第120話◇
「ふふ~んヒロキ君、少し手加減し過ぎだったわよ?」
「そう言われてもね…」
「ヒロキ君自身の力だってかなり上がってるのは本当よ、後はヒロキ君のやる気一つで幾らでも力を発揮出来るわ」
やる気一つで強くなれたら苦労はしないよ。
けどアヤメなりに私を励まそうとしてくれているんだと思うことにした。
「取り敢えず、今日の所は……」
「提案があるわ! サマダン島でカナのゴーレムを戦わせてみるのはどう?」
「それは良いですね」
えっ良くないよ。
私はもう昼寝でもしようかと思っていたのに…。
しかし二人はどんどん話を進め、何故か当たり前のように私までサマダン島に行くことが決定していた。
なんというか、女性陣の行動力とか場の流れが凄すぎてあっさり流されてしまった私だ。
「……分かったよ、それじゃあ行こうか。サマダン島へ」
「はいっそれなら私はもう少し色々なゴーレムのキューブを持ってきますね」
「使ったらまたキューブ化してあげるから遠慮なく持ってきなさい!」
東雲さんがワクワクしながら自分のテントに向かっていった。
あのタナカちゃんゴーレムを見た後なので他にはどんなゴーレムがあるのか実は楽しみでもある。
ロケットパンチとか出来るゴーレムとかいないのだろうか、いたらバーサーカークラブを相手に使って欲しいかも。
その後、私も拠点のテントからリュックサックを引っ張り出して背負い、アヤメは私物の夏服っぽい物のままであった。
ハルカ曰く夏っぽいダンジョンでも蚊みたいな虫はいないらしいので私も半ズボンと半袖で行こう。
東雲さんが戻ってくるとその服装は完全に夏のそれだった。
端から見ると夏休みにどこかに遊びに行こうとしてる面々にしか見えないな。
「先に高見さんたちが行ってるだろうね、どうする? 合流を目的に移動するかい?」
「ワタシたちはマイペースで良いんじゃない?」
「アヤメさんに賛成です」
「分かった、ならぼちぼち行くとしようか」
まあ今回の探索は東雲さんのゴーレムの試運転とかそんな感じだろう。
それなら……。
「あっいたいた、一河さん、カナ」
「工藤さん?」
「一河さん、カナがまた変な事を言ってきたりとかしてませんか? 心配だから見に来ちゃいましたよ」
工藤さん、少し手遅れだったね。
アラサーは既に東雲さんのワガママで先程ゴーレムと模擬戦とかしたしこれからサマダン島に行く予定です。
「実はこれからサマダン島に行くんですよ」
「カナのゴーレムを実戦投入するのよ!」
「カナのゴーレム? ああっあの……アレはあまり使い物にはなりませんよ?」
「そっそれはありさが手加減が出来ないのが悪いんでしょうが!?」
ずっと思ってたけど工藤さんって東雲さんには遠慮がない。
けどその距離感が二人に合っているように見える。
「一河さん、私もついて行って良いですか?」
「良いですよ」
工藤さんも一人じゃ暇だろう。
三人が四人になっても別に構わないだろうしね。
東雲さんは不貞腐れてるがそこは見なかった事にしよう。
そして私たちはサマダン島へと入った。
相変わらずの夏って感じの気候だ、青空なのは良いけどもう少しこの蒸し蒸しっとした感じをどうにかして欲しい。
砂浜から見える水平線の向こうにモコモコとした夏の入道雲が見える。
白く大きな入道雲と青空のコンボはアラサーを夏休み真っ最中の少年だった頃を思い出させた。
少年時代……最高。
お金も無かったし、親も何処にも連れ行ってくれなかったけど数少ない友達と遊び回った日々は多少おぼろげになろうと私の記憶に刻まれていた。
「なんかヒロキ君が遠い目してるわ~もしかして今日死ぬのかしら~?」
「えっ縁起でもないこと言わないでアヤメさん!」
「アヤメさんが言うと本当にそうなりそうで怖いですね」
全くもってその通りだよアヤメ。
彼女には変に働く勘の良さがある、あまり不用意な事は口にしないで欲しい。
じゃないと私が死んじゃうじゃないか。
そんなやり取りの後、私たちはダングローブ密林はと入った。
中は相変わらず鬱蒼としている。
けど以前よりも通路が広くなっているような。
「もしかして響さんたちが?」
「ええっ多分あの子たちがバーサーカークラブを倒しやすくする為にダングローブを伐採しながら通路を広げたんじゃないかしら」
響の持つ刀はネシアからレンタルしてる相当な業物だ、あれならダングローブくらい伐採出来ても不思議じゃないか。
「響さんは相当張り切ってるね~」
「えっ一河さん、自分のダンジョンの木とか勝手に伐採されても平気なの?」
「まあ全部伐採されたりしなければ良いんじゃないかな? ここに出て来るバーサーカークラブだってダングローブを遠慮なく破壊してるしね」
「そっそう、まあダンジョンマスター本人が良いのなら良いんだけど……」
何やら東雲さんが微妙な表情をしている。
何か変な事でも言ってしまったかな?