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26.容疑者三人の弁明

 容疑者リストNo.1

 探偵、クローバー・トールの言い訳


「調査を始めた時の話ですよね。私は十二層を左側から半時計回りすることにしました。一度、十二層全体を見て回りたかったので、小部屋にははいりませんでした。


 途中、セーレさんたちとすれ違いましたよね。ええ、はい。ありがとうございます。


 全体像を把握し終わった後、調査を始めるために入ったところが、殺人現場が起きた右側の手前の部屋です。先ほども話しましたが、その時は死体などはなく、凶器が地面に突き刺さっているだけでした。


 目的の魔力源を見つけたので、教授たちと合流しようと再び外に出た時に、広場にアオストがいたのを見つけました。


 成り行きで彼女と一緒に教授を探しに左大通りを進んでいると、奥からファイスが来たので彼とも合流。教授たちとは、途中ですれ違ってしまったようですね。

 その後は、地震が起きたので安全確認も兼ねて広場に向かった、という形です。この二人以外に、人の気配はありませんでした」


***

 容疑者リストNo.2

 国連記者、モニ・アオストの言い訳


「十一層のすべての部屋の内部構造を確認してたよ。勝手に個人部屋に入ったことは謝るよ。ごめんごめん。

 

 あ、みんなの荷物には触ってないから気にしないでね。


 全部見終わった後、十二層に降りたらクローバーのお兄さんがいたね。右通りから歩いてきていて、特に怪しい動きはなかった。人を殺した直後の姿には見えなかったから、お兄さんは嘘をついていないと思う。


 あとは、お兄さんの話と同じかな。左通りの小部屋の調査を始めて、途中でファイスと合流して地震が起きたって感じ」


***

 容疑者リストNo3

 護衛、ヌル・ファイスの言い訳


「俺は十三層に行っていた。十二層に戻った後は、クローバーの説明と同じだ」


***

【一日目 19:30】


「ちょっと待った!!」


 思わず、大きな声が出てしまう。私のアリバイ説明も大した証拠もないあやふやなもので申し訳なかったが、他二人に比べたらましだ。何より、ヌルの説明は3秒で終わった。

 問題はそこではない。彼の向かった先だ。


「お前、魔王にあったのか?」


 さすがのクラガンも衝撃を隠せないのか、目を大きく開けていた。

 正直、ドン引きである。セーレ王女も似た発想を持っていたが、彼女は未遂だ。調査する場所として、寄ろうとしただけ。


 対して、ヌルは最初から魔王のいる十三層に向かっていた。シルバから説明があった直後に、だ。この調査隊のメンバーが一癖二癖あるのは重々承知していたが、この少年がぶっちぎりで頭がおかしい。せめて、調査するそぶりを見せろよ。それをいうなら、アオストもだけど。


 ヌルは我々の非難を全く気にするそぶりもなく、口元を手で隠して欠伸をしていた。


「お前らは知らないかもしれないけど、螺旋階段の下は分厚い扉があるんだよ。魔法がかけられていて、抜けることも難しい。シルバは戸締りを念入りにしているからな」

「質問の答えになってないぞ」

「ああ、まあ、そうだな。偶然、扉が開いてな。魔王が入っていいって言うから、十三層でお茶を飲んでいた」

「ほ、ほんとうですか?」


 興奮したように声をあげたのは、セーレ王女だった。


「純愛の魔王さんは、私とも話してくださるかしら?」

「なんだかんだ言っていい奴だからな。事情を説明したら中に入れてくれるとおもうぜ。菓子くらいなら出してくれるだろ」

「そ、そう。それは、本当に良かったわ」


 心底嬉しそうに笑う。メイドのユアも王女の様子にご満悦な様子だった。


 ここまでくると、気の毒なのは純愛の魔王だ。調査を依頼したのに、やる気のないメンバーが集まり、尚且つ殺人事件に巻き込まれた。シルバが激昂するのもうなずける話だ。


 しかし、これは非常にまずい状況だった。殺人を犯した愚か者を裁く前に、私が消されかねない。

 他の調査隊メンバーから見て、この殺人事件の犯人は二人に絞られている。それも、考えるまでもなく至ってシンプルだ。


 私かアオスト、この二択だ。この二人以外、全員アリバイがある。容疑者の三人目であるヌルは、十三層から広場に向かっていた関係上、物理的に殺人が行えない距離にいる。その証言を、同じ容疑者である二人からされているのだ。


 だが、私がやっていないことは私が保証できる。そして、アオストが殺人できないのも、私は理解している。


 というよりも、彼女だけが科学的にも、魔法学的にもシロである。ルピシエの言う、死亡推定時刻は十七時三十分から十八時までの三十分。その間、アオストとは常に一緒にいた。一瞬たりとも目を離していない。


 嬉しくはないが、彼女だけは信用できるのだ。分身の魔法みたいな、常識を覆す魔法がなければ、という話ではあるが。

 それを言ったら、全員のアリバイが消える。


 いや、きっとその方向で推理を進めていくしかないのだろうか。魔法を考慮に入れて、あらゆる可能性を受けれいて。証拠を丁寧に拾っていって……。


 首だけでなく、素性もない死体。殺人鬼はなにを考えて殺し、首を持ち去ったのか。


 やはり、現場検証しないと話にならない。信用できるのは、私の目に映ったものだけだ。この膠着状態を切り抜けて、真実をいち早く手に入れなければならない。


 というところでクラガンが両手を叩き、場を沈めた。


「説明感謝する。とりあえず、お前らの言い分は理解した。誰一人として嘘をついていないとしたら、クローバーが部屋を離れた直後、何者かが侵入し、謎の女性を殺害。そのまま姿を隠し、死体を我々が見つけた、ということになる。ありえない話では無い。十中八九、魔法が使われている。固有魔法によって、アリバイを覆す輩がいる」

「あっはっはっはっ。シルバさんの言い分に合わせるなら、魔王を殺すために侵入してきた勇者というやつですかな」

「ふん。教授、笑い事ではない。勇者なんて訳のわからない能力を持った人間を相手取るのは骨が折れる。おい、ヌル・ファイス。貴様、魔王と顔を合わせて話したという認識でいいんだよな?」



 クラガンは心底不愉快そうな目線で少年を見下ろす。ヌルは肩をすくめながら、「さっきそう言っただろう」と返した。



「話が通じる相手なら、いっそ直談判した方がはやい。勇者の相手は魔王にしてもらう」



 なるほど。クラガンの真の狙いはこれか。

 状況整理に時間をかけていて、容疑者である我々に尋問することもない。殺人鬼を決めつける素振りを見せなかったのは、そのつもりがなかったからだ。

 殺人鬼を見つけなければならない状況を作り出したのは、純愛の魔王だ。調査隊メンバーからしたら、謎の死体が見つかったとして、実害があるわけではない。地下に軟禁されているのも、魔王が勝手にやっていることだ。


 魔王に直接会って、許してもらう。調査を行うのは教授とルピシエ助手だけでいい。あとは調査隊全員が地上に帰れば、魔王の目的も達成されるはずだ。


 治安維持を目的として結成された魔法学院警備隊、その隊長。彼の目的は、悪を罰することではない。警察とは訳が違うのだ。



 やはり、彼は優秀だ。最適解を選び、皆に提案する。調査隊メンバーも安心したように彼の意見に賛同した。


 

 明日の十時。再度この大広間に集まって、シルバに相談することに決まった。


 夕食も部屋に用意されていることだし、解散しようと教授が話したことを最後に、十一階へと使い始める。



 彼らは、なんだかんだ言って、この事件を軽くとらえている。



 私だけが、命が亡くなったことに真剣に向き合っているのかもしれないと思った。


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