第126話◇
これは少し困った事になったな、まさかあんな平たい岩に乗ったらこんな意味不明なダンジョンに来てしまうとは思わなかった。
完全に私の油断だ、情けない。
私たち三人は何処とも知れない場所に転移してしまった、四角い部屋であまり広くはない。水色のレンガで覆われた場所でそこから出る通路が一つだけある。
先ずここから普通に出られるのかを試すべきだよな。
「ダンジョンゲート!」
私のスキルを発動したがダンジョンゲートは現れなかった。どうやらこの空間はこれまでのダンジョンよりも更に特殊な所らしい。
「一河さん」
「うんっダンジョンゲートを出せない、どうやらここは一部のスキルを封じる場所らしいね」
本来ならこう言うピンチな時に真っ先に現れるハルカが姿を見せない。
名前を呼んで助けを求めてみても現れず、そもそもなんのアプローチもないのはおかしい、何故ならハルカは『千里眼』というスキルを持っているから私たちの異常に知れば瞬間移動で現れる筈だ。
そのハルカが現れないとなると、この状況を知られていない、つまりは『千里眼』みたいなスキルも無効化している可能性が高い。
その事を説明すると東雲さんがビビった。
「そっそんな……それじゃあ他の人の助けとか無しでこの三人だけでなんとかするしかないんですか? そんなの無理じゃないですか~~」
年下の響もいるのにいい大人が情けない事を言わないで欲しい。
ちなみに響は刀を手にしてやる気満々である。
「一河さん、東雲さん、私はこう言う危機を待っていたんです。どんなモンスターも私が叩き切ってやりますよ!」
「頼もしいね響は」
「ふふっこれでも本気でプロの探索者を目指してますから!」
前々から響のダンジョン探索へのモチベーションの高さには並々ならないものを感じていたけど、プロのダンジョン探索者を目指しているのか。
まあ既にバーサーカークラブやタンザナイトロブスターみたいなモンスターと戦って勝ってるし、我がダンジョンでも普通にお金を渡してるのでその時点でプロと言えなくもないんだけどね。
しかし響の中では世界中のダンジョンを巡ってお金を稼ぎつつ様々なダンジョンを目にする事を目標にしているだと思われる。
もしかしたら海外のダンジョンとかにも行く気なのかもね、若いっていいな。
……近くでガクブルしてるだけの大人である筈の東雲さんにもそのやる気を分けてあげてほしいくらいである。
「まあ進める道もあるみたいですし、前に進みましょうか東雲さん」
「ええ~本気ですか?」
「ここにいても何も事態は変わらないと思いますよ?」
私の言葉に東雲さんは不承不承ながら頷いた。
すると東雲はキューブを取り出した、もしかしてゴーレムを出すのか?
そう思っていたらキューブから出て来たのはゴーレムの物と思われる腕だった。
通常のゴーレムのそれより少し細く手がグーに握られている。
「これは試作品で止まったゴーレムのパーツから作った武器です、流石に丸腰というのは危険ですからね」
そう言うと東雲さんはそのゴーレムの腕をもう一本出して私に渡して来た。
私にも使えという事か、モンスター相手に素手で戦うのは流石にと思っていたので非常に助かる。
「東雲さん、ありがとうございます」
「別に良いですよ、それで私たち女子を守ってくれたら」
「……東雲さん、本来なら私たちが一河さんを守るのが普通なんじゃ?」
「ええ~そこは一河さんが男を見せてもらわないと……もちろん私も戦いはするけど、現役離れてそこそこ立つので戦力としては期待しないで頂戴ね」
この嘘を一切つかない感じはある意味では東雲の長所なのかも知れない。
取り敢えずゴーレムアームを装備した私と東雲さん、そして響の三人で目の前の通路を進む事にした。
通路に入る、この場所は壁が青ければ床も天井も青色のレンガと石畳を使っている。
そして左右には横幅数メートルはある水路がある。
ゲームとかなら間違いなくあの水路からモンスターが出て来るな。
私と東雲さんが左右を、そして響が前方を警戒するように進む。ついでに私は後ろも警戒しておく。
東雲さんが持ってるゴーレムをもっと出してくれると助かるのだが彼女曰く切り札は最後まで取っておくべきなんだそうだ。
あのゴーレム、切り札って呼べる程に強力かな?
そんなことを言うと東雲さんがヘソを曲げるのは目に見えているので敢えて私は何も言わなかった。
そして通路を進む事しばらく、遂にモンスターと出会う。
予想通り水路からヌッと現れた。
しかし予想では不意打ちとかしてくるかもと思っていたらそんなことはなくで普通に前方から現れたよ。
現れたのは半魚人みたいなヤツだ、頭がカサゴみたいになっていてトゲトゲしてる。
手には穂先が三股の槍を持っていてそれを私たちに向けてきた。
現れたのは一体か……これは増援の可能性とかもあるかな?
ハルカかアヤメがいれば遠距離から射撃で倒せるのに、この場にいる顔ぶれでは接近戦を挑むしかない。
何をしてくるか分からない相手に接近戦とか嫌なんだけどね。
そう思っていたら響が動いた。
「先手必勝です、私が行きます!」
刀を構え突然する響、半魚人は槍の穂先を響に向けて突きを放つ。
スキルとかは使ってこない。ボスとかではないのかな。
響は放たれた突きを見切り躱す、更に槍を引いて突きを仕掛けようとした半魚人の槍を刀を振るい弾き飛ばした。
そして続けざまに放った斬撃が半魚人の頭を切り飛ばす、やはり連続攻撃となると槍より刀の方が早い。
倒れた半魚人、どうやらそこまで強いって訳ではないみたいだ。
「ふうっこの程度なら問題ありませんね」
「ひゅ~~響ちゃんやる~~!」
「茶化すのは辞めて下さいよ東雲さん!」
てっきりバーサーカークラブみたいに後から追加で現れるかと思ったらそうでもなかったか。
まあ最初だからね、これからも油断はしないように行きたい。半魚人の素材は……アヤメがいないので諦めるしかないか。
私たちは探索を再開した。