40.傾国の魔王2
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この世界は、地球と繋がっている。それは間違いない。
私は日本にいたそのままの姿でこの地に立っている。二日前までの出来事をはっきりと記憶しているし、持ち物も残っている。
それだけではない。アオストのように、魂というあやふやな存在が流れ着くこともある。輪廻転生の枠組みに二つの世界はまとめられている。もしかしたら、記憶がないだけで教授やクラガンも地球産の魂なのかもしれない。
ああ、魔法が使える時点で、この世界の住人なんだっけ。まあ、それはどちらでも良いけど。
ともかく、地球からこの世界に流れた以上、逆もまた可能であるはずだ。サイズも体重も同じ私が、不可逆圧縮の可能性を消している。
確実に、帰る手段がある。
随分と前の話に感じるが、教授がよく口にする大切な言葉がある。『あらゆる現象を模倣する概念物質』、魔力。
『純愛の魔王』が調査隊を結成し、シルバの空間魔法が弾かれるほど強力な魔力源はここにある。故に、地球への渇望を持つものが調査隊に紛れるのは当然ではあった。
それが、モニ・アオスト。人類の敵として魔王認定された非力な少女。彼女の目的は、私とほとんど同じだった。
どうやら、教授よりもアオストの方が異世界転移の仕組みについて理解があるらしい。
「やっぱり、魔力源……、あのサバイバルナイフを上手く使えば、地球に帰ることができるのか?」
「知らないわよ。そんなこと。できるなら、お兄さんと二人で現場に行った時にやっていたわ」
「それもそうか……。それでも、何か確信があって調査隊に潜入したんだろ? ビナは見るからに口が軽そうだし、お前が魔王だとバレて幽閉されるのは予想できた未来だったはずだ」
「だーかーらー。殺人事件が起きるなんて予想できるわけないでしょ。最悪、僕が魔王だって露見しても、『純愛の魔王』なら絶対に会ってくれるはずだったし」
アオストが魔王だとバレなくても、遅かれ少なかれ『純愛の魔王』への対面は叶ったはずだ。ヌルの話を聞く限り、魔王は寛容なようだし。
だけれど、殺人事件なんてものが起きるから、犯人探しが始まった。挙げ句の果てには、調査隊の中から十二層に置いていく人を決めることになった。
アオストの計画は丸崩れという訳だ。
「『純愛の魔王』は、この世界の中でも『異世界の壁』を超える可能性が一番高い存在なのよ」
「へえ。それは今まで誰も口にしていなかった観点だな」
「僕以外、誰も知らないからね」
「急に信憑性が低くなった」
『純愛の魔王』について、教授は何と言っていったっけ。「生後すぐに両親を殺害した異端児」だったか。アオストの口振り的に、純愛の魔王は異世界転生した地球人なのだろうけど、異世界の壁に抵触してくるようには思えない。
それをいうなら、生身でこの世界に来た私の方が『異世界の壁』を超える可能性が一番高くないか? というか、実際に超えているわけだし。
「再現性がない異世界転移に価値はありませーん。お兄さんと違って、『純愛の魔王』は明確に再現性を求めているの」
「教授はそんなこと言っていなかったけどな」
「そりゃ、この世界の住人はそんな発想できないわよ。ほら、わからない? 何で、『純愛の魔王』はこんな巨塔を立てたのよ。とてもじゃないけど、愛とは程遠いと思わない?」
「天を貫く塔を地球人が作ったっていうのは、素直にすごいと思うけどね……。ああ、いや、そうか。バベルの塔、か」
語る必要がないほど有名な、架空の巨塔。ノアの大洪水ののち、天にまで届く塔を作ろうとした人間は、神の怒りを買った……。よくある神話だ。
重要なのは、天というところだ。
「宇宙にまで行けば、地球に繋がると思ったってことか? そりゃ、科学を持ってしても、未だに宇宙は謎だらけだけどさ」
「どうだろう。少なくとも、世界の果てを目指そうとしたのは確かよ。現に、こうして地下も掘り進めている訳じゃない?」
確かに、天地両端を攻めている。魔王城が歪な形をしているというよりも、天地の調査を行う拠点を城と名付けただけに見える。従者がシルバしかいないのも、空間の魔法使いが一人いれば十分だから?
その結果、魔王はついに世界が注目するほどの魔力源を地下で見つけ出した。成果はあったというわけだ。
「『純愛の魔王』にとっても、殺人事件は望んでない結末のようだな。ダルフ国の戦争なんて心底どうでも良さそうに思えてきた」
「そうかもね。僕もそうだけど、魔王なんてものはみんなそうなのよ。人類の敵になりたいんじゃなくて、やりたいことをやっていたら勝手に敵対されているだけなの。迷惑極まりないよねぇ」
「そんな『傾国の魔王』様の計画は、同じ魔王によって全部おじゃんになった訳だな」
アオストの真の目的は、地球に用があるというもの。必然的に異世界の壁を破る必要があり、『純愛の魔王』がその鍵を持っていた……。
しかし、おかしな話しだ。以前までのアオストは、『純愛の魔王』に会おうとすらしていなかった。調査時間中に十一層を調べたり、私に必要以上に着いてきたり。
「ま、僕の目的は既に達成しているも同然なの。別に、僕自身は地球に戻るつまりはさらさらないからね。地球に戻ろうとしている人間に用があっただけなのよ」
「どういうことだ?」
十三層への螺旋階段が視界に入ってきた。調査隊の面々が、私たちの到着を待っている。シルバだけが隣接している小部屋の前に嬉しそうに立っていた。
カブトムシを捕まえた小学生みたいだ。感覚的には、合っているのかもしれないけれど。
アオストはうんざりした表情で再度ため息を吐き、私に目線を向ける。今までの含みのある表情は一切なく、純粋な一人の少女がそこにいた。
「お兄さん。地球に帰ったら、お父さんに手紙を届けて欲しいんだ」




