08.調査隊集結4
ルピシエ助手の話だと、調査隊は警備隊員、記者、調査員、そして教授という役職のパーティだった。少なくとも、占い師なんて奇抜な役職はなかった。
しかし、カラン・ターマと名乗った男は一目見ただけで占い師とわかるような特徴があった。
彼の周りには無数のカードのようなものが浮いていた。掲揚し難い幾何学模様のカードは、地球だとタロットカードが近いだろうか。
彼が瞬きをする度にカードが揺らめき、移動する。こんなあからさまな風貌をするのは、占い師か手品師だろう。そして、この世界には手品は存在しない。
タネも仕掛けもない魔法がある。
地球の占い師はバーナム効果による心理的効果で人々を騙すが、魔法を使った占いはその更に上かもしれない。地球の時から占い師が嫌いだった私は、思わず一歩引いた。
そんな私の様子を見て彼は一歩前に足を出す。宙を浮くカード達の位置が、跳ねるように移動する。
「さっきも言ったけれど、今は地下には行けないよ。純愛の魔王はこんなにも大きな塔を建てる割には慎重でね。戸締りはしっかりと行っている」
何もかも見透かした風に彼は笑った。
「はあ。貴方は魔王の関係者なんですか?」
「いいや。君と同じ調査隊の一員だよ」
「そーですか」
私が聞きたかったのは、何で地下に行けないことを知っているかだが、謎は深まるだけだった。たった今魔王城に到着したばかりに見えるが。
魔法に加えて占い師か。嫌なことは続くばかりだ。見たこともないアニメのコラボカフェに入ってしまった気分だ。
私は不貞腐れながら、そのまま螺旋階段を登ろうと足を出すが、二歩目を出すことはできなかった。いつのまにか、銀面の男が私の数段上に立ち尽くしていたからだ。
まるで、瞬間移動したかのような速さだ。いや、そうか。実際に、瞬間移動したのだろう。現実ではありえない挙動だ。
銀面の男は無言でこちらを見下ろす。表情は愚か、喋ることもしないこの男が一体どんな感情を抱いているか、想像もできない。
「あんたは誰なんですか」
「そいつは、ヌル・ファイスと言ってね。私の護衛だ」
答えたのは仮面の男ではなく占い師だった。占い師と護衛。当初の役職一覧から、いきなり関係のない人物が追加されることとなる。
「何、君に危害を加えるつもりはない。少し、話がしたいと思ってね」
「こんな時間に?」
「こんな時間だから、だ。明日になっては遅すぎる。異世界の住人と話す機会もなかなかない」
と、さも当然のように私の出自も言い当ててくる。私は驚くこともなく無視することで答えた。こういう占い師はソレっぽいことを既知の事実かのように並べ、相手の反応を伺っているに過ぎない。
ロベルト教授の話だと異世界人は珍しいようだったが、五割の確率で異世界人と言い当てられる。出会う人全員に異世界人と断定して話していたかもしれないし。
何はともあれ、最悪な気分だった。唯でさえ異世界という常識の通じない世界なのに、その上で占い師だ。乗算方式で変数が重なる。いっそ、走って逃げてしまい気分だったが、銀面の男、ヌル・ファイスが選択肢を排除する。
この占い師は腹が立つが、ヌルは単純に怖い。不気味と言ってもいい。表情はなにも見えないけれど、真っ当な人間の気配がしない。もしかしたら、魔王使者シルバのように人外なのかもしれない。この男の前で、不審な動きはできない。
全く、私は何をやっているのだ。さっさと地球に返してくれ。戦争が関与している調査隊という大きな障害が予定されているのに、謎の男二人に囲まれて。深夜の渋谷駅の方がまだ治安がいいぞ。
彼らに挟まれる形で、二階の大広間に連行された。やけに深いソファに腰をかけ、正面の占い師を見る。彼は下準備と言わんばかりに、空中のカードを整列している。
一方、護衛のヌルは人形のように占い師の後ろに立っている。守るべき対象、ということか。私が知らないだけで、この占い師は有名なのかもしれない。
カードを弄るだけで、一向に話をしない占い師。当然、ヌルも何も言わない。
痺れを切らした私から、口を開くことになった。
「それで、何のお喋りをすれば良いんですか? 私の故郷の話でも聞かせてあげましょうか?」
「それはとても興味深い内容だ。しかし、こちらも時間がない。まあ、クローバー・トールとこうして会話をしているだけで、我々の目的は達成されたも同然ではあるが」
「意味がわかりません。ちっ、占い師はそうやって自分の中で完結していて腹が立ちますよね。さっさと話せって言っているのがわかりませんか?」
「変数だ、変数。君たち風にいうならば、乱数調整だ」
おいおい、マジでぶっ飛ばしてやろうか。
会話のキャッチボールすらできない。ロベルト・オーケア教授は相当の変人だと思っていたけれど、カランに比べれば幾分もマシだ。
私の怒りに満ちた表情を見て、彼はくすりとわらう。その行為が火に油を注ぐ行為だと知らないなら、教えてやろうと立ち上がった私を制すように、彼は口を開いた。
「私は占い師だ。だけれど、同時に国連公認の時の魔術師とやっている」
「それで?」
「私は未来を見ることができる。近い未来、世界を巻き込む戦争が起こる。発端は、この調査隊だ」