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30.『帝国の黒き重圧』と『鋼鉄の壁』

 帝国とリンド皇国との国境にある外交官邸に到着した。

 会談は、予想通り揉めていた。


「ご苦労様です、リーゲンダ候」

 大使館の職員が出迎えてくれた。

「うむ。会談はどうなっている?」

「はい。揉めております。帝国側が少し押されております」

「どうしてだ?」

「リンド皇国が、周辺の有力国家を巻き込んで会談に来ておりました。我々も把握しておらず、先手を打たれた状態です。倫理的な問題を前面に押し出して、各国共同で我が国の転移魔法大聖堂の稼働停止を求めて来ています」

「そうか」

「そういう状況ですので、この場では帝国()()部隊ではなく、帝国()()部隊として頂きたいとのことです」

「構わぬ」

「大使館の大使からは、到着したら直ぐに参加してくれと強く要望がありました」

「わかった。会場へ案内せよ」

「はい、こちらです」

「我が隊のルナやオルトは、会場内か?」

「はい。相手方に警備の者が付いていますので、こちらも警護という名目で入って頂きました。ルナ様とオルト様は、リーゲンダ候の到着次第交代させたいと言われておりました」

「わかった」


 外交交渉をしている会場から大きな声がする。

 恐らく皇国側の外交官だろう。

 

「……で、あるからしてっ! 帝国としては、どうお考えなのか!」

 会場の外にも聞こえてきた。

 うるさい声だな。

 大きな声で怒鳴れば言う事を聞くと思っているのか?


「では、入ります」

 大使館員がドアを開ける。

「遅れまして申し訳ありません。帝国特殊部隊のリーゲンダ候がお着きになられました」

 会場に入り、先の大使館員が私を紹介した。


「!」


 その時、その場の空気が氷の様に固まった。

 皆、一斉に私の方を振り向いた。

 握り拳を上げ、泡を飛ばして意見していた皇国側大使は、目を丸くして固まっている。


「遅れて申し訳ありません。帝国特殊部隊隊長のリーゲンダと申します。転移魔法大聖堂についての御意見があると聞き、参上いたしました」

「……」

 皆、何も言わない。

「あ、あれが、帝国の黒き重圧か? 死神みたいだな」

 皇国側の誰かが、小声で囁き合っていたのが聞こえてきた。

 

 私は、ゆっくりと帝国大使の隣に座った。


「どうされましたかな? 話を進めて下さい」

 私は、言った。

「い、いや。……、その」

 皇国側大使の顔から汗が滴り落ちた。

 皇国側大使は、私の雰囲気に飲まれているのか、反応が出来ないでいた。

 しかし、自分の隣の帝国大使も、何故か固まっている。

「大使殿、話を進めて頂けませんかな?」

 私は、帝国側の大使に話を進めてもらうように即した。

「……。あ、ああ。そうだ。そうだな」

 よかった、正気を取り戻したようだ。


「ですので、何度も申し上げているが、皇国側の査察など受け入れられるわけがない」

 帝国大使が反論する。

「う……、ですが……」

 口ごもる皇国側大使。


(なんだ。このままこちらに有利のまま、会談はおわるのか?)

 と、私は少し楽観視しそうになった。

 だが、そう簡単にいかないだろう。

 あの国境にいた奴が、『鋼鉄の壁』という奴が、もう直ぐ到着するからだ。


「し、失礼いたします!」

 こんどは、皇国側の職員が入って来た。

「大使殿、皇太子特殊守備隊兵長・ガルド隊長が到着されました」

「お、おお。直ぐこちらに!」

 と、喜ぶ皇国側大使。


「失礼いたします。皇太子特殊守備隊兵長・ガルドです」

「待っておりましたぞ。ガルド隊長。ささ、こちらに」

「ハッ!」

 そう言うと、ガルドは皇国側外交官達の後ろに立った。

「あ、あの席へ?」

「いや、こちらで結構です」

 仏頂面の男が、少し離れた場所で待機した。

 どうも、会談自体には参加することは無いようだ。

 外交官邸周りには、特殊守備隊の連中も多数到着している。

 恐らく、ルナやオルトらと、今頃は睨み合っている所だろう。

 ルナやオルトらには、いつも以上に皇国側特殊守備隊に対して圧力をかけるよう言っておいた。

 ガルドは、いつでも我らと戦うことになっても構わないよう用心していた。

 

 ガルド達が到着すると、皇国側も息を吹き返した。


 それ以降は、『こうせよ』『いや駄目だ』の応酬に終始し、時間切れとなった。

 私としては、会談がどちらに有利がなるかなど、どうでも良かった。

 ただ、リリィが潜入しやすくなれば良いのだから。


「ご苦労様でしたな」

 帝国大使が労いの言葉をかけてくれた。

「惜しい所でしたな」

「ははは。リーゲンダ候が来られた直後は行けると思ったのですが、直ぐにあの仏頂面の男が来てしまいましたので、押し切れませんでしたよ。あの男が、『鋼鉄の壁・ガルド』という奴ですか?」

「恐らくは。まあ、かなり手強そうな奴でしたからな。皇国側の守りの(カナメ)なのでしょう。あの男は」

「ですな。リーゲンダ候を見ても、臆することなく仁王立ちしておりましたからな。何で座らなかったのでしょうかな?」

「さあ、わかりませんな」

 私は、あいまいに答えておいた。

 恐らくは、剣の間合いに入るのを避ける為であろう。

 抜け目のない男である。


「親方様、帰る準備が整いました」

 と、ルナが報告に来た。


「よし。帰るぞ!」

「ハッ!」


 その場にいた帝国暗殺部隊の全員、返事をした。

 我々は、宿舎への帰路に就いた。

 

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