第102話◇
「なっ夏のダンジョン島……か」
夏、それは日本のわんぱく少年が虫かごと虫網を手にして田舎の山々を駆け回る季節(現代の都会は知らないけど)。
夏、それは蚊とかハチとか呼んでもいないのにプ~ンとブ~ンと現れてうわっとなったりムキーとなる季節。
夏、それらとにかく暑くてキツくて働きたくなんてなくなる地獄の季節。
夏、それはプールとか行きたくてもアラサー単品でとなると無理~となる切なさほとばしる季節。
「うん? それにしてはそこまで暑さが酷くは感じないよ?」
「ここはダンジョンだもの、ヒロキさんがいた国や星みたいに温暖化なんて進んでないのだから当然じゃないかしら」
「なっなるほど」
そう言えば私が子供の時は夏日が三十度を超えるのすら少なかったんだよな、本当に暑くなってしまったもんである。
ちょっとしんみりした感慨にふける。
おっとせっかくの楽しいダンジョン探索だ、こう言う事を考える時じゃないよな。
私は本当に久しぶりに感じる『過ごしやすい』夏の気温と太陽の陽射しを受けてマングローブっぽい密林へと歩き出した。
う~ん……まあ結局は暑いんだけどね!
マングローブっぽいこの密林は中々に進むのがシンドイ。
この足元に狙って生えてる根っ子が、これはアラサーの足を引っかける為に成長したのかと悪意すら感じる。
とっさに躱せなくて何度足を取られたか…この密林さ地面がそこそこしっとりしてるから倒れたりすると汚れが酷い事になるだよね。
アヤメなんてヒョイヒョイ躱して進んでるのに、本当に私の身体能力はダンジョンの成長と共にパワーアップしてるのか?
ちょっと自信がなくなってきた。
しかしそれでもアラサーは頑張って若者の後を追ったよ、キツかったけど。
そしてある程度進んだ所で休憩を取る事になった。
現在の所、このダンジョンで新たなモンスターとの出会いはまだない。
やはり我がダンジョンはそんなにモンスターの数や種類は少な目なのがダンジョンの基本的なベースなのだろうか。
「ふう~疲れた」
「ヒロキ君もう疲れたの~?」
アヤメは割とインドアな見た目をしてるのに結構アウトドア派なんだよね。
足腰も強く体力もある、私にそれらの能力の一部を分けてくれないかな。
「いや~はははっまさか夏真っ盛りな日本みたいにこっちまで真夏のダンジョン島が現れるなんて思わなくてさ…」
「仕方ないわ、履いてる靴もぬかるんだ場所を歩くのには向いてないし…少し装備を変えてくる?」
確かにハルカの言うとおりかも、ダンジョンゲートが使える私はいつでも自宅に戻る事は出来るんだから。
しかしなんかそれは負けた気がするんだよね、ワガママだけどもう少し頑張りたい。
「もう少し探索を続けたいかな」
「分かったわ、ヒロキさんがそう決めたのなら私は何も言わない。ただ休憩はしっかり取りましょう、アヤメ、水分補給をしましょう」
「オ~ケ~ならエナジードリンク系とか~? 嫌ならポポリスエットもあるけど?」
「う~ん普通に麦茶とかが良いかな…」
そして麦茶で喉を潤して、簡単に栄養が取れるカロリーバーで補給をすませた。
しかし蒸し暑いので汗が流れる、今日の洗濯は念入りにしないと。
アラサーの体臭を残した服を着て他のみんなに会ってうっとした表情をされたら三日三晩は寝込む精神的ダメージを受けてしまうだろう。
取り敢えず休憩をして体力を回復させたので再び歩き出す。
進んでいくと海水がしみしみな場所が幾つもあった。
ああ言う場所って何か水棲のモンスターが潜んでたりして近寄ってきた探索者を襲ってきたりするのだ。
……ちょっと近づかないようにしよう。