75.調査隊の終わり4
【二日目 17:00】
「もう、完全に終わりってことなのかな」
『純愛の魔王』城、地下十二層。最南端に位置する時空が捻れた部屋。
調査隊一行は、未来からきた国際連合によって地下崩落から逃げることに成功した。『既に崩壊を終えた世界線』へとタイムスリップすることによって、逃げ道を生み出した。
それなのに、未だに我々は地下十二層に留まっていた。
理由は無い。私たちだって、流れることならば逃げたかった。
そもそも、我々は時空が捩れた部屋に入る資格がない。魔力と無関係のアオストと、魔力を無効化してしまう私の異世界コンビはタイムスリップと無縁だ。いつまで経っても空想上のファンタジーの延長線上に過ぎない。
魔法無効化特性は魔王だからメリットとして運用できていた。『傾国の魔王』と恐れられているアオストも放心状態だ。今となっては魔王ではなく、避難者だ。
魔法至上主義の世界で当然の結果とも言える。
どうにかなれと四肢を放り投げて地面に寝転がっているアオストの横に座る。幸い、この部屋は地震の被害が少ない。天井にいくつか亀裂は入っているが、外よりはましだ。
「一応、あと一つだけ生き残る可能性がある」
「本当?」
「ああ。唯、一応だからな」
私は自分でもくだらないと思いながらも、アオストに夢に近い妄言を漏らした。
「この部屋で待ち続けていれば、そのうち国際連合の連中が助けに来てくれるはずだ」
『謎の十二人目の首無し死体』が発見されたのが一日目の十八時。未来のこの部屋が崩落したのが、この時間軸でいう一日目の二十三時。
この時間軸のユアが殺されたのは、二日目の十三時。地下が完全に崩落するだろう時間は、二日目の十八時。
推定ではあるが、この部屋は十九時間後の未来と繋がっていることになる。
カランがいつ動き始めたかはわからないが、国際連合が魔王城跡地の穴を掘り始める未来はある。つまり、十九時間後には、先程のように助けに来た国際連合達に、時間が追いつく。
「今にも崩壊しそうな地下十二層で、十九時間も生き残れると思っているの?」
「思ってないよ」
「それじゃあどうするのよー」
どうしようもない。
それに、仮に十九時間生き残ったとしても、救助が来る保証はない。
カラン・ターマは未来視を使って、この状況を打破した。しかし、その魔法に私とアオストは映っていない。異世界人は魔法に関与できない。
『傾国の魔王』と、魔王予備軍である私。このまま、地下に沈めた方が世界のためになる。教授ならば私たちを助けにきてくれるかもしれないが、国際連合を動かすことはできるだろうか。
「ねえ」
「なんだ」
「あれを使えないの?」
あれ。
地面に突き刺さっている、凶器。刃の部分は鋭利で、黒い金属が研ぎ澄まされている。握りやすいハンドル部分は、黒い革で包まれていた。
未使用の『巨大な魔力源』ーーサバイバルナイフだ。
「この場を乗り越えることができるのはクラガンの魔法だけじゃなかったか? それどころか、クラガンは未来に帰ってしまったぞ。魔法を使えない我々で何ができる」
「それでも、お兄さんはこの世界に来たんだよね? この魔力源を利用して、異世界の壁を乗り越えた。それならやっぱり、この魔力源を使えば、地球に帰れるんじゃない?」
「当初はその予定だったんだけどなぁ」
まあ、今も同じだ。別に、私は地上に帰る必要はない。そもそも、地球に帰る手段を求めて地下に降りてきたのだ。
あっという間に殺人事件に巻き込まれて、殺人鬼を罰せないと気が済まなくなってしまったが、そちらも解決した。
これで正々堂々、後腐れなく地球に帰れる。
「帰れる方法があれば、な。確かに、ここで異世界の扉を開ければ、命は助かるし地球に帰れる。だけど、アオストも理解しているだろう? 魔法ってのは、魔力源があっても意味がないんだ。あらゆる現象を模倣するには、それ相応の使い手が必要なんだよ」
「勿論、僕とお兄さんじゃ何もできないでしょ」
「でも、いるじゃない」と言った後、アオストは起き上がった。私が止める暇もなく、彼女は勢いよく魔力源に近づいた。
そのまま、掴む。魔力に飲まれることも、私のように反発することもない。彼女の手にすっぽりと治ったサバイバルナイフは、黒髪とよく似合っていた。
「シルバと、ヌル・ファイスが地下十三層に残っているよね。この魔力源を使って、なんとかしてもらうわよ」
「奴らが協力してくれるかな。まあ、十九時間この部屋で耐久するよりかは何倍も希望に溢れているけれど」
「そういうこと。ほら、行くわよん」
先程までの意気消沈ぶりがなかったかのように、彼女は口角をあげた。私も釣られて笑みをこぼす。
もう、笑うしかない。この先どうなるかわからないが、アオストと共に地獄の船になるしかないのだ。
扉を勢いよく開け、外にでる。既に天井の崩落は始まっていて、大広間も半分近く崩れていた。奇跡的に、扉の周りには小石一つ落ちていなく、大通りへの道も問題なく繋がっていた。
否、奇跡などではない。私の待ち合わせの幸運でもない。強いていうなら、人の運といったところか。
魔法学院第七教授、ロベルト・オーケア。性別不詳の銀髪の教授は、私たちが外に出るのを待ち望んでいたかのように高笑いをあげた。




