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15.調査開始

【一日目 15:00】


「改めて、今回の調査依頼内容と注意点を話させてもらいます」


 『純愛の魔王』城地下十一層。螺旋階段の先に続く廊下を通り抜けた先の大広間。外観は一階のロビーに近く、ホテル宛らの豪勢さだった。純愛の魔王の趣味が何となく伺える。


 こんなにも整備された環境に、調査も何もないだろう。新宿駅で化石を探すことが無意味であることに近い。やはり調査隊など結成する必要はなかったのではないかと思ったが、どうやら違うらしい。


 この空間は、魔王使者シルバの固有魔法によって生み出されたものらしい。この程度の空間ならば幾らでも量産できるらしく、その要領で空を貫く巨塔を作り上げたとのこと。


 ただし、地下では同じことはできなかった。件の巨大な魔力源によって空間を塗り替えることが困難となり、地下へ進むことを断念せざるを得なかった。


「この十一層と十三層はわたくしの魔法によって何不自由なく生活ができます。貴方達調査隊には、十一層を拠点に、十二層で調査を行って頂きます。十一層は一人一部屋用意しているので、荷物などがある方はご自由にお使いください。時間になりましたら、食事も部屋の中に用意させていただきます。また、十三層に関しては、魔王様の自室として利用しているので、近づかないでください」


 「質問いいかい」と割って入ったのは、ロベルト教授だ。ピンと伸ばした右手は、宛ら大学の講義を受ける受講生だ。


「どうぞ」

「件の魔力源は、十二層にあることは確定しているということだね?」

「はい。確実にあります」

「その確信はどこにあるのかな? このロベルトは仕事を生半可な気持ちでやるつもりはない。隠し事があるなら、先に提示してもらいたい」


 にこやかな笑顔のまま、教授は問い詰める。シルバもまた、彼の問いに嬉しそうに答える。


「地下十二層に魔力源があるのではなく、魔力源がある高さに地下十二層を使ったからです。そこを起点に、十一層目に拠点を、十三層に魔王様の住居を作りました。空間魔法で塗り替えられない高さを限定することに成功したということですね」



 「そして」と、シルバは付け加える。



「皆様が疑問に思っている我々魔王軍が自ら調査を行わない理由ですが、専門家の意見を聞きたい以外にありません。正直、我々も困っているんですよ。わたくしの魔法が通用しない障害があるとは思ってもいなかったので」

「あっはっはっは。そうかそうか。正直でありがたいね。続けて質問。そもそも何で地下に進もうとしたのかな」

「それはわたくしも知りません。純愛の魔王様に話を伺う機会があったら、その時に直接聞いてください」


 そんな機会は無いに越したことはない。しかし、私以外の調査隊メンバーは魔王との対面こそが目的だったりするのだろう。特に、ダルフ国王女一行はこの話を聞いて安堵したことだろう。

 というか、何という好待遇だろうか。純愛の魔王とやらは、我々調査隊を随分と信頼しているらしい。もしくは、期待しているのか。まあ、こんな不毛な大地のど真ん中に調査に来る人々に塩対応しているようだったら、魔王の器もそこが知れる。お互いの信頼があって成り立つ調査隊だ。私という部外者が混ざってしまって、少しだけ申し訳ないと思った。


 少し安心した事といえば、魔王使者シルバも同様の不安を抱いていたことだ。ロベルト教授が、前向きに調査を行おうと質問をするたびに微笑みながら回答している。彼も人間を九人も城の内部に連れ込んで緊張していたのか。とりあえず、この二人は信頼に値する存在と考えていいだろう。


 その後も、教授が何点か質問し、シルバが喜んで回答する時間が続いた。


 教授が満足したのか質問が止まった直後に、シルバが調査開始の合図を出した。臨時で組んだ調査隊ということもあってか、連携は全く期待されていない。その場で散開することになった。


 私もとりあえず教授の後について行くことにした。調査といっても何をすればいいかわからないし、魔力源が何なのかもわからない。魔力が概念物質だとしたら、その源の形など想像もつかない。そもそも、概念物質ってなんだよ。


「クローバーくん」


 十一層から十二層に降りる階段に向かう道中、教授は私に声をかけてきた。隣にいたルピシエを先に向かわせ、声を顰める。近くの調査隊員には聞こえない大きさだ。


「どうしました」

「十二層に着いてからは、クローバー君は一人行動をした方がいい」

「……、なんでですか?」

「君が一人で寂しいと思う気持ちは痛いほどわかるけれどね。君を思ってのことだ」


 注目を浴びないように、教授は小さく笑う。


「調査隊のメンバーを見ただろう? 心の底から調査を行おうとしている人間がどれほどいると思う?」

「今の所、シルバとロベルト教授の二人だけに見えますね」

「そうだ。皆、何か別の目的でここに来ている。完全に目的が透けているのはセーレ王女くらいなものだ」


 まあ、そうだろうな。ダルフ国と魔王軍との戦争を止めるために、直接交渉に来たとしか思えない。彼女の意思の強い瞳を見れば、誰でもわかる。シルバも、気がついていながらも、あえて放置しているのだろう。

 問題はそれ以外の全員だ。警備隊長のクラガンとは全く話していないので素性がわからないが、国連の二人組は全く信用できない。お互いがお互いを嫌っているようだった。


 調査はこれから始まるので、今までの行動はあまり関係がない。しかし、彼らが何かしらの嘘をついているのは明白だった。

 ロベルト教授は「そうだね」と続ける。


「もしかしたら、魔力源の争奪戦が始まるかもしれない。クローバー君、君が一番最初に魔力源に辿り着き、異世界に帰るんだ」

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