13.ぐるぐる回る2
【一日目 13:40】
魔力源が見つからない、とか。実はダンジョンが稼働していてモンスターが徘徊している、とか。地質が変異していて、知見が必要だ、とか。
調査隊ではそう言った苦労を想像していたのだけれど、初っ端から崩された。地球でも異世界でも、人間に最もストレスを与えるのは人間関係である。
最近は探偵業で顧客以外との関わりが少なかったので、久しく感じていなかった。同じ仕事をやる際に、私情を持ち込んで動く、非論理的な行動。
いや、アオストに至っては論理的ではある。『疲れたから背負ってほしい』。素晴らしいロジックである。単純明快だ。
とはならない。なるわけがない。幾らアオストが自分の息子と同い年くらいだとしても、私は特別視したりしない。段差に腰をかける彼女を下から見上げ、ため息をつく。
「アオスト記者。自分で歩いたらどうだ」
「僕はもう疲れた。太ももめちゃ痛い。一歩たりとも動けない……。しばらくの休息が必要だ」
まさかの僕っ娘だった。
いや、それはまじでどうでも良いことなんだけど。彼女は、私の困った反応を見たからか、嬉しそうに微笑んだ。
「僕と違って、クローバーさんは随分と鍛えているね。結構な段数降ったけれど、息が乱れてない」
「これでも結構疲れているよ。流石に、君のように動けないほどではないけどね。それに、他のメンバーも全く弱音を吐いていない」
ビナは我々の前方から「そうだそうだ」と何故か便乗をしてきた。私からしたら、相方であるお前こそが背負っていけよと思ったけれど、二人の関係には訳ありな様子だったので我慢した。
アオストも「そりゃそう」と同調する。
「他の人たちは、強化魔法で筋肉を補強しているんだよ。だから、これくらいの運動じゃ疲れもしない。でも、お兄さんは魔法を使わずにここまで降っているじゃない。だから、鍛えているんだねって言ったの」
そうだったのかよ。正直がっかりだ。足を酷使して歩いているにも関わらず表情を崩さない調査隊メンバーに親近感を湧いていたところなのに、裏切られた気分だ。魔法でずるしていたんじゃないか。
私は適当に嘘を吐くことにした。
「ほら、時の魔術師カラン・ターマは回復魔法が使えないほど傷ついていただろう? 魔力はできるだけ温存した方がいいんじゃないかと思ってね」
「へえ。ちゃんと考えているんだ」
「そりゃ、ロベルト教授に迷惑はかけられないからね。本当に、迷惑はかけられない……」
アオストが足を止めていることによって、先頭集団と既に間が空いてしまっている。現在進行形でロベルト教授に迷惑がかかっている。
また、これかよ。私は年下の成人前後の少女と共に行動する運命にあるのかもしれない。
再度深いため息をついて彼女に背を向ける。そのまましゃがみ、背中を貸してやることにした。
「良いの?」
「早くしろ。時間が勿体無い」
アオストは嬉しそうにお礼を良い、私の背中によじ登ってきた。身長百七十を超えているとはいえ、筋肉もない少女だ。背負うことくらい難しくない。
思えば、アオストは望月茜と背丈がよく似ている。彼女と重ねてしまっている節もあるかもしれない。
螺旋階段の終わりは見えないが、大した問題では無い。私が疲れ切る頃には、アオストの体力が戻っているだろう。
いつのまにかこちらを見て立ち止まっているロベルト教授とルピシエに手を振り、再び階段を降り始めた。
「ありがとう。クローバーさん。いや、お兄さん。これから、お兄さんって呼ぶね」
「勝手にしろ」
「お兄さんはさ、どうしてここに来たの?」
「調査」
「でも、飛び入り参加だよね。オーケア教授の助手はルピシエちゃんだものね。お兄さんは何なの?」
「ロベルト教授の手伝いだよ」
「魔法学院の第七教授だよ? あの人に手伝いなんていらないでしょ」
「いるから来たんだよ」
「本当かなぁ」
うるせえ。