第128話◇
「ふふん、私のゴーレムであるヤマダくんの力を思い知りなさいよ半魚人共!」
相変わらずの何処にでもいそうな苗字を名付けに使ってるのはいただけないが、見事なアシスト攻撃だった。
助かりましたとお礼を言うと更にニンマリとする東雲さんだ、普通に笑えば眼鏡装備の知的な美人なのにどうしてああ言う小ズルい感じのニヤ~って感じで笑うのだろうか。まあ笑い方とか本人の自由だけどね。
「これくらい私のゴーレムにかかれば余裕ですよ余裕! さあヤマダくん、残りの半魚人共も殲滅しちゃってー!」
ヤマダと言う名前のゴーレムが大砲となっている腕を構える、そしてゆっくりと光を収束させていく。
……普通に攻撃までにチャージタイムが必要なようだ、当たり前だがボウガン装備の半魚人も大剣装備の半魚人もゴーレムを潰しに向かう。
取り敢えず私はボウガン装備の意識がゴーレムに向いていたので高速で接近してゴーレムアームで頭をぶん殴って倒した。
ゴーレムに迫る大剣装備の半魚人を先程までの余裕が嘘のようにあわあわと慌てた東雲さんが自身のゴーレムアームを構えて対峙する。
そこに響が接近して背後から半魚人を切り裂いた、見ると先程まで戦っていた半魚人は倒されて事切れていた。
「……ふうっ何とか今回も勝ちを拾えましたね」
「あっ危うくやられるかと思いましたよ~」
「モンスターと武器を手に切り結ぶ……とても探索者をしてるって感じでした!」
モンスターと対峙したストレスでなんか老け込んだように見える東雲さんとやる気満々でより元気になって見える響、この差が精神年齢とか若さなのだろうか。
あんまり失礼な事を考えていたら、それを察したのか東雲さんにジト目で見られた。
無事に戦闘を終えたとはいえ反省点もある。
さっきの戦い、本気で殴れば槍装備の半魚人なら槍ごと破壊して一撃で倒せていたかもしれない。
戦闘にもう少し集中する必要があるようだ。
ちなみにヤマダと言うゴーレムについて軽く質問をしてみたら、やたらと詳しい説明が帰ってきた。
ヤマダゴーレムは中、遠距離からの魔法砲撃を得意てしている。と言うか接近戦は無理らしく見た目はゴツいが装甲の強度はアルミ缶と大差ないそうだ。
魔法で攻撃するゴーレムは殆どのリソースを攻撃に回す事になるから仕方ないんですとは東雲さんの弁である。
その後、更に探索していくと今度は左右の水路から上半身だけ出したボウガン装備の半魚人が左右それぞれ三体ずつの計六体現れた。
片方はゴーレムの雷の砲撃で一撃で右側の半魚人が全滅した、ゴーレムの砲撃に左側の半魚人がビビっている隙に私と響が接近して残りも瞬殺した。
今度は加減とかなしで力いっぱいにゴーレムアームを振るった、元から軽装のボウガン装備の半魚人ならしっかり一撃で倒せた。
「やはり型に嵌めると言うか、それに近い流れに持ち込めれば苦労なく倒せるレベルだね」
「はいっ手強さだけで言えばまだバーサーカークラブの方が上かも知れませんね」
「確かに、向こうは地面から現れるのも合わせたら大抵十体以上は一度の戦闘で相手にしてたね」
もちろん装備してる武器の相性とか個体事に特徴ががあるので一概には言えないが。
探索するにも体力を消費する、出来れば早くこの謎のエリアを脱脂したいが急いで判断を誤るのも危険なので小まめに休憩を取る事を忘れない。
水分補給と軽食によるエネルギー補給だ。リュックサックからキューブを出しても中から飲み物とかサンドイッチやおにぎりを出す、もちろん全て買ってきた物である。
それらを食べながらでも本当は陣形とか考えたい、しかし如何せんメンバーが少なすぎてどうやっても穴が出来るのは目に見えている、仕方ないのでお互いにフォローして頑張ろという結論にいたった。
東雲さんは出来れば後方支援に集中したいので前衛をお任せしたいな~と言っていたがモンスターが来たら自分でも戦って下さいと響にキッパリ言われていた。
その後探索を再開、半魚人との戦闘も二度ほど行い休憩をして移動していった。
やがて一本道は突き当たりに辿り着く。
しかしその突き当たりには壁がなかった、正確には水の壁があった、まるで表面張力によって抑えられているかのようにこちらには水が流れてこないでいる。
水の壁なので半魚人が飛び出してこないかとおそるおそる近付くが何も出ては来なかった。
指先で揺れると本当に水らしく冷たかった。
「これは……行き止まりって事ですか?」
「そんな~それじゃあここからは脱出出来ないって事? 冗談じゃないわよ……」
「まさかこの水面から中に入って泳いで先に進めって事なんですかね?」
「それだとヤマダくんはどうすれば……ここにはアヤメさんも居ないのに……」
「…………いや」
指先で触れてみて気づいたのだが、この水面は魔力で保たれている。ならばと私の中の魔力を流す。
すると水面に水色に光る魔法陣が現れた。
これは明らかに何らかのダンジョンギミックだ、しかしどんな事を起こす物なのかは不明。
少し悩んだが、それを確認するのが年長者であるアラサーの仕事だろう。本当は怖いけどその魔法陣に触れてみる事にした。
心配して止めようする響を説得し、特に止めようとかはしない東雲さんには少し呆れながら魔法陣にそっと触れる。
すると身体が魔法陣に吸い込まれるような感覚に襲われた。一瞬だが視界がブラックアウトした。
しかし次の瞬間には、なんと水中に投げ出されていた。
流石に呼吸出来ないのは不味いと慌てていると背後から声がした、振り返ると水面の少し揺らめく壁の向こうに響と東雲さんがいた。
どうやら二人は無事みたいだ、よかった。
「一河さん……魚になってますけどダンジョンマスターって人間じゃなくなっても大丈夫なんですか?」
「は? 魚って…………ええっ!?」
東雲さんから指摘されて改めて自分の姿を見る、水面の壁に映るのは確かにアラサーではなかった。
なんか熱帯魚みたいな無駄にカラフルで派手な魚になっていた、そして普通に呼吸も出来た。
魚だからか?
流石に開いた口が塞がらない、すると今度は響が魔法陣に触れる。すると彼女は光となって魔法陣に吸い込まれ、そしてこちら側の魔法陣の面から魚となって出て来た。
赤を基調とした鮮やかな魚となっている。
どうやら私もあんな感じでこちらに来たらしい、響は自身の魚姿を水面の壁で確認すると悪くないじゃないと呟いていた。
そして今度は東雲さんを見る、その顔をとても難しい顔をしていた……。