第110話◇
サマダン島の探索を一時中断して我がダンジョン島へと帰還した。
理由は響の刀がポッキリしたからである。
私たちは昼が近いこともあり昼食を取っている、ハルカが用意してくれたサンドイッチを食べてジュースを飲んでいた。
まあ響はなにも食べてないけど。
彼女は現在生きてるのか死んでるのか微妙なラインを行き来していた、なんか肌が青白くて目がどこを見てるのか分からないのだ。
しかしその手には折れた刀がしっかり握られていた。
高見さんがうな垂れられる響の肩をポンポンしている。
何とかしてあげたい。
しかしダンジョンは持っていてもアラサーには折れた刀をどうにかしてくれそうな人に知り合いとかいないんだ。
いやっそれならいそうな人に話をしてみるってのはどうだろうか。
私は工藤さんに話しかけてみる事にした、もちろん響とは少し離れてね。
「工藤さん、響さんの事なんですが…」
「はいっあれはもう新しい武器を買うしかありませんね」
「やっぱり探索者の為の武器ってどこかに売ってあるんですか?」
「それはもちろん、私のこのレイピアも買ったので…」
言っててそりゃそうかと思い直した私だ。
私たちが探索するダンジョンはダンジョン資源という魅力的な物がある宝の山だ。
しかし残念ながらモンスターを倒しても宝箱が落ちて中に武器や防具が入ってるなんて事はない、戦う為の武器は人間が作るしかないのだ。
本格的に探索者として活動する前にドロップアウトした身なのでその辺りの情報とか全くないのだ、そこで工藤さんに聞いてみる。
「工藤さんのそのレイピアもですか…一体お幾らくらいするんですか?」
「これは五百万くらいですね」
ごふぉんっ!?
五百万だと……たかが実用の為の剣1本に本気なのかこの子は。
幾らダンジョンで懐に余裕があるといってもそんなお金をポンと出す事は…なんか響自身の為にもならない気がするし高見さんにも怒られる気がする。
響はパパ活女子ではないのだから。
う~ん何とかしてあげたいけど私には…。
「……やっぱり響ちゃんの刀を?」
「ええっしかしこんな時にはどうすれば良いのか…」
「二人ともどうかしたのかしら?」
ハルカが話しかけて来た。
そこで響の刀について話してみた。
「それならどこかの企業が出している刀のスタンダードモデルで十分じゃないかしら?」
「企業が出している刀? スタンダードモデル?」
「そうよ、ネットで少し調べれば分かるけどヒロキさんの世界じゃ人々がダンジョンを効率良く探索する為に武器の開発競争も激しいのよ?」
えっ日本企業って武器とかどんどん作ってんの?
間抜け顔を晒す私を見てハルカが話を続けた。
「強力な武器はそのまま探索者たちの強さと生存率に直結するからヒロキさんの世界の多くの国が競い合うように様々なダンジョン専用の武具を開発してるわ、もちろんそれらにもダンジョン資源が活用されているの」
「ふふっ一河さん、私のこの鎧や剣はオーダーメイドで知り合いに作ってもらってるんですよ?」
工藤さんがくるりと一回転する。
彼女の探索者の装備はまるでお姫様みたいな白を基調として赤のラインが入ってるドレス姿、それに胸や腕に金属製の防具を装備した出で立ちだ、普通に似合っている。
そうかこのドレス姿はオーダーメイドだったのか、もしかして工藤さんの趣味だったりするのかな?
「むっ今何か変な事を考えませんでしたか?」
「いっいえそんな事はなにも…」
「ハッキリ言っておきますが、この目立つドレスはオーダーメイドを依頼した知り合いの趣味ですよ?」
「そ、そうなんですか?」
「そうです、元は大企業でダンジョン専用武器開発の部門にいて実力は確かなんですけど色々とワガママで……そのせいで会社をクビになったくらいなんですよ…」
「それはまた、何というか…」
「まあ本人は自分の理想とする武器や防具を作ること自体が目的らしいですけどね、その為には様々なダンジョン資源が必要でお金は幾らあっても足りないっていつも愚痴ってました…」
なんて我の強いお知り合いをお持ちで……。
しかし会社をクビになってもまだ武器を?
そんな事が今の社会では許されているんだ、知らなかった。
そして結構な向上心をお持ちであると、これはもしかしたら……もしかするかも知れないぞ。
「工藤さん、その知り合いの方は個人でダンジョン専用の武器などを作っているんですか?」
「えっはいそうですけど…性能は一流ですけどその分値段もかなり高額ですよ?」
「いえっそれなら私はお金以外の物でやりようはあるかと…」
私はその工藤さんの知り合いと一度会わせてもらえないかと話をした。