第97話◇
拠点に到着した私たちの目に飛び込んできたのはいくつものテーブルとその上に用意された様々な料理だった。
料理……?
その内容は実に様々だ、おにぎりだったりサンドイッチだったり鶏の唐揚げだったりと割と調理スキルが低めでも用意出来るのが多いな。
まっそこは作った子たちが予想出来るので良しとしよう。
他にはお菓子やクッキーなど皿に盛り付けたいりとこの辺りは少々子供らしい一面だと伺える。
何と言うか発想が自由だよね。
おそらくビュッフェ形式をイメージしたのだろう、適当に小皿を手にして食べたい物を皿に取っていくスタイルだ。
私たちが到着すると先にいたのは女子校生探索者の響、さゆり、アズサの3人と高見さん、工藤さん、そしてアンジェさんの3人も待っていた。
このダンジョンと関係ある人間が勢揃いである。
そう思っていたら別の人たちも『瞬間移動』で現れる。
ネシアと付き人のメイドさんが数名現れた、あのミスラって言うドラゴンメイドさんも一緒だ。
「呼ばれたので来たぞ、ヒロキ!」
「ようこそ、ネシア」
ネシアにはこの前の黒山との一件で少し力を借りたからね、いずれはお礼をと考えていたがまさかこの場に呼ぶとは。
ハルカあたりが動いたのかな。
そんなことを考えていると女子高生探索者たちとアンジェさんがこちらに来た、まずはアズサたちが挨拶をしてくる。
「来たわね一河さん、どう? これが私たち皆で用意したお礼の料理パーティーよ!」
「大したものだね赤城さん」
私の言葉に響は上機嫌である。
「お疲れ様です、一河さん」
「お疲れ様」
「一河さんにはこの前アズサを助けてもらったからそのお礼を必ずしようと思っていたんです」
アズサそしてさゆりの言葉に私は返事をする。
「そんな事、気にする必要なかったのに。むしろ矢野さんを巻き込んでしまったことが申し訳ないよ」
「そんなことはありません、僕も探索者としてもう少し出来る事があったはずなのに、あっさり捕まってしまって情けない限りです…」
「私も何も出来ませんでした…」
「ああいう危険な人たちを相手に危険な真似をしてはいけないよ、今後も必要な時は大人を…私たちは頼ってくれていいからね」
「「「……はい」」」
3人が揃って返事をする。
その姿を見てもう心配はないかなと思う私だ。
そしてその次に話をしに向かったのはアンジェさんである。
彼女の姿は以前とはだいぶ変わった。
長く美しい金髪の痛みやほつれ具合は治り今は艶がある、青白かった肌も元の健康的な白さになっていた。
しかし以前と違い少し化粧を丁寧にしているような印象を受けた、いわゆる自然なメイクとかそういった感じで盛りすぎなんて印象はないな。
服装は以前の職員さんのスーツ姿から もう少しカジュアルな感じになっている、白を基調としたワンピース姿だ。
全体的な印象として以前よりも綺麗になったという感想が出てくるね、私も男だからかな。
「お疲れ様ですアンジェさん、貴女も今回のパーティーの準備を手伝ったんですか?」
「はいっそうです、私も広樹さんに大変お世話になりましたから」
お互いに下の名前で呼び合う、月城さん改めアンジェさんになったのだ。
黒川の一件後にアンジェさんからお互いにそう呼び合わないかと言われたのだ。
私としても距離感が近くなる感じがして好ましいのでもちろんと返事をしたよ。
あとアンジェさんはそう言うがお世話になったのはむしろこっちの方だったりする。
彼女が我がダンジョンの専属バイヤーとなって少し経った。
アンジェさんはまず専用のホームページを立ち上げそこで私が売るのめんどくさがって在庫になっていた様々なダンジョン資源を商品として売り出したのだ。
その売り上げは好調らしく在庫は次々と売り切れた。
最初の頃は売れた物を出荷する為の慣れない梱包作業でヒーヒー言っていた私やアヤメあとは女子高生探索者の3人である。
もうねハルカの『瞬間移動』とかで全て速達にしてしまおうかと思ったくらいである、たださすがにそんな理由でハルカのスキルが世間に露呈するのは色々とよろしくない。
なのでしぶしぶ私たちで梱包して運搬業の人たちのお世話になっているわけである。
ちなみに販売しているのがダンジョンの資源であり完成された商品なのではないので梱包だとか何だとかに文句を言ってくる相手というのはまずいなかった。
そんな感じでとにかくアンジェさんの専属バイヤーとしての活動は結構な成果を出しているのだ。
「アンジェさんのおかげでこれまでダンジョンで遊ばせていた資源もなくなってスッキリしました」
「そう言ってもらえてよかったです、しかし商品の再入荷はまだ先でいいんですか?」
「はい、大丈夫ですよ…」
ホームページにて新しいダンジョン資源あるいは既存の在庫の再入荷は月の頭と決めている。
売り切れた場合はどんなに欲しいという要望があっても追加で入荷はしない。
だってそうしないとこっちの労働のノルマが見えなくなるからね。
そうなると女子高生探索者である3人は毎日これるわけではないから仕事量が増えすぎる。
毎日ダンジョンにいる私たちにしたってノルマに追われて仕事をするなんて冗談じゃないのが素直な気持ちだよ。
私たちが仕事するのはあくまでも自分たちが生活するのに必要な資金プラス工藤さんたちやアンジェさんたちに払う給料などを得るために過ぎないのだから。
お金は生活にプラスアルファで豊かにする分だけあればいいのだ。
ちなみにダンジョンセンターを辞めたアンジェさんのお給料とボーナスに関してはそれまで貰っていた額の1.5倍をそれぞれ提示した。
それ以降は働きとかに応じて昇給をという感じである。
まっその時は近いだろうけどね。
アンジェさんのおかげで専属契約をするノウハウについて多少は学ぶことが出来たし今後は工藤さんや高見さんともそういう契約を結ぶかもとか考えている。
まあそれはそれとして。
「それではアンジェさん」
「はい、広樹さん」
私たちはお互いに飲み物を入れた紙コップで乾杯をした。
さすがにお酒は飲まないよ?