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48.ゼロスタート1

【二日目 10:15】


 

 純愛の魔王城十一層、クラガン・ステロールの部屋。

 作りは殆ど私の自室と同じで、左右の物の置き方が異なるだけだった。ベッドの脇にある机の上にある革袋は、その部屋の持ち主が荷物置き場として利用している。


 私はその袋をひっくり返し、中身をベッドの上に並べる。何に使うかわからない黒い長方形の箱……、地球で例えると携帯電話が一番近いな。他にも、普段クラガンが身につけている警備隊員の制服と思わしき物がニセット。そして、四方形の一枚の薄いプレート。


 そこには、クラガンの名前と『魔法学院警備隊三番隊長』と彼が自己紹介した通りの職位が刻まれている。その下には、『隊長特権』とその説明が端的にまとめられていた。

 


「『職務の際、指定した一級魔法の自由行使』、ね。その一級魔法が、物質に指示できる『命令魔法』。名前が安直過ぎないか?」



 魔王城地下で起きているあらゆる事件を解決するために、私が最初に行動したのは不法侵入からだった。朝から留守にしている調査隊メンバーの部屋に片っ端から侵入し、私物のチェックを行う。

 アオストこと『傾国の魔王』がしていたことだ。彼女は、一日目の調査時間中に他人の私物を漁ることで情報を仕入れていた。何を確認しようとしていたのかと疑問に思っていたが、こうして実演してみるとわかる。


 この魔法免許証を確認していたのたろう。


 魔法免許証について、誰かに説明を受けたわけではない。それでも、この世界に降り立って三日程立てば何となく理解できる。


 この世界では、魔法を自由に扱えない。というよりも、魔法を扱うのに専門知識と法が絡んでくる。


 昨日、クラガンが命令魔法を扱う際、容疑者候補だった私とアオスト、ヌルの三人にこんなことを言っていた。


『お前たちがこの場で魔法を使うことは認められていない。反撃でもしてみろ。警告ではなく、無免許魔法使用罪の犯罪者として粛清する』


 クラガンの魔法免許証を見る限り、警備隊長としての職務で扱う分には、命令魔法は扱える。逆に言えば、何の事件も起きていない最初の頃は、クラガンだって魔法を扱うことはできなかったはずだ。(使えはするが、法を破ったことになる)


 クラガンの部屋を見る前に教授とルピシエ助手の部屋を漁ったが、私の推測は正しいと補強するだけだった。

 教授が持っていたのは『教授特権』という、主に研究に関する際は指定された魔法を自由に扱えるというもの。固有魔法は『物質具現化魔法』と『固定化魔法』で、両方一級魔法だった。


 対して、ルピシエ助手は、『許可制』という制約がついていた。説明欄には、『特権所持者の指示のもと、固有魔法の自由行使』らしい。固有魔法は『空間魔法』で、こちらも一級。


 教授もルピシエ助手も納得のいく内容だった。魔力エネルギーの研究を行う教授と、それの補佐を行う助手。ルピシエは戦争地域で医療団体に所属していた過去があり、繊細な動きを空間魔法で補っていたことが予想できる。


 セーレ王女は『王族特権』で魔法の自由行使が常に認められているが、使える魔法が三級の『斬撃魔法』に限られている。

 等級が魔法の練度を示すならば、セーレ王女は対した魔法使いじゃなさそうだ。どれだけ優れた特権を持っていても、使う先がなければ意味がない。


 私はクラガンの部屋を後にし、手に入った情報を整理する。

 現状、『隊長特権』と『王族特権』を持つクラガンとセーレだけが自由に魔法を使える状況にある。勿論、免許制度を無視されたら話は別だ。それでも、使える魔法の免許を持っている、または隠していない人間は信用ができる。

 例えば、セーレ王女の斬撃魔法。その魔法を聞いただけで、『純愛の魔王』のバラバラ死体が連想できる。しかし、三級でどれだけのことができるだろうか。

 彼女に心当たりがあるならば、免許証など真っ先に隠すはずだ。自室に放置するような不注意はあり得ない。



 問題なのは、自室に魔法免許証を置きっぱなしにしていない、警戒心の高い連中である。例えば、『勇者特権』という免許証を持っていれば、そいつが純愛の魔王を殺した犯人だと特定できる。


 魔法免許が見つからなかったのは、三人。モニ・アオスト、ユア・シフト、ヌル・ファイス。

 自らの職位を偽って調査隊に潜入したアオストが免許証を持っていないのは理解できる。そもそも、『傾国の魔王』をはじめとした異世界人は魔法を使うことができない。彼女については考えるだけ時間の無駄だ。


 ヌルとユアは、別途で調査をする必要がありそうだ。隠すというならば、それ相応の理由がある。



 クラガンの部屋から、三つ隣の部屋に私は移動した。既に一度訪れた場所だが、中身の探索はできていない。施錠機能などない十一層で、唯一扉が開かなかったのだ。

 ビナ・サチラの一室である。


 コンコン。


 数分前にも行ったノックを、再度繰り返す。他の部屋を探索し尽くしたから帰ってきたわけだが、ビナの免許証にはそこまでの興味はない。

 どうせ、彼の免許証の内容なんて、『なんたら特権』と『転写魔法』だけに決まっている。バラバラ死体を生み出すことも、謎の十二人目の死体を作ることもできない。


 強いていうならば、『死体を転写した』という可能性だ。転写という機能を、カメラではなく3Dプリンターレベルまで解釈を広げれば、十二人目の死体を生み出し、直ぐに消すこともできる。

 まあ、嘘が下手なビナ・サチラがやらなそうなことである。私の超解釈を否定するために、ビナの免許証は見ておきたいが、優先順位は低い。


 コンコンコン。


 ノックでリズムを刻みながら、思考を加速させる。


 今回の殺人事件で最も重要なのは、超解釈だ。魔法という超常現象がある時点で、あらゆる想定をしなければならない。

 犯人は魔法を使えるが、私は魔法を使えない。どれだけ足掻いても覆らない事実だ。



 それならば、私は発想力だけで戦おう。


 推理に魔法は不要だということを、事件を解決することで証明しなければならない。

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