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第17話 第十王子シン・フェイの視点3

 婚約者として名が挙がった時に、迷わずダイヤ王国へと向かった。

 祖国に戻れなくてもいい。スペード夜王国では私以外に、第七王子の星焔(セイエン)も参加していることに驚いた。


(どうして第七王子が? そういえばパーティー会場で、ソフィーリアとよく話していた……)


 星焔(セイエン)は第七王子でありながら有能すぎた。だからこそ女装趣味の変わり者という形で周囲の目を欺き、着々と地盤を固めていた。

 てっきり他の王子たちを退けて王位簒奪を狙うのかと思ったが──。


(いや他の王子たちを油断させるためなのかもしれない)


 他国ではハート皇国の文官が数名と、クローバー魔法国からはエドウィンがいた。しかし最終的にあの無理難題(ジェラルドの出題)をクリア出来たのは私だけだった。


(これでソフィーリアに会える!)


 ソフィーリアと会うことが確定したので、国王──父に謁見を申し込んだ。


(父との対峙は?母の葬儀以来だろうか……)


「なんとしても婚約して戻れ」そう実の父親との言葉は、何処までも王の言葉だった。


(数年ぶりにかけた言葉がこれか。……最初で最後のチャンス。どうにかしてソフィーリアと婚約したい。……婚約者になったら、どのぐらいの頻度で会っていいのだろう。毎日? いやさすがに少なすぎるか。ソフィーリアとできるだけ一緒にいたい。片時も離れたくないけれど、彼女とからしてみれば私は初対面……)

「ふん、婚約者候補になっただけで偉そうに!」

「そんなにお前のような下民には、もっとふさわしい女がいるだろうよ。紹介してやろうか?」


 第一王子たちの嫌味など聞き流して、悶々と考える。無視して部屋に戻ったら着る服が全て服を燃やされたが、貴重品は楊明(ヨウメイ)に持たせたので問題ない。


 毒だらけの食事も解毒を飲んでいるので、気にせずもぐもぐ食べる。


(向こうではソフィーリアと一緒に食事ができるかもしれない……! ソフィーリアは何が好きなのだろう)


 暗殺者も片手間で返り討ちにできるほど腕を磨いた。今はソフィーリアの笑顔を思い出すだけで、多勢無勢だろうと問題なく返り討ちにできる。


(ソフィーリアとダンスも踊れるように練習も完璧だ。資金を作るため内職の刺繍や栞作りも職人レベルになったから、向こうで花びらを拾ったらソフィーリアに作ってあげたい。……ああ、考えたら色んなことをソフィーリアとしてみたい。……ソフィーリアが私のことを好きになって貰えるように、私自身努力をしなければ)


 昔は兄たちの嫌がらせに、神経をすり減らしたのが嘘のようだった。ソフィーリアに会えると思ったら、誹謗中傷や嫌がらせなどそよ風にも等しい。


 ソフィーリアに好かれるため、鏡の前で笑う練習も抜かりない。もともと感情が希薄で表情筋がまったく使っていなかったため、数年かけて努力した。今では普通に笑うことができる。


(ああ、早くソフィーリアに会いたい!)


 ***



 そして今日、彼女と面と向かって話ができる。嬉しくて昨日は一睡もできなかった。服装も昔のボロボロな外套ではなく、スペード夜王国の正装だ。

 カンフクに袖を通して、身を整える。


「それにしても最後の難問によくぞ合格しましたね、フェイ様」

「ああ。……本当に。あれ絶対に妹を諦めさせるための出題だったぞ」


 私の従者として楊明(ヨウメイ)はダイヤ王国へと付いてきた。父がよく同行を許してくれたものだ。

 楊明は灰色の髪に、頬にはそばかすがある優男だ。凡庸そうな顔立ちだが、武術にも心得がある。伯家は代々王家に仕える臣下の一族らしい。国同士の婚約である以上、供を一人でもつけたのだろう。


 元々私の教育係だったので、ある程度の信用はしている。血縁者だからという理由で信じているというわけではないが。


「こう言っては何ですが、あの出題、自分にはさっぱりでしたよ」

「だろうな。……あれはたまたま城の書庫に文献があっただけだ。異界の書で、なんでもフェルマー・ワイルズ定理について極めて興味深い文献だった。nが具体的な値を取るいくつかの場合によってさまざまな証明が得られており、有名なのは──」

「頭痛くなってきたので、その話はまた今度で」

「そうか」


 自分が思ったよりも饒舌に語っていたことに気付く。

 スペード夜王国にある書庫は勿論、王宮図書に入り浸っただけの成果はあったようだ。母を喪ってから、目的を失っていた私に道を指示したのはソフィーリアだった。

 忘れられない魂に刻んだあの言葉。


『もし生きる理由がないのなら、私を助けてくれると嬉しいわ。それじゃあ、ちゃんと生きてね』


 気まぐれだったかもしれない。

 私が誰かもわかっていなかっただろう。それでも誰かに「生きていいよ」と言われたような気がして、母が好きだった唄を知る彼女が忘れられなかった。


 自分の記憶から消えていく母の思い出を蘇らせてくれた人。好きだった唄なのに、メロディも、なんとなくしか覚えていない。母とは違い、私には音楽の才能はないのだろう。


 婚約者になって信頼を勝ち取れたら「あの唄を歌って欲しい」と頼んでみたい。


(もっとも彼女が私を覚えているのかどうかも、わからないけれど……)


「初めまして」というべきか、それとも「ありがとう」が良いだろうか。


 再度姿見で服装のチェックをしたのち、豪華絢爛な客間に通された。

 スペード夜王国とは異なる建築技術は、いずれも重厚な石造りに目を惹くような装飾が施されている。


 座り心地の良いソファに質のいい布。

 出されたお茶はスペード夜王国民が愛用している白茶(パイチャ)だ。お茶請けにはカネレの実のパウンドケーキと、クドラク病に対して配慮されたもてなしに驚かされる。同時に国力の差を見せつけられた気もした。四か国の中で最大の領土を持ち資源も潤沢なダイヤ王国は妖精に愛されたまさに楽園とも呼べるところだ。


 ふと脳裏に過るのは滅んだダイヤ王国の映像だ。縁談を受けてから見ることは減ったが、それでもあの生々しい光景が時折、思い出す。


(あんな悲劇は夢の中だけで充分だ。……何より私はソフィーリアを裏切るなんてあり得ない)


 グッと拳を強く握った。

 ふわり、と甘い花の香りが鼻孔をくすぐった。窓が開いていたようで花びらが舞う光景は美しいの一言に尽きる。


(そういえば母は、嫁ぐ前にダイヤ王国に滞在したことがあると言っていたな)


 母は真昼の空で咲き誇る花のような女性だった。明るく奔放的で自由だったからこそ、その明るさに惹かれて父は母を夜の帳が降りた宵闇に捕らえたのかもしれない。

 コンコン、とノックの音で私は現実に引き戻された。


「は──はい」


 返事をすると、扉が開かれて四年ぶりに彼女と再会を果たす。金色の髪は腰まで伸びており、女王としての威厳ある大人びた雰囲気が感じられた。

 彼女の後ろには王妃とジェラルド王子が付きそう形で、同席する。


「初めまして、シン・フェイ様。私はダイヤ王国次期女王となるソフィーリア・ランドルフ・フランシスです。本日は遠方よりお越しいただき、誠にありがとうございます」

(初めまして、か。……それはそうだよな)


 十二歳とは思えない所作で挨拶を告げる。キリ、としているつもりなのだろうが、愛らしく見えてしまう。

 自分のことを覚えていなかったことに少しだけ落ち込みながらも、立ち上がった。


「愛らしい妖精王女、ソフィーリア様。お会いできて光栄です。私はスペード夜王国第十王子、清飛(シン・フェイ)と申します」

「…………わらった」


 驚いて固まるソフィーリアは目を丸くしていて、とても可愛かった。

 次の瞬間、耳まで真っ赤にして「私が愛らしい?」とあわあわしている。


(可愛っ、尊!? あんなに赤くなって可愛すぎる!)


 抱きしめたいという衝動に駆られるが、なんとか堪えた。こんな時、サラッと口説き文句の一つでも言えれば良かったのだが、あいにく詩集はあまり読んでいなかった。


(くっ、こんなことなら前日に詩集や恋愛小説など網羅しておくべきだった!)


 ふと、彼女と目があったのだが、なぜか困ったように微笑を返す。なぜ今にも泣きそうな顔で私を見るのだろう。

 嫌われた──訳ではないことを祈らずにはいられなかった。


楽しんでいただけたのなら幸いです。

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