第123話◇
「バーサーカークラブ三体接近、近くに増援もいるかもだから気をつけて響!」
「分かってる、私の刀の錆にしてやるわ!」
「……支援攻撃を開始するわ」
「三人とも無理は禁物よ!」
現れたバーサーカークラブに向かって響が単身突撃していた、見ると後方で高見さんとさゆりがそれぞれスキルで一体ずつバーサーカークラブを攻撃して圧倒している。
あの二人のスキルは攻撃力高いからね。
高見さんは光のハンマーでタコ殴りに、さゆりは出現させた結晶体から放つ雷撃でそれぞれバーサーカークラブを料理していった。
そして響だが彼女は振るわれるバーサーカークラブのハサミに向かって刀を一閃。
アッサリと切り飛ばした。
素人から見ても大した一撃だ、バーサーカークラブの甲殻は絶対に柔らかくなんかないのに。
それをあそこまで簡単に切り裂くとは、刀もそうだが響のモチベーションの高さとパフォーマンス、そして実力が発揮されたからこそなんだろう。
あっやはりと言うべきか砂の中から追加でバーサーカークラブが三体現れた。
それに備えていたらしいアズサが弓を放つ。
「ボクの活躍の為に出て来てくれてありがとうね! 疾風迅矢!」
アズサのスキルが付与された矢がそれぞれのバーサーカークラブの口に入る。
すると内側から破裂するような音がしてバーサーカークラブたちは動かなくなった。
硬い甲殻を貫くのは無理だったのだろう、ならばと内部に矢を放って倒すとは。
彼女もコツコツと成長しているんだね。
四人は順調にバーサーカークラブを全滅させた。
そしてひと息ついてる四人の前に出ていく。
「お疲れ様」
「あっ一河さんもサマダン島に来てたんですね」
「お疲れ様です、どうしてこちらに?」
響とアズサの言葉に私は四人の様子を見に来ただけだよと伝える、後で東雲さんのゴーレムを見せたら驚いてくれるかもなので秘密にするのだ。
「……一河さん、あのバーサーカークラブというモンスターは本当に数が多いですね」
「特に一度全滅させても地中からまた出て来る事が多いですね、あのハサミで攻撃されたら危険ですから油断出来ません」
さゆりと高見さんの意見を聞き確かにそうですねと返す、四人はバーサーカークラブを瞬殺しているがそれは手痛い反撃をさせない為に短期決着を心掛けているからなんだろう。
私もあのハサミで挟まれるなんて冗談じゃないからね。何とかこのダンジョンの管理をしてあのバーサーカークラブの大量発生を抑えられないかと考えてしまう私だ。
「……やはりあのバーサーカークラブは危険なモンスターですからね、何とかこのサマダン島の支配権をこちらの物に出来ないかとは思っているですけど」
「そうなんですね」
「私はちゃんとした戦闘が出来るのは助かるんですけどね、いつものんびりこのダンジョンで過ごしていると他のダンジョンに行った時に身体が鈍ってそうで……」
響は真面目だね~けど本音はその刀を単に使ってみたいだけだったりしないの?
まあ余計な事は言わないけどね、私ももう少し若ければ彼女たちと一緒になってモンスターとバトルとかしても良かったかも。
アラサーになると勝てると分かっていても怖いもんは怖いのでついつい安全な選択をしてしまうものだ、もちろん彼女たちがこのサマダン島に今後もいくのならそれを全力でサポートするつもりはあるんだけどね。
取り敢えず四人と合流はした、そしてあれこれと話し合った結果、私たちはみんなでサマダン島の更に奥に行くことになった。
大した理由はないが工藤さん曰く、ダンジョンの奥へと進めばおのずと更に強力なモンスターだったりボスクラスのモンスターが待ち構えているのがダンジョンなんだとか。
いい加減黒いカニのモンスターを相手にするのも飽きたのだろう、出て来るモンスターが代わり映えしないので問題なく倒せるのなら先に進んでみるのもアリだと言う事になった。
「実は私、ボスクラスのモンスターなんて見たことないから興味あったりするんだよ」
「……一河さん、多分ですけど以前一河さんが瞬殺してイフリートとかスケルトンキングがボスクラスのモンスターだと思いますよ?」
「ええっそれもかなり危険度は高めのですね」
若干困った感じで工藤さんとさゆりに言われた。
えっそうなの……確かにあのモンスターたちは群れで現れたのをハルカとアヤメと私の三人での攻撃スキルで瞬殺してる、あれがボスとして出て来ても私としてはあんまり楽しくはないかな。
しかしここでスケルトンなんて出ては来ないだろう、私は取り敢えず行ってみましょうと言って皆をアヤメと共に先導した。
事情をよく知らない東雲さんが「スケルトンキング? イフリート? 瞬殺ってどう言う事?」とブツブツ言ってが無視した。
サマダン島の探索を進める。バーサーカークラブは時折現れるがこのメンバーなら全て瞬殺だ、そして倒したバーサーカークラブの死骸は異臭もあるしサマダン島の景観を損なう恐れがあるのでアヤメに全てキューブ化して貰った。
そしてそのキューブを運ぶのは私の仕事だ、背負ってるリュックサックにキューブをポイポイと放り込む。このバーサーカークラブ……茹でたり焼いたりしたらとても美味しいなんてオチはないのかな。
そんな事を三度ほど繰り返してサマダン島の奥に進んで行くと不自然に広い場所に出た。
これまではダングローブが通路なんか用意してさせないぞ、とばかりにモリモリ生えて邪魔だったのにそこはかなり広めの楕円形を形作るように全く生えていない。
ここがダンジョンである事を考えると先の話に出ていたボスとかが登場するかもな予感がする、或いは探索者パーティーを全滅させる気満々のエグいダンジョントラップの可能性とかあるかもしれない。
これは油断なく進む必要が……。
「せぇええいっ! ……ん~罠とかはないみたいね、ヒロキ君、他の皆も私が鉄球をそこら辺に飛ばして叩きつけながら進むからワタシの後ろに基本的にいるようにしなさいよ~」
そう言ってアヤメは自分の手からだした鎖とその先にくっ付いてる大きな鉄球を振り回してそこら辺をガンガン攻撃している、あれじゃあ確かに罠とかあっても破壊されてしまうな。アヤメのパワープレイに私も他の女性陣があ然としていた。
「さっ流石はアヤメさんですね……」
「凄いと言うかなんとうか……この刀でもアレは無理ね……」
「私たちにはとても真似できないわ」
「しなくていいのよ紺野さん」
高見さんと三人の女子高生探索者はそれぞれ感想を口にする、確かにアレは凄いよねとしか言えないよね。
そんな感じでしばしアヤメの好きにさせていると何やら異変が起きた。それは最初は微かな揺れだった、それが徐々に大きくなりそして一旦止まる。
私たちはその時点で息を殺して前方に注意を払う、時間にしてほんの数秒後、目の前の地面がまるで大爆発したみたいに土が舞い上がった。
「オォオオォオオオーーーーーーーーッ!」
現れたのは巨大なザリガニだった。全身が青色で所々に土が付いてる、そしてハサミが左右二本ずつで計四本もある。
その目はバーサーカークラブ同様に赤く光っていて敵意全快だ。
「アヤメ、コイツは……」
「ええっどうも本当にボスっぽいヤツが現れたわね」
「一河さん、ここは私たちが出ます!」
工藤さんがそう言うと他の皆も口々にそれに同意するか肯定し頷く。若干一名ほどえっ私も戦うの? て感じの東雲さんとかいたが皆無視していた。
そんな訳でも巨大なブルーザリガニとの戦い、開始である。