表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/51

第1話 終わりの始まり・前編

 

「ダイヤ王国女王ソフィーリア・ラウンドルフ・フランシス。貴女との婚約およびダイヤ国とスペード夜王国との同盟を白紙に戻させてもらう」

「──ッ(結局、()()()()()()()()()()()()……)」


 ダイヤ王国歴1505年12月。

 私にとっては通算十二回目の時間跳躍(タイムリープ)した世界。

 ダイヤ王国の国境付近に建てられたアルギュロス宮殿は、四ヵ国同盟会議を行う場所で十二回とも同じ光景、同じセリフが私に向けられる。

 婚約と同盟破棄を告げたのは、婚約者であるシン・フェイ様だった。


 スペード夜王国の第十王子、シン・フェイ。

 宵闇のような黒紫色の長い髪、前髪は額の中央で分かれており、アメジスト色の双眸が露わになっている。陶器のように白い肌は少し血色が悪そうだ。


 すらっとした背丈の青年は細身ではあるが、カンフクと呼ばれる絹で作られた民族衣装はダイヤ王国のデザインとは異なり、襟を交差させ袖口が広くて長い。黒の羽織には金と銀の刺繍が施されており、それらを着こなす彼は物語に出てきた異国の王子そのものだ。


(シン様に拒絶させられるこの局面は、何度味わっても……胸が痛いですわね)


 本来会議に出席できるはずのない聖女が同行している時点で、私の勝ち目はない。

 今回も彼女はシン・フェイの隣にいた。自然に彼の腕に密着して、華やいだ笑みを浮かべる。


「フェイ様、嬉しいです」

「……ああ、ずいぶんと待たせてしまってすまなかった」

「いいのです。分かってくれただけで私は……」

(私にはフェイ様と呼ぶことができなかったのに……)


 彼女は、この世界で一人しかいない聖女アリサ・ニノミヤ。ピンクの髪に愛らしい彼女は白の法衣を身に纏っている。私から見れば聖女とは到底思えない腹黒女だ。

 四か国同盟を崩壊させて、世界を渾沌に導く破滅の悪女。それに抗っても失敗に終わった。そして今回も。


「スペード夜王国と同様、ハート皇国も契約を破棄だ!」

「クローバー魔法国も同盟解消せざるを得ないですね。ごめんね、ソフィちゃん」

「みなさん、私の言葉に立ち上がってくれて嬉しいです」


 四ヵ国のうち、三ヵ国が一斉に同盟破棄を口にする。

 会議の部屋は白で統一されており、本来なら伝統ある建築物でとても美しい所なのだが、私にとっては、もはや「断罪の部屋」である。


(友人だと思っていた、幼馴染みだった……同じ国を担う者として良い関係を気付こうと足掻いたけれど、もうここから展開が覆ることは無い)


 聖女を取り囲むように私の前に立ち塞がるのは、三ヵ国の代表者たちだ。時代を担う彼らの年齢は私と大差ない。けれど彼らの眼差しは侮蔑、殺意、敵意のみ。婚約者のシン・フェイ様ですら咎めるような視線を向ける。

 分かりやすい構図。

 聖女と悪女。


 この瞬間からダイヤ王国の平穏は瓦解し、滅亡まで止まらない。

 私の傍に()()()()()()()()

 泣きそうになるのを堪えてギュッと、ドレスを掴み耐える。


 スペード夜王国の婚約者も、クローバー魔法国の友人も、ハート皇国の幼馴染も私の傍にはいない。いつも途中で聖女の味方になる。

 彼女に全てを奪われるのだ。


(今回はちょっとずつ三人との関係も改善していたと思っていたのに……)

「何か申し開きはあるか? ソフィーリア」


 鋭く睨むシン様に、じくじくと胸が痛んだ。


(シン様……。凛々しく、表情が読めなかったこともあったけれど、甘いものが好きだと話していた時間も、一緒の思い出も……無駄だった)


 十二回目のこの世界はシン様の心がほんの少し動いて――それが嬉しくて、幸せだった。だから婚約者として交流があっただけに、この結末は絶望の何ものでもなかった。自分の心が完全に砕け散るような音がした。


 それでもダイヤ王国の()()()()()()()()()()()()()()()()。毅然とした態度で「承知しました」と短く答えて、会議室を去る。


(シン様……、愛しておりました。もし十三回目の世界があるなら、その思いごと捨ててしまったほうが良いのかもしれませんね)


 十二回目の世界で、ようやく私は愛しい人への思いに区切りをつけることにした。

 会議終了の鐘が鳴り響く。

 それは今まで絶望と終焉の音色に聞こえていたが、今回は私の決意を祝福しているように聞こえた気がした。


楽しんでいただけたのなら幸いです。

下記にある【☆☆☆☆☆】の評価・ブクマもありがとうございます。

感想・レビューも励みになります。ありがとうございます(ノ*>∀<)ノ♡


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

(↓書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください↓)

https://potofu.me/asagikana123

html>

平凡な令嬢ですが、旦那様は溺愛です!?~地味なんて言わせません!~アンソロジーコミック
「婚約破棄したので、もう毎日卵かけご飯は食べられませんよ?」 漫画:鈴よひ 原作:あさぎかな

(書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください)

html>

【単行本】コミカライズ決定【第一部】死に戻り聖女様は、悪役令嬢にはなりません! 〜死亡フラグを折るたびに溺愛されてます〜
エブリスタ(漫画:ハルキィ 様)

(↓書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください↓)

https://potofu.me/asagikana123

html>

訳あり令嬢でしたが、溺愛されて今では幸せです アンソロジーコミック 7巻 (ZERO-SUMコミックス) コミック – 2024/10/31
「初めまして旦那様。約束通り離縁してください ~溺愛してくる儚げイケメン将軍の妻なんて無理です~」 漫画:九十九万里 原作:あさぎかな

(書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください)

html>

コミカライズ決定【第一部】死に戻り聖女様は、悪役令嬢にはなりません! 〜死亡フラグを折るたびに溺愛されてます〜
エブリスタ(漫画:ハルキィ 様)

(書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください)

html>

攫われ姫は、拗らせ騎士の偏愛に悩む
アマゾナイトノベルズ(イラスト:孫之手ランプ様)

(書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください)

html>

『バッドエンド確定したけど悪役令嬢はオネエ系魔王に愛されながら悠々自適を満喫します』
エンジェライト文庫(イラスト:史歩先生様)

― 新着の感想 ―
自分の国を絶やしたい相手に対して、十二回は多すぎじゃないか
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ