか。根本的なことを調べてあげていなかったわ。他国の情報を得るためにも)……わかりました」

「ソフィーリア」

「シン様の希望を入れた形の婚約を結びましょう。ただし結婚時において国家間の関係や情勢もあるでしょうから、その時に話し合いの場を設けることも契約書に書き記させてください」


 保険はできるだけ分厚いほうがいい。自分と国を守るためだと自分を納得させる。私の譲らない姿勢に、シン様はため息を漏らす。


「最初から逃がすつもりはないのだけれど、やはり父が好色漢だと信用が置けないということか」

「?」

「いや、何でもない」


 話を逸らされてしまったが、ここで話を終わらせるわけにはいかない。婚約契約の話をまとめるべく、彼に視線を向ける。


「ええっと、それで……」

「わかった。『結婚はソフィーリア・ランドルフ・フランシスの十八歳の誕生日とする。ただし結婚時期は、国家間の状況に応じて変動を認める。また一方的な婚約破棄は不可であること。万が一破った場合は、国家間での取引は永久凍結とする』これで私も国から脅されたとしても、この条件で婚約破棄されられることはなくなる」

(国から婚約破棄させられる? やっぱりスペード夜王国では──)

「ソフィーリア、今日から婚約者としてソフィと呼んでも……許されるのだろうか」

「!?」

「……っ」


 なんと返事すべきか思い悩んでいると、シン様の足下がふらつき倒れそうになるのが見えた。


「危なっ」

「ソフィ」


 シン様を支えようと駆け寄ったのだが、次の瞬間、私の視界は大きく反転した。

 気付くと私とシン様は長椅子に倒れ込んでおり、私はシン様の上に馬乗り──どちらかというと、押し倒した感じになっていた。


「!!?」


 その場から離れようとしたが、シン様の腕の中で動けない。


「シン様、お戯れはいい加減に──」

「ソフィ……愛してい……る。……やっと貴女に触れられ……」

(なっ!? この状況下で眠った! さっきまでハキハキしていたのが嘘のよう……。ずっと睡魔と戦いながらも自分の思いを伝えようとしてくれた?)


 わからない。

 十三回目の時間軸では全く違うことばかりが起こる。シン様が最初からあんなに優しくて、寄り添うなんて今までなかった。積極的に関わることも、贈り物や気遣いだって――。

 今腕の中に囚われていることだって、ううん。こうやって抱き寄せてもらったことなんてない。


(今ならギュッと抱きしめ返しても誰もみてない……?)


 そっと彼の胸に身を任せる。

 トクトクとシン様の心音が聞こえる。

 息がかかるほど近くでシン様を感じられる日が来るなんて、思ってもみなかった。


 シン様が好きだ。振り向いて貰えなかったあの時間軸でも、同じ空間に居るのが嬉しくて、好きだった。

 いつかシン様としたかったことを、この時間軸のシン様は簡単に叶えてくれる。私を見て微笑んでくれる。そんな姿を見て、ついさっきまで自分の気持ちに蓋をした。

 婚約は契約であり、形だけのもの。

 そう思って、決意したのに。

 腕の中の温もりがあまりにも温かくて、決意があっさり覆ってしまう。王女として、次期女王としてこんなに心を揺れ動かしては、ならないのに――。


「シン様の心の声が分かれば、迷わなくてすむのに……」


 本音だった。

 微笑みながら心の中で刃を向ける人間がこの世界にはたくさん居る。

 それを十二回の時間軸で学んだ。悪意を表に出さずに近づいてくるのを察知できれば――。


『私の愛しい、愛しい人――。それで世界を――してくれるのなら、私がその願いを叶えましょう』

「!?」


 むせ返るような薔薇の香り。

 薔薇の棘に触れてしまったような小さな痛み。

 くぐもっているけれど、甘ったるい――この声は――。


『今度こそ――私の愛し人、貴女を迎え――』

(誰……?)

「(待て。待て待て待て待て。……は? え、なぜソフィが私の上に? 天国? なんだ、この幸せな状況は!)」

「え?」


 頭の中にまた別の声が聞こえてきた。しかも、この声音は――間違いなくシン様だ。

 思わず起き上がった瞬間、シン様とばっちり目が合ってしまった。

 自分でもこの状況に恥ずかしくて一気に顔が熱くなる。


「あっ……(シン様の声が頭の中に? ……というかこの状況をどう説明すれば!)」

「(ああ、なんだ。夢か)なんて幸せな夢なのだろう。ソフィが私に抱きつくなんてありは――」


 シン様がもう片方の手で私の頬に触れた瞬間、感情が爆発して涙がポロリと彼の頬に当たった。


(シン様が私に触れ! しかも心の声が急に聞こえたような?)

「(え。すべすべの肌。体温が熱い。潤んだ瞳、真っ赤にした顔、こんなに愛おしくて可愛い人がどうして私の傍に? これはもしかして眠ってしまった私を心配して毛布を掛けようとしたのに、私が手を引いて――って、腰に手を回している!? そして私がソフィを――婚約した話も、今も――)げ、現実!? そ、ソフィーリア様!?」

「(愛おしくて可愛いって……)――っうぐ」


 飛び起きたシン様はあわてふためきつつも、私を抱き上げて隣に座らせてくれた。シン様の温もりが消えてしまって寂しさと、いろんな感情が渦巻いて涙が止まらない。


「(泣き顔も可愛い。いや、ではなく――)泣かないでくれ」


 シン様は私の涙を拭う。その仕草がとても優しくて、大事にしようとしてくれているのがわかった。そのことでまた胸がいっぱいになる。


(急にどうして、声が? 私が願ったから? ううん、それよりもシン様の声が……温かくて優しい)

「(ああ、ボロボロ泣いて私に手を引かれたのに悲鳴を上げず、私が起きるのを待ってくれていた? これは彼女に好かれていると自惚れても良いのだろうか!?)……ソフィーリア様、その……寝不足で頭が働いておらず、婚約の件も少し(いやけっこう)強引だったかもしれないが、紛れもない本心だ」

「……シン様は、今回の婚約。私のことはどう思っているのですか?」

「(あ。ああああああああああー、好きだとしっかり言葉にしてなかった! ああ、そうか! 私の中では心の中で言い続けていたから、言ったつもりでいた! スペード夜王国では心を殺して本心を徹底して深淵の淵に沈めていたから、相手に対して本音で語ることを減らしすぎていた。こんなにもソフィを愛しているのに……)」

(あい……)


 溢れんばかりの心の声に驚くばかりだ。

 こんなにシン様の心の声は明るく生き生きとしているなんて――知らなかった。


「(ソフィが可愛い。ソフィが可愛い。ソフィが可愛い。ソフィが可愛い。ソフィが可愛い。ソフィが可愛い)……私はソフィーリア様のことを愛している。誰よりも、何よりも思っているから、貴女に会うために――ここまで死なずに生きてきました」

「シン様っ……。私……に、会いたいと思ってくれて……嬉しいです」

「ソフィーリア様、ソフィ」


 ギュッと抱きしめられたことが嬉しくて、聞こえてくる心の声はずっと私への愛を囁いていた。なぜ心の声が聞こえたのか分からない。けれど心の声も、今の言動も全部、シン様の本心だと感じられる。


(少しだけ……シン様を、この時間軸のシン様なら――?)


 その日、私は王女として、はしたなくも泣き崩れてしまった。

 結果、妖精たちまで大慌てで駆けつけ、騒ぎに気付いた兄様と両親も部屋に飛び込んでくる事態に――。


 父様は卒倒。母様は「まあまあ!」と喜び、ジェラルド兄様はすぐさま温かな飲み物の手配などを行い、妖精たちは珍しくオロオロしていた。


「印。あの印が」

「見つかっちゃった?」

「でも愛し子は――じゃないよ?」


 気になる話をしていたが、その時の私には妖精たちに尋ねる余裕なんて無かった。


 こうして運命の流れを変えられたのかは微妙だったが、シン様との婚約は成立した。この後、父様に書面を作ってもらい正式な婚約は結ばれる。それに伴い各国へのお披露目は、ダイヤ王国国境付近にある――アルギュロス宮殿で三か月後に行われることとなった。

楽しんでいただけたのなら幸いです。

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