第33話◇
それから数日経った。
ダンジョンはいたって平和である。
モンスターの襲撃が一度あったのだが以前のようなスケルトンシップではなくまたイカダに戻ってしまったのだ。
ハルカとアヤメの攻撃スキルであっさり撃沈させた。
工藤さんが自分の出番が全くないことに若干悲しそうだったな。
まあそんな話はどうでもいい、現在私はこのダンジョンに新たな物を作り出そうとしていた。
私が買ってきたものを見てアヤメが不思議そうな顔をして言う。
「ヒロキ君、それは一体何なのかしら?」
「こっちはセメントとそれに混ぜる水と砂。こっちはレンガだよ、実はこのダンジョンに煮炊きする為のカマドを作ろうと思ってさ…」
まあカマドと言ってもあれだ、キャンプ地にある共用のシンプルなやつがあるだろうレンガを積んで作ったコの字のあれだ。
あれはいくつか用意して上に金網なり鉄板なりを敷けば十分かと考えている。
「今日は工藤さんは用事があるからダンジョンには来ないって言ってたけど、ハルカは何をしてるか知ってる?」
「ハルカならヒロキ君が住んでるアパートの掃除してるわよ、そしてワタシは川の方で大きな魚を釣ってくるわ。今晩はワタシがでかい魚を食べるからね!」
「ははっわかった、魚を取ってきたら調理するから…」
以前ダンジョンでゲットと言うか貰った川魚を焼いた時にアヤメの魚が若干小さいという不幸な事件があった。
そのことを未だにネチネチ言ってくるのだ、アヤメはきっと心が狭いのだろう。
そしてハルカの方には近々アパートを引き払うという話をしたので、そのために事前に部屋の片付けをしているのではないかと思われる。
もとから散らかしてるつもりはなかったのだがハルカから見れば全然掃除が行き届いていなかったようだ。
あれから採取した物をダンジョンセンターの持ち込み収入も確保できた。
全ては順調だ、このままことが事が進んでくれればいいのだが…。
「まあまずはカマドづくりだな」
アヤメの方を見ると既に森の方に向かっていた。
釣った魚を入れる籠と釣り竿を持って行っていってるな。
近頃お小遣いをねだるようになったアヤメ、まさかそれで釣り用品を買ってるとはと先日地味に驚いた。
どうやら本気らしいな、ただアヤメが釣りができるなんて話を私は聞いたことがない。
ボウズだった時のために何か魚を買いに行っておくか。
私の方もレンガでカマドを作るなんてしたことはないのだが、まあ初めてなんていうのは誰でもあるのだ。
こういうのは気合だ気合い。
それから数時間後、不格好ながらなんとかレンガのカマドを二つ用意することができた。
アヤメはまだ帰ってきていない、代わりにハルカがやってきた。
「これがカマドですか。なかなか立派なものですねヒロキさん」
絶対にお世辞だよ、言っちゃ悪いが素人目から見てもギリ及第点くらいのものである。
甘めに見た上でね。まあ使うには問題ないと思うんだけど…。
「料理の素人が使うにはマシな出来だと思うけどね、今日はこのお手製のカマドで何か料理をしようと思うんだけどリクエストとかある?」
「……そういうことなら今晩は私が料理をしてもいいかしら? 私はカマドづくりもアヤメの食料調達にも協力してなかったから少しは何かしたいの」
「そうか、ハルカが料理するなんて始めてだ。楽しみにしてるよ」
「ふふっええ楽しみにしておいて」
ハルカ笑顔で胸を張る、こう言う所は妙に子供っぽい。
見た目は出来る雰囲気のある美女なのにな。
しかしいくらハルカでも初めての料理なんてものがそうそううまくいくとは思えないのだが…。
いやハルカは基本的にポンコツの可能性はない、料理もそうだと祈ろう。
「まずは食材を買いに行きたいのだけど、買い物に付き合ってもらっていいかしら?」
「いいよ」
カマドも完成したのでハルカの買い物に付き合うことにした。
と言ってもハルカにはブレスレットに変身してもらうおうと考えていいる。
本当は人間の姿に変身できるんだし普通の格好をしていれば何の問題もなく街を歩けるのだが、やはり美人というのは目立つからな。
まあさすがにハルカと一緒にいたからといって変なトラブルが向こうから来るなんてことはないとは思うのだが…う~んやはりここはハルカの意見を聞いてみるか。
「ハルカは人の姿とブレスレットの姿どっちの方で街を歩きたい?」
「それはもちろん人の姿の方ね、ヒロキさんと普通に話も会話できますしブレスレットだと人目にはつきにけど話ができないので割と不便を感じるのよね…」
そうかハルカが不便を感じているというのならここはこちらが引くべきだろう。
基本的にいつもこちらの都合を押し付けてるところがあるしお互いに尊重するところは尊重しないとな。
「わかった。なら一緒に買い物に行こう、それに人の姿で大丈夫だよ」
「ありがとうヒロキさん」
というわけで私たちは2人で買い物に行くことにした。