第93話◇
さてっそんなわけで多少時間がかかったものだが、私は黒山にこの『強制の契約書』にサインをさせることに成功した。
これは契約した相手にその契約書の内容を強制的に守らせ、破ろうとしたら全身を苦痛に襲われるというアイテムである。
ちなみに契約を破ろうとしてなくても苦痛を与える事がこちらの意思一つでできるぞ。
契約書と言うかお仕置きアイテムだよねこれ。
とにかくこれでこの契約書を使えば私たちはいつでも黒山にお灸を据えることが可能となった。
人間というのは物理的な攻撃にもやっぱり弱い生き物だ、とりわけ他者に対して一方的に攻撃してばかりの人間というのはそういうものである。
ボロ雑巾みたいになった黒山を見ながらちょっとやり過ぎてしまったかな？
そんな反省をほんの少ししてしまった私だ。
いや～コイツが口を開けばぶっ殺したくなる事ばっかり口にするからさ、本当に～～。
もちろん我がダンジョンの海で失禁した事については許さん、いずれ何かしら罰を与えてやるつもりだ。
しかしトイレの方に再びダンジョンゲートを越えて返却したものの死んだ魚みたいな目をした黒山が私たちの話をどこまで聞いていったのか分かったものではない。
それについてはどうやらハルカに考えがあるらしく、次に打つ手を既に考えているらしい。
私たちを『瞬間移動』でダンジョン島に送った後、ハルカを新たにダンジョン島の方に出現させたダンジョンゲートで向こうの方へと送る。
何故ならだか分からないがラグネシアもハルカと一緒に向かった。
何故ラグネシアと一緒に行くのか話を聞くと怖いことになりそうだったので取り敢えず見送るだけの私だ。
ハルカ曰く、今後もし黒山が復讐心に目覚め余計なことをしてきた時の為の措置をしてくるそうである。
少なくともハルカは私なんかよりよっぽど頭がキレる、その彼女がいい感じにしてくれると言うのなら私はそれに乗っかるだけだ。
さてっ後は月城さんに今回の事の顛末を話すべきかどうか…少し考える。
今の月城には黒山の名前なんて耳にするだけでも嫌な気分になるだろうし、そもそもこんな行動をしたこと自体話すべきじゃないのかもしれない。
……よし決めた、今回のことは 言わないでおこう。
話をするとしたらそれはもっとダンジョンの育成が進み、計画が安定軌道に乗った後にでも。何かの拍子に事後報告でもすればいいのだ。
「ヒロキ君」
「なんだいアヤメ？」
「私、これから渓流の方に釣りをしに行こうと思うんだけど～」
「それはいいね、釣り道具を私にも貸してくれないかい？」
「ヒロキ君が釣りをするの？ 珍しいわね～」
「なんとなく、そういう気分なんだ」
とりあえず今、私に出来ることは新しくこのダンジョン育成計画に加わった仲間である月城さんに、このダンジョンの珍味をご馳走してあげることである。
「よ～しそれじゃあバンバン釣るわよ～！」
「ああっ頑張ろうか！」
……余談だが。
その日、私もアヤメも坊主だった。
後日我がダンジョンに来た月城さんにはスーパーで買った魚で作った料理とか 唐揚げとかを振る舞ったのである……ハルカが。
しかしそれでも誰かと一緒に食卓を囲んで食べる料理は月城さんにとって、とても嬉しいものだったと後に彼女は語ってくれた。
