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68.黒幕は笑わない3

【二日目 15:30】


 悪いことというのは、重なるものである。

 あらゆる物質、現象を模倣する概念物質になったクラガンが我々の行く手を阻む中、大地が大きく揺れたのだ。

 本日何度目かわからない大地震。地下は大きく揺れ、私たちの足場を不安定にする。大気に溶け込んでいるクラガンだけが揺れの影響を受けずに佇んでいた。

 それだけでない。ぱらぱらと、天井の一部が崩れ始めた。


 本当は、気が付いていたことだった。


 時の魔術師、カラン・ターマが未来から送ってきた部屋のことだ。ユア・シフトの死体が、彼女が未来で死ぬことを現していた。つまり、これから起こる未来をあの部屋を通して知ることができる。

 死体の次に何が起きただろうか。言うまでもない、天井が崩落し、部屋は岩石で埋もれてしまった。これは確定した未来だった。


 地下十二層は崩れる。

 その事実を知っていながら、推理をすることを優先してしまった。ここにいれば、クラガンに殺されるまでもなく生き埋めになって死ぬ。それか、岩に頭を打ち付けて死ぬかだ。


「クラガン隊長! 我々を攻撃する道理はないだろう。そこをどいてくれないか」

「ロベルト教授。魔法学院の同胞をここで失うのは惜しいが、仕方がないことだ。西国ダルフを滅ぼすにあたって、正体はばれたくない。俺の発生源を知っているお前たち調査隊にもまた、ここで死んでもらう」


 「あっはっはっは」とロベルト教授は笑った。しかし、それは余裕の笑みではなく、やけくそに近いものだった。ルピシエを抱きかかえながらも、出口とは逆にこちらに走ってきた。


「クローバーくん。言うまでもなく、やばい状況だ。何か策はあるかな?」

「あるわけないでしょ! そもそもファンタジー的展開について行けてないです!」

「あっはっはっは。このロベルトもついて行けていない!」


 笑い事ではない。だが、笑うことしかできない。

 言うなれば、『空気を殴れるか』という話だ。それとも、『台風を止めれるか』のほうがいいか。どちらにせよ、概念そのものになったものに対処することはできるわけがない。意志の持ったクラガンなのだから、その危険度は段違いだろう。

 ルピシエを抱えて私の傍まで引いてきたロベルト教授の前に、半透明な靄がかかる。遠目に移るビナとクラガンが歪んで見えるほどだった。

 ロベルト教授に抱えられているルピシエの右手が淡く光っていた。


「ルピシエくん、無事だったか」

「空間魔法で魔力の層を作りました。魔力そのものなクラガンさんでも、簡単には通り抜けられないと思います。多分。時間稼ぎには、なるかもしれません」


 時間稼ぎに意味は無い。寧ろ、時間をかければ我々の生存確率は下がっていく。地下が崩落して生き残れるのは、魔力そのもののクラガンと『不死の浪人』の二人だけだ。


「ルピシエさんの空間魔法でクラガンを拘束できないのですか? 魔力の層で囲えば、閉じ込めたり」

「できません。そもそも、私の空間魔法ではクラガンさんの命令魔法を突破することができません。仮にできたとしても、魔法を魔力として吸収されるだけでしょう」


 それならば、誰の魔法でも時間稼ぎにしかならないだろう。正真正銘の無敵である。

 ルピシエの魔法がクラガンに敵わないことも、セーレと十二人層最北端の『謎の十二人目の死体』があった部屋で証明されている。




 鋼鉄の材質に変えてある扉の上から半透明の靄がかけられていた。あれは、ルピシエがクラガンの魔法に重ねる形で戸締りしていたのだろう。

 本来ならば、クラガンがルピシエに殺人をさせるために、わざと開けていたはずだ。クラガンの偽装を上から重ねるようにルピシエは空間魔法をかけていたが、少しお粗末だったと言わざる負えない。


 だから、私とセーレに容易に突破されたわけだ。あの程度の空間魔法なら、私が触るだけで……。



 遠目で、ビナがクラガンによって固められていた。あれは、アオストにかけたものと同じだろう。服を鋼鉄の材質に変えられ、身動きが取れなくなる。私はその様子を見ながら、口を開いた。


「一つだけ、この状況を打破する方法があるかもしれません」

「本当かい?」

「はい。成功するかわからない賭けになりますけど」

「構わない。どうせ、何もしなければ我々は生き埋めになるのだからね!」


 ロベルト教授の言葉に私は大きくうなずく。そうだ。今なら、どんなことをやっても意味がある。ゼロよりはイチだ。


「ですが、そのためには少しだけクラガンの気を逸らす必要があります」


 成功確率は高いとは思う。しかし、クラガンに警戒されればゼロパーセントになる。当然だ。相手は魔力そのもので、大気に溶け込んでいる魔力のように透過度を上げれば見えなくなるのだから。


 クラガンが慢心しているからこそ、正気はある。

 

「わ、わたしが時間を稼ぎます」


 声をあげたのは、セーレだった。体は震えていて、目元は未だに腫れている。とてもじゃないが、時間稼ぎすらできそうになかった。

 それに加えて、セーレ王女だけはできないことでもある。西国ダルフを滅ぼそうとしているクラガンにとって、第一王女である彼女は一番の敵である。ビナのように体を拘束される程度で済むわけがない。


「それは違います。わたしでないと、ダメなのです。クラガンさんは、西国ダルフに怒っている。第一王女であるわたしだからこそ、彼を止めなければなりません。これは、ユアの追悼でもあるのです」

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