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11.調査隊集結7

「トール・クローバーです。ロベルト教授の手伝いやらせていただいております。よろしくお願いします」


 簡素極まりない私の自己紹介に、調査隊のメンバーは興味がなさそう手を叩いた。拍手という文化がこの世界にあることは驚きだったので、絶妙な居づらさも耐えられた。

 大丈夫、アウェーなのは覚悟している。


 純愛の魔王城一階、ロビー。地下に向かう前に、それぞれ自己紹介をするようシルバから提案があった。


 私の前に口を開いたロベルト・オーケアはすごかった。教授は有名人のようで、あちこちから質問が飛んでいた。

 ロベルト教授が調査隊に加わったということ自体が、純愛の魔王の言う「魔力源」の信憑性を増したらしい。教授の質問捌きは華麗なもので(ほとんど高笑いして話を流していただけだが)、ルピシエ助手も満足げだった。


 そのルピシエ助手は、教授が軽く紹介して終わった。つまり、実質的に私が二番目の自己紹介を行ったということだ。落差は明確だったが、何も遊びで集まった連中ではない。調査隊メンバーは次々に自己紹介を進めていく。


 魔法学院警備隊三番隊長、クラガン・ステロール。

 国際連合調査員、ビナ・サチラ

 国際連合記者、モニ・アオスト

 

 この三人は特段目立った情報は無い。強いて言うならば、魔法学院の警備隊長クラガンと魔法学院第七教授であるロベルト教授の関係性だ。


 同じ魔法学院から来たということだが、二人に繋がりは特にないらしい。例えるならば、魔法学院が親会社で、警備隊が子会社みたいなものだ。

 


 国際連合から来た二人は、調査結果を世界に連携するために来たらしい。公平性を保つとか、純愛の魔王の潔白さを証明するとかなんとか言っていた。


 問題なのは、その後に自己紹介を始めた女性二人組だ。


 純愛の魔王と絶賛戦争中の西国、ダルフ。その第一王女セーレ・ミルターの存在は、異世界の情勢を全く理解していない私ですら驚愕した。一国の王女が、敵国のど真ん中に単身乗り込んできたのだ。

 それは純愛の魔王に対する挑発ともとれるし、西国側の本気さも感じられる。こんな火に油を注ぐ真似をして、一体全体何を考えているのだろうか。


 魔王使者シルバも困惑している様子だった。純粋に対応に困る。最終的に、彼がとった判断は平等性だった。


 「この調査隊で上下関係はなしとする」と最初に宣言することで、他の調査員と同等の待遇にすることを決めた。それに対してセーレも不快感を示すことなく頷いていたので、いきなり戦争の続きが始まることはなさそうだ。


 続いて、セーレのメイドであるユア・シフトが自己紹介を行い、調査隊メンバーの挨拶は終わった。


「あれ、ちょっと待ってくださいよ」


 と、声を上げたのは意外と思われるかもしれないが私だ。できるだけ目立ちたくなかったが、生まれた疑問を放置するほうが気持ちが悪い。


「どうしました、クローバーさん」

「まだ、調査隊メンバーは全員揃っていないでしょう」

「ふむ。まあ、当初より人数は前後していますが、魔王様をこれ以上待たせるわけには行かないので。来なかった人達を責め立てるつもりはありませんが、待つつもりもありません」

「それって、カラン・ターマとヌル・ファイスのことですよね。あの二人なら、既に魔王城にいるはずですよ。昨夜、私は会いました」


 と、エピソードを交えて私は説明した。あの無性に腹が立つ時の魔術師と正体不明の銀面の男について。


 どうやら、カランは有名人らしく、調査員のビナは興奮した様子だったが、重要なのはそこではない。昨日チェックインを済ませていたあの二人組が、朝会に参加していないのがおかしいのだ。


 何よりも、『傍観者として、行く末を見届ける』と彼は言っていた。未来視を使える彼が遅刻するとも思えない。シルバは心底どうでもよさそうに、「逃げたんじゃないんですかね」と言い捨てていたが、私は納得できなかった。


 この世界を舞台のように見ている傍観者は酷く不愉快だし、見たくもないが、見ていない状態で暗躍される方がめんどくさい。何より、彼は私が異世界人だと知っている。ロベルト教授のように協力的ではないし、目に見える場所で監視したかった。


 この様子すらも見透かして、高笑いを上げながら登場するかとさえ考えていたその時、やはりというべきか、その男は現れた。


「余計な気遣いを、させてしまったかな」


 予想外だったのは、現れた場所だった。彼は酷く憔悴した表情で螺旋階段を上がってきた。下から、上へ。つまりは、調査するべき対象の地下から上がってきたのだ。

 昨夜、地下に先行しようとしていた私を止めた、カランが、だ。


「何やってん……」



 開いた口は、そのまま閉じることはなかった。

 カランは螺旋階段を登り、我々と同じ一階に足を置いた。

 ゆっくりと、慎重に。


 本当に、何をやっているんだこの男は。いや、というか。何をしたらそうなるんだ。


 彼の顔は蒼白で、唇は紫色に変わり果てていた。まるで生命力を吸い取られたかのように衰弱し、今にも崩れ落ちそうだ。

 衣服は血に染まり、腹部を抑えてい手の隙間から液体が溢れ続けている。

 昨日私と話した時に見せた余裕に満ちた表情は面影もない。

 


 苦しげに息をするカランの肩を貸しているのは、片手に割れた銀面を持った男だった。その男もまた、疲れ切った様子で、カランを支えるのに必死だった。銀面は中央から亀裂が入り、何か鋭利なもので割られたように見えた。



「シルバさん。すまない。勝手に地下に入ってしまった」

「あ、ああ。いや、魔王様が許しているのならば、わたくしは気にしませんが。その、なんだ。大丈夫なのですか? 回復魔法が正常に機能していない様子ですが」

「猫に嚙まれたんだ。気にしないでくれ」


 そんな古典的な返しをするカラン。隣の男に肩を借りながら、とぼとぼと出口に向かう。


 ちらりと私の方に振り返り、何かを言いかけて口を噤んだ。

 全く持って意味が分からない。そのまま、「今回の調査隊からは外させてもらう。もう、魔力もすっからかんだしね」とだけ言い残して巨塔から去っていった。



 残されたのは疑問と、不安。そして、後味の悪さだけだった。



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