第36話◇
私の言葉を聞いて工藤さんは少し自信ありげに話をしだした。
「紹介したいのは私が入っているクランのメンバーなんです」
「クランですか?」
クランとは探索者同士が固定で組んでいる集まりのようなものだ。
数人規模ならパーティーを組むと言い、十数人を超えるそこそこ大きな規模になるとクランと名称を変えるらしい。
この辺りはまさにゲームか何かから取ってきたようなやつだな。
正式なものというよりかは探索者同士で勝手にそう言っているらしい、仲の良い集まりようなものだ。
さすができる探索者の工藤さんだ、パーティーやクランどころか工藤さん以外に知り合いの探索者すら1人もいないほとんどソロぼっちみたいなポンコツ探索者である私とは違うな。
「あっもちろん他に伝手があるなら……」
「いえ………話を続けて下さい」
いや、そもそももう私は探索者ですらないんだ。
だってダンジョンを攻略するのではなくダンジョンを育てるのが今の私の目標になってるからね。
「しかしクランのメンバーだからといって格安になるというのはどういうことなんですか?」
「実はそのクランのメンバーってみんな私が在籍していた高校の後輩、つまり高校生なんですよね。だから学業を優先で放課後に探索するためにダンジョンに行ってる感じなんです」
「高校生ですか?」
がっ学生にこれからものすごい数のモンスターに襲撃されるダンジョンで戦わせようと?
工藤さんもなかなかすごいこと言い出すな。
綺麗な顔に似合わず後輩にはスパルタだったりするのだろうか…。
「彼女たちは学校の部活としてダンジョン探索をしてるの、だから報酬と言っても本来の探索者がもらうような大きな金額では依頼を受けることができないってわけなんです」
話はわかる、さすがに高校の部活で依頼を受けて金を稼ぎ過ぎるのは悪影響だとかって話だ。
まあ探索者関係の悪い依頼に巻き込ませない為の方便らしいけどな。
やはり闇バイト的な仕事がダンジョンにもあるらしいのだ。
怖いよね人間ってどこの業界にもその手の碌でなしが現れる。
「……しかしさすがに危険なのでは?」
「そこは私がきちんと説明をすれば学校に話を通すことは難しくはないと思います。それに一河さんたちがいるのでそこまで危険ということはないと思うんです、私もいますしね」
多分工藤さんはイフリートを瞬殺したことで私にも多少なりとも実力がある探索者であると勘違いをしている。
あんなのはハルカとアヤメがいて支援系スキルまで使ってもらって、反撃されると危険だから短期決戦を仕掛けて運良く倒しただけなのだが。
ハルカの方を見ると彼女はただ微笑を浮かべ静かに頷いていた、まるで工藤さんの意見を肯定するかのようだ。
ハルカがここで口を挟んでこないということは実際に頭数さえあれば熟練の探索者でなくてもいいという話は本気なのだろう。
つまり工藤さんの話は聞く価値があるということだ。
「……分かりました、それなら近いうちにその紹介したいという人たちを合わせてもらっていいでしょうか、直接会って判断したいんです」
「うん、それじゃあ今日のところは失礼するわ」
工藤さんは踵を返すとダンジョンセンターから出て行った。
「ハルカ、ダンジョンセンターで依頼を出す前に話はついたみたいだけどどうする? 一応ダンジョンセンターの方にも同じ依頼を出すかい」
「いいえ工藤さんの言う通り、多くの探索者を雇う事を思えば実力も不確かな相手に多くの投資することになるわ。今回の戦いは主にヒロキさんと私たち2人が戦うことに変わりはないから本当にダンジョンに慣れている人間であればそこまで高い実力を求めるつもりはないの」
う~ん個人的にはこんなアラサーに負担を強いるのは辞めて欲しいのだが…まあ仕方ないか。
私たちのダンジョンだし、やっぱり守るのは私たちの仕事って事なんだろう。
もう少し楽させてよとは言えない雰囲気だな……。
「じゃあ今回は工藤さんを全面的に信用して彼女のクランメンバーという高校生の子たちに期待をするということでいいんだね」
ハルカは「そうね」と返事をした。
せっかくダンジョンセンターまで来たのだが今日のところは一旦引き上げるとするか。