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第21話 悩む時間

 シン様がおかしい。「どこが?」と聞かれたら全てだ。

 そもそもシン様は、私に微笑みかけることはない。

 私の名前を呼ぶこともない。常に「殿下」か「王女」で即位してからは「女王」だった。


「ソフィーリア様、今日は庭園を散策したいのだが付き合ってくれないだろうか」


 シン様が私と一緒に居ようと、進んで声をかけることも一度だって無かった。贈り物だってない。

 婚約者らしいことも、私が強引に頼み込んで付き合わせたようなものだった。


(この時間軸だけ……どうして)


 シン様が優しい言葉をかけるたびに胸が軋み、泣きそうになる。何度心が揺れ動いても、過去にされた記憶を思い出して、自分の愚かな気持ちを封じてきた。


(大丈夫。まだ覚えている。あの時に裏切られた絶望を忘れていない)


 次に信じて裏切られたら、私の心はバラバラになって立ち直れないだろう。それぐらい今のシン様は優しくて、私のことを気遣ってくれる。

 私の知らないシン様だ。


(十二回目までと同じだったのなら、気持ちが揺れ動くことも無かったのに……)

「ソフィ? 暗い顔をしてどうしたんだ?」


 ふと声をかけて振り返ると、ジェラルド兄様が大量の資料を持っているのが見えた。宰相補佐としての仕事が忙しいのか、少しだけ目に隈があるものの、生き生きとして楽しそうだ。


「兄様。私……シン様のことで悩んでいて……」

「フェイ殿に何か嫌ことを言われたのか?」

「ううん。すごくよくしてくれてる」


 ジェラルド兄様の表情が一瞬で真顔になったので、慌てて答える。兄様は少しだけ考えこんだ後、資料を従者たちに渡して仕事を頼み、私とお喋りする時間を作ってくれた。


 庭園のガゼボで話すことになったのだが、上手く言葉がまとまらない。

 はらはらと桜の花びらが舞い散る。美しくて幻想的な光景だ。


「フェイ殿は気の良い御仁だ。それに仕事熱心だし、人当たりも良い。幼い内に母君を殺されてから、今の地位を得るのに並々ならぬ努力を重ねてきたようだ。一時期は金策を得るために内職までしたらしい」

「……え。知らなかった」

「男は好きな子の前では、格好いい姿を見せたがるものだからね。醜態を晒さないように取り繕っているうちに、自分の素を出すこともできなくなるって場合もあるらしいぞ」

「そういうものなのですか?」


 ジェラルド兄様は、私の頭を優しく撫でる。


「そうだ。くだらない矜持がある。でもな、そんな矜持のために大切な人が傷つくなら、さっさと捨ててしまえば良い。でないと本当に大切な人を失うまで気付かないで、失ってから気付くなんてこともある。……自分は時々夢を見るんだ。ソフィと和解せず、ずるずると自分のくだらない矜持を守ろうとして国や妹を失う未来を」

「え……」

「夢だよ。酷い夢さ。それもいろんな終わり方があったけれど、それでもお前を守れずに道半ばで死ぬ感じがリアルだろう。……それを見る度に『どうしてあんなに意地を張っていたのだろう』って思う。最近はその夢も薄れてきたけれど、慢心はよくないからな」

(兄様が見た夢って……十二回分の記憶の欠片なんじゃ? 繰り返し続けたことで、私以外にも時間軸での記憶が浮かび上がっている?)

「……あんな酷い結末だけは絶対に避けなければならない」

「え?」

「いや、なんでもない。……まあ、とにかくフェイ殿との婚約が不安なのなら、一度腹を割って話をしてみることだよ。婚約問題は今後、四カ国にとっても大きな影響を与えるだろうし、他国の王族だ。国の情勢によって婚約破棄になる可能性だってある」

「!」

「そうならないように策を巡らせることは勿論、お国事情でフェイ殿が婚約破棄しなければならない状況担った時のことも考えて、様々な可能性を話してみるんだ。婚約者はいずれ夫婦になるのだから、そのためにもしっかりと話し合って、ぶつからないと先に進めないぞ」

「ジェラルド兄様」

「フェイ殿が酷いことをするのなら、兄様が肉体的精神的にずたぼろにするので、安心しろ」

「兄様……」


 怖がっても避け続けることはできない。

 ジェラルド兄様の言うとおり、逃げてばかりでは先に進まない。私は覚悟を決めてシン様と向き合う決意をする。しかしそう決意した時に限って、シン様は祖国からの招集で一時的に帰国していた。


 次にシン様と会えたのは、それから三週間後だった。

 その間、小まめに手紙を送ってくれたのに、私は返事を書くこと勇気もなくて、花びらで作った栞を贈ることしかできなかった。


(今さらなんて言葉を書けば良いのかわからないもの)


 そう言い訳をして逃げた。

 自分がシン様に心を傾けたら、また十二回の時間軸と同じようにシン様が変わってしまうのではないか。怖くて、恐ろしくてしょうが無い。


 今まで歩いていた地面が崩れ落ちる瞬間を何度も味わったのだ。その恐怖は簡単に拭いきれるものではない。


(先延ばしにしても事態が好転するとは限らないわ)


 

 ***



「ソフィーリア様、お久しぶりです」

「シン様」


 逃げ回って先送りしても解決しない――と、覚悟を決めてシン様との面会に挑んだのだが早々に後悔する。


 お茶の時間を設けて再会したシン様は、酷く顔色が悪い。目の隈など兄様よりも濃いのがハッキリとわかった。


「三週間しか離れていないのに数百年も経ったかのような気持ちだ。もっと傍でソフィーリア様の顔を見ても良いだろうか。いや幻でないかも確認したいので御手に触れても?」

(シ、シン様が壊れてしまった!)

  

楽しんでいただけたのなら幸いです。

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