第54話◇
今日は工藤さんたちはいない、いつもの3人でのんびりとした朝を迎える。
とりあえず今日はあの規模が何倍にも膨れ上がった森林の方に行ってみるか。
朝食を食べてる時にハルカとアヤメに今日の予定について話をしてみる。
「ハルカ、アヤメ今日は森の方に行ってみようと思うんだけど2人はどうする?」
「今日も温泉に行くから無理~」
「それなら私がついて行くわ」
「分かった」
この頃アヤメの温泉通いが止まらない。
まあ温泉は気持ちいいから仕方ないけどさ。
そう言えば昨日の工藤さんもかなり温泉を気に入ったと言っていたし、もしかしたら今度女子高生探索者の子達が来たら温泉に行きたいと言い出すかもしれない。
それまでに着替えを入れられるカゴくらいは適当に買って向こうに置いておくべきかも知れないな。
「分かったそれじゃあハルカ、今日はよろしく」
「ええっ」
朝食を済ませて私とハルカは森の方へと向かう、アヤメはまだのんびりすると言っていた。
ダンジョン内の変化を確認したいのでハルカの瞬間移動に頼らずに徒歩で歩いてみる。
拠点付近は見た感じは大して変化らしい変化はない。
温泉火山へと向かう木々が生えていない道の横に入るとすぐに森の中だ。
相変わらずマイナスイオンがすごいな。
森の木々は密集して生えている訳じゃなくちょうどいい塩梅というのか、空からの日差しが木漏れ日のように森の中に差し込んでる。
森の中に入って最初に気づいたのはこれまでは全く聞こえてこなかった鳥の鳴き声が聞こえてくる。
「ハルカ、この森に今度は小鳥が現れたのか?」
「ふふっおそらくそうね、それもダンジョンの生物には間違いないはずよ? もちろん人に害することはないわ」
「……そうか 」
ダンジョンの鳥か。
モンスターとは別枠の存在なのだろうか。
少し見てみたい気もするが頭上を確認してみたところそれらしい姿は見えない。
まあいいか。
こういう小鳥がさえずるような声というのも悪くないし。
落ち着いた気持ちで森の中を散策しているとなんか見たことない不思議な生物を発見した。
それは大根だった。
いや大根っぽい何かが空中に浮いている、なんか黒いビーズみたいな物が2つ付いていた。
まさかあれが目なのか?
背中にはなんかちっこい天使の羽みたいなもんとかあるし。
「ハルカ、あれはダンジョンモンスターなのかい?」
「そうねモンスターと言えばそうかもだけど、あれは野菜の精霊よ」
………ちょっと何言ってるのかわからないな。
「野菜の精霊も基本的にこちらから攻撃してこなければ襲ってくることはないわ、むしろ仲良くすれば様々な恩恵を与えてくれる存在なの」
「………そうか」
野菜の精霊の恩恵とやらがいまいち想像出来ません。
大根でもくれるのだろうか?
そんなことを考えていると野菜の精霊とやらに見つかってしまった。
宙にプヨプヨと浮きながらこちらに向かってやってくる。
「ヒロキさん精霊の頭を撫でてあげて。きっと喜ぶわ」
「わっわかった…」
大根の頭ってどこ?
あの草の部分なのかな…とりあえず上の方を撫でてみる。
すると黒いビーズみたいな部分が形を変え、どことなくにっこりしてるように見える。
全体的にデフォルメされた見た目になっているのでリアル大根とはちょっと違っていてアニメとかのキャラクターのぬいぐるみに近い見た目だ。
だからちょっと愛らしさを感じた。
大根なのにね、すると私の前に突然光が集まり始める。
何だと思っているとそれが二本の大根になった。
ハルカがしたり顔で言う。
「それがこの野菜の精霊の恩恵ね」
「……凄いね」
まさか本当に大根をくれるとは思わなかった。
「……取り敢えず今夜はこれで何か作れる?」
「ええっ何か考えておくわ」
私に大根をくれた野菜の精霊はそれで満足したのか空へと飛んでいった。
もしかしてこの森には新たに野菜の精霊とやらな仲間入りしたのだろうか。
そうならカブとかキュウリとかの精霊も来て欲しいかも。
漬物とか良いよね。
新たな出会いを経て気分もよく森を探索していく、するといつものやつも発見した。
「プオォ~~~ン!」
「「「プオオォオォ~~~ン!」」」
「モフリンベアーたちか……え?」
「「「「「プォオォオ~~~~ン!」」」」」
「「「「「プオォ~~~~~~ン!」」」」」
かっ数がめっちゃ増えてる!?
最早クマの軍団と化したモフリンベアーたちがこちらに突撃してきた。
当然私に逃れる術はなくハルカも助けてくれない。
「うわぁああーーーーっ!?」
その後はあの大きめのモフリンベアーを中心にやたらとモフリンベアーたちに集られてしまった。
もうね、あの黒光りする鼻をツンツンされまくり擦りつけられまくったよ…。




