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31.消えた死体1

【一日目 21:40】


 この物語は、殺人事件が起きたことを前提に始まっている。人が死んだことによって、探偵が動き出す。命の軽さを認めた上で、軽んじたやつを許さない。そういう話だ。


 実際に、死体を教授たち四人が目撃した。その後、調査員のビナが転写魔法で形にした。


 私たちは、あのリアルな首の切断面を見た。確実に、この部屋に死体があった。


 その筈だ。



 ここには、一本のサバイバルナイフしかない。人の命を奪い取るものではあるが、それそのものが命を奪ってはいないだろう。刃は黒く輝いているだけで、赤い液体でコーティングされているわけではない。


 地面も、壁も、天井も。私が以前この部屋に入った時と何ら変わりはない。


 死体が消えていた。綺麗さっぱり、何の形跡も残さず。最初から、そんなものがなかったかのように。


 この部屋は、異常なほど正常だった。


「どういうことなの?」


 少し声を上擦らせて、アオストが呟く。「私が知りたいよ」と言い返すので精一杯だった。


「死体が勝手に消えるなんてことはありえない。誰かが移動させた?」

「でも、お兄さん。そんな時間はなくない? 僕たちみたいに、室内待機中に抜け出した人がいるってこと?」

「あり得なくはない。私の部屋で話している間に最速で動けばいい。ここまで綺麗に痕跡一つ残さないなんて非現実的だがな。血痕どころか、匂いすら消えている。まるで、時が戻ったみたいだ」


 自分で口にして、鼻で笑う。何を言っているんだ、私は。非現実も何も、ここは異世界だ。不可能なんてことはないだろう。

 第一、私は既に『時』の魔術師に会っている。時を戻したみたいだ、ではなく本当に時を戻すことができるかもしれない。それは魔法という存在が可能にする、かもしれない。


 問題なのは動機の不透明さだ。


 死体を隠す動機があるのは、その死体を作った張本人である。殺人鬼が推理の素材を消すために死体を隠すことはよくあることだ。

 しかし、それならば最初からやれば良い。十一人目の死体が人目のつかないとこにあれば、誰も気が付かない。元より、その死体が生きていた時から、我々は認知していなかったからだ。


 意味がわからない。


 やはり、この魔力源が原因か?


 変わらず地面に突き刺さっているサバイバルナイフに目線を向ける。一人の命を奪った凶器で、この調査隊の発足原因。


 私が知らない要素が、まだある。魔力源がどんなことに使えるのか、私は知らないのだ。


 何をやっているんだろうな、私は。



 思えば、この魔力源を使って地球に帰るという話だったのに。いつのまにか、そんなこと後回しでいいと考えている。人の命を弄ぶ罪人を裁く方が何倍も重要だ。



「……」



 私は自分の中に芽生えつつあるとある気持ちに無視を決め込み、ため息をついた。

 ここからどう動くべきか。顎に手を当てながら、考えることにした。



 死体が消えたことを嘆くよりも、死体を消した人間がいることに気がついたことを幸運と捉えた方が良いかもしれない。死体には都合の悪い証拠があって、それを肉眼に見られたらまずいと、犯人は考えた。

 それに、ここまで綺麗さっぱりに元通りにするのは確実に魔法が関わっている。魔法は魔力を体内から放出する際に、現象を模倣しているだけだと、教授は言っていた。私にとって魔法は不安定で無限の可能性を持っているが、それは私が素人だからそう思うだけだ。



 やはり、教授だ。餅は餅屋。専門家に話を伺うしかない。指紋のように、魔法の痕みたいなものが残る可能性だってある。


「お兄さん。もしかしてさ」

「ん?」


 

 アオストもまた、思考を巡らせていたようだった。転生者として既に何年もこの世界を生きている彼女は、私よりも魔法の知見がある。異世界人である我々は魔法は使えないようだが、知識は平等だ。


 しかし、彼女は突拍子もない結論に辿り着いたらしい。探偵的な観点で評価するならば、非常に面白い推理ではある。助手としては合格な思考だった。



「死体なんて最初から無かったんじゃない?」

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