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第15話 第十王子シン・フェイの視点1

 私は自分の国が心底嫌いだ。

 憎いと言ってもいいだろう。


 スペード夜王国の虞淵(グエン)現国王は聡明で、民を慮る良き統治者である。その部分だけは息子として誇りに思っていた。けれど好色漢でもあった父は、自分の世代で正室以外の側室を八人まで増やしていった。


 結果、後継者となる世継ぎが十人も出来てしまい、王位継承権を巡って争いが水面下で絶えなかった。

 暗殺、毒殺などが常に行われ、そのたびに勢力図が変わっていく。

 王族の居住区にはいくつもの池と色とりどりの蓮が咲き乱れて美しかったが、その水面下では謀略が日常で起こる弱肉強食の世界だった。


 特に後宮は魔物の巣窟のように思えた。

 私の母は各国を巡る旅一座の歌姫だったのだが、父に見初められ側室、第八の王妃として迎えられた。尊き血を重んじるスペード夜王国では()()()()()()()()()()()()、下賤の血が流れるなどと馬鹿にされた。もっとも虞淵(グエン)国王の寵愛を受けている母を表立ってどうにかする者はいなかったが。


 母譲りといえるのは目元ぐらいで髪や瞳は父にそっくりだったからか、取り入ろうとする者が多かった。私利私欲しか頭にない連中に対してどう対応すべきかを示してくれたのは、護衛者兼教育係の伯楊明(ハク・ヨウメイ)だった。


 歴史、数学、経済学、城内での処世術などなど。私と五つしか違わないのに楊明は有能で、頼りになる兄のような存在となった。

 父の庇護は母が亡くなったことで終わりを告げ、当時十一歳だった私の生活も一変する。

 母は病気ではなく毒殺された。


 第一王子から第三王子たちは私を従者のように扱い、仕えていた者たちは部屋にある高価な装飾品を持ち逃げした。後ろ盾もない私の食生活や衣服、寝床も質が悪くなっていった。


 父は私のことなどどうでもよく、今まで以上に仕事にのめり込むようになった。民のため福利厚生を充実させ、不正を排除し法を改正。《クドラク病》の研究にも力を入れ出す。昔見せた父親としての顔は消え、私のことなど最初から居なかったかのような扱いだった。

 誰からも忘れ去られた私は、亡霊のようにひっそりと城で息をひそめて生きた。


(母上は生きて欲しいと言っていたけれど、なぜ生きなければならないのだろう。目的も、願いも何もないのに……)


 自暴自棄。

 心も体も限界だった。

 そんな時、ダイヤ王国の次期女王ソフィーリア・ランドルフ・フランシス、彼女と出会った。


 第一王子ジェラルドの誕生パーティー当日。《クドラク症》の悪化で、もう死んでもいいと思ったのに、彼女は私を助けてくれた。

 太陽のような金色の柔らかな髪、白い肌に猫のような大きな瞳は琥珀色で、愛らしい。彼女の周りは陽だまりのような温かさがあった。家族や妖精たちからも愛されて育ったのだろう。


 花のように無邪気に笑う姿に、思わずドキリとした。

 常に私利私欲で動き、狡猾さと駆け引きを身につけなければ生きていけないスペード夜王国と違い、この国は争いを嫌い、誰もが自由に生きている。

 自分勝手ではなく互いを尊重し合い、理解し合い、助け合っている。だからこそこの国は妖精に愛されているのだ。


(見知らぬ私を怪しむどころか心配して、看病するなんて……自国ではありえない。嫌味を言っても泣かずに言い返して……)


 母親を亡くして自暴自棄だった私はソフィーリアの気遣いと明るさに惹かれた。そして決定打になったのは、パーティー会場で披露した唄。それは私の母が昔歌ってくれた──ものとまったく同じだったのだ。


(もう母が歌ってくれた唄を聞くことはないと諦めていたのに……)


 またしても彼女は私の心を救ってくれた。

 それからはパーティー会場などで彼女を目で追うことが増えた。一応、王族として衣服など用意されているが、入国禁止が言い渡されている第一王子たちは腹いせと言わんばかりに同伴した従者に衣服を引き裂くように命じていたようだ。


「これではパーティーには参加できないな」

「ざまあ」


 嫌がらせをした瞬間、第一王子立ちを含めた従者たちは妖精たちの不興を買ってその場から姿を消す。国に入るために承諾した国外転送魔法が発動したのだろう。


「少々お待ちください。ただいま、新しいお召し物をご準備しますの」

「え、あ、はい」


 この国の執事や侍女が代わりにダイヤ王国の衣服を用意して、温かな飲み物や菓子を出してくれた。貴賓室は華美すぎず統一感のある明るい色合いで落ち着く。


(この国は他国の私にも優しい……)


 泣きたくなるほど、ここの国の人たちは私を大切な客人として接してくれる。そのことが嬉しくて、胸が熱くなった。

 まるで陽だまりの優しさでできた国のようだ。

 悪意や殺意など縁遠い世界。


(……彼女に挨拶出来ないのは歯がゆいけれど、今目立つのは駄目だ)


 息をひそめてパーティー会場の隅やバルコニーで彼女の姿を窺うだけに留まった。本当は今すぐにでも挨拶をして、出来るのならダンスに誘いたい。けれど今の私にはそれを実行するだけの後ろ盾も、自国の正装すら用意できない非力な子供だ。

 何より第一王子たちにこのことがバレたら、ダイヤ王国に行くことすらできなくなる。


(ソフィーリア王女に会いたい……。また話がしたい……)


楽しんでいただけたのなら幸いです。

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