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10.調査隊集結6

 目覚めは最悪だった。気絶のような睡眠では体の疲労は回復しきらず、頭がうまく回らない。年相応の起床と言われればそれまでだが、誰かに起こされるのが一番不快だった。

 「おーい」という声が、ノックと共に扉の外から聞こえてくる。いつのまにか数時間経っていたようで、昨夜調節した時計の針は九時をさしていた。 

 

 声の主は、ロベルト教授だ。彼は変わらず明るい声色で、ドア越しに声を飛ばす。


「クローバーくん。起きているかな。起きていないならば、早く起きたほうがいい」

「はい、起きてます。どうしました? もう、調査隊の集合時間ですか?」

「まだ時間はあるが、面白いものが見れるぞ」


 身支度も何もないので、私は手で雑に髪を整え、外に出る。相変わらず不気味な廊下が続いているが、教授は既に螺旋階段の前まで移動していた。どうやら、急いでいるらしい。


 二階についても止まることなく、我々は一階のロビーに辿り着いた。そこには椅子に座って俯いているルピシエ助手の姿しか見えなかった。


 教授はルピシエ教授に一言挨拶を交わしたのち、彼女を置いて外に出た。私も慌てて、塔の外に行く。


 いうまでもなく、高塔の外は不毛な大地が広がっているだけである。昨日と違うところといえば、朝日が反対側から登ってきているということと、我々以外に人がいたことだ。


 魔王使者シルバ以外は見知らぬ人たちだった。いや、まあ、私からしたら見知っている人なんているわけがないのだけれど。


 黒髪ロングのいかにも清楚系な風貌の女子と、茶髪のやんちゃそうな青年。その隣に、スーツのような厳格そうな服装を見に纏った、目つきの鋭い中年。


 彼らこそが、調査隊のメンバーだ。占い師達のようなふざけた格好をしていない。如何にもな正装だ。

 特に、スーツの中年は絶対に警備隊員だ。警備隊がなんなのかはよくわからないが、純粋に治安維持とかしてそう。


 しかし、外にいたのはその四人だけ。我々二人を加えて六人。うざったい占い師も、怪しげな銀面の男はいなかった。


「教授方、おはようございます。昨日はよく寝られましたかな」


 と、シルバがこちらを一瞥し、定型分を述べる。一応、我々は招待客扱いなのかもしれない。その気遣いとは裏腹に、彼の表情は怒りに帯びていた。その様子を見て、教授は嬉しそうに「あっはっはっ、よく眠れましたよぉ」と笑った。


 ふむ。これが、面白いものだろうか。確かに、シルバのような気品のある男が取り乱している様子は見ていて愉快だけれど、そういう趣味はあまり感心はしない。

 というよりも、彼の気分を害する何かが問題だ。言うなれば、高塔の外に集まる理由だ。せっかくだし、探偵らしく状況だけで推理でもしてみようかと息巻いたその時、空間が軋んだ。


 こう表現するしかない。

 空に亀裂が走り、青空に漆黒の線が描かれる。そこから一筋の光が大地に向かって伸び、風があたり一面に吹き渡り、肌を撫でた。


 魔法陣、空の隙間、光線。一目で非科学的な魔法だとわかる奇妙な現象は数十秒続いた。教授はニヤついた表情のまま、私の隣に立った。


「これは転移魔法だね。それも、特段にレベルの高い、国家クラスのものだ」

「国家って。これが純愛の魔王と敵対している西国ダルフとやらの仕業ということですか」

「そうなるね。調査隊メンバーでお出迎えというわけだ。さてさて、誰が来ることやら」



 黒髪の少女と茶髪の男が記者と調査員だとしたら、残る調査隊のメンバーは、西国の使者だ。なるほど、調査隊メンバーでお出迎え、ということらしい。


 戦争という概念が同じである以上、地球も異世界も考え方は同じだ。戦争中の敵対組織に、自国民を送り込むのだ。捨て駒として無能な人間を送り込むのか。

 または、位の低い有能な人間を送り込むのか。純愛の魔王側が招待したとしたら、一つ歩み寄ったことになる。西国ダルフの対応によって、戦争の行方が左右されることは間違いない。


 私の興味のない、政治的側面である。異世界の知らない国と知らない魔王の戦争など勝手にやっておいて欲しい。強いていうならば、私が異世界のゲートを開く邪魔にならない程度に、話がわかる有能な人間が来てくれればいいと思った。


 教授はどうだろうか。眩い光をじっと見て、以前と変わらない笑みを浮かべている。教授にとっては、誰が来ても面白いことなのかもしれない。あまり良い趣味とは言えない。


 そんなことを考えているうちに、空から降りてきていた光が緩やかに消えていく。空間の隙間も閉じ、我々の前方に二人の女性だけが立っていた。先程までの光や魔法陣は、綺麗さっぱり消えていた。


 前に立つ女性は、長い金髪を美しく編み上げ、輝く青いドレスを身にまとっている。背筋はピンと伸び、高貴なオーラが全身から漂っていた。その後ろに控えるもう一人の女性は、黒と白のメイド服のようなものに身を包んでいた。


 メイドは一歩前に進み、澄んだ声で宣言した。


「こちらはダルフ国王女、セーレ・ミルター様です。純愛の魔王様の招待に応じて参りました。」


 彼女の声は清澄でありながらも力強く、その場にいる全ての者の注意を引きつけた。

 ちょっと待て、王女と言ったか?

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