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3.唐突な告白

 そうして、私が困惑して立ち尽くしていると、隣にいたシャランジェールが、唐突に歩みだした。


「!」


 私は驚いた。

 その私も含めて、”最後の守護団”の者達も驚いていた。


(シャランジェール、何をする気だ?)


 私は、シャランジェールが彼女を切る為に向かったのだと思った。


 しかし。


「『大神官 プレケス・アエデース・カテドラリース・ミーラクルム』殿。私は、シャランジェール・エクセルキトゥスと申します。この私と、結婚して欲しい」

 警戒する”最後の守護団”達の間を割って入り、シャランジェールは跪いて手を差し伸べ求婚していた。


「な、何?」

 私は、呆気にとられた。


(シャランジェール。何を言っているのだ? 結婚? 結婚を申し込むだと? 我々は、この大神官を殺しに来たのだぞ?)


 シャランジェールは、私達に構わず続けて言った。


「『大神官 プレケス・アエデース・カテドラリース・ミーラクルム』殿。あなたは、いずれこの地で死ぬ。他に逃げて生き延びようともする気もないでしょう。ならば、その命、私に預けて預けて頂きたい」

 プレアの目を見て、シャランジェールは言う。

「そんなことをしたら、今度はあなたの方が咎められるのでは? 自ら死を選ぶようなものです。愚かなことはしないでください」

 プレアは言う。


 もっともなことだ、刺殺対象に恋をして結婚を申し込んで一所に逃げようなどと。

 どこの組織が許すものだろうか?


 だが、シャランジェールは、こう言い返した。

「あなたに出会った瞬間。暗殺者としての私は死にました。あなたを殺す目的も忘れ、あなたに心を惹かれました。私も死を覚悟して、こうして述べております。血迷って言っているのではない事をご理解いただけますと幸いです」

 シャランジェールは、真剣な眼差(マナザ)しをプレアに向けていた。


 シャランジェールが言った『あなたを殺す目的も忘れ、あなたに心を惹かれました』という言葉は、私も同様だった。


 送る刺客が、ことごとく寝返っていたという理由が、この事態を我が身で経験して痛感した。


 だが、その威厳が通用しなかったのか、大神官の周りの人間達は”後の皇帝”に差し出そうという悪魔の様な取引をしている。

 

 その違いは、何故だ?

 何が、起こっているのだ?

 この国に?

 

 私は混乱した。


 自身のプレアへの思い、自分達の使命、我が友シャランジェールへの嫉妬。

 それぞれの思いで混乱し、冷静な判断が出来なくなった。

 シャランジェールは、いつも奇抜な事をする奴だ。

 私が慎重で、やや根暗な感じに比べて、彼は明るい性格だ。

 暗殺者を生業(ナリワイ)としているくせに、やけに明るいのだ。

 その性格を、少し羨ましいと思うことも良くあった。

 だが、シャランジェールが『動』ならば、私は『静』なのだ。

 同じ力量の二人が、『静』と『動』の組み合わせのお陰で、我らに力でかなう者はいなかった。

 

 そしてさらに、ここへ来る前に思った大神官プレアに対して抱いた不信感を抱いてしまったことが、プレアへの思いを余計に複雑にさせてしまっていた。


 シャランジェールは、静かに前に進み、プレアの手を取った。


 プレアは、少し驚きながらも拒まなかった。

 既に、シャランジェールからは、敵意など感じられなかったからだろう。


 私は、その様子をジッと見ているしかなかった。

 どうして良いのか、分からなくなっていた。


 プレアは、シャランジェールに手を取られながら、戸惑って固まっている私の方に視線を静かに向けきた。


 その綺麗な瞳が、私の様子を伺っていた。

 私も目を逸らすことが出来なかった。

 いや、目を逸らすなどしたくなかったのだ。


 プレアは、どうして私をジッと見ているのだろうか?

 求婚しているシャランジェールを差し置いて。

 私の情けない姿に同情でもしているのか?

 いや、そうではないだろう。

 では、何を?

 もしかして、私も告白することを待っているのか?

 いや、そうだとしたら、それはない。

 そこが、私とシャランジェールとの大きな違いなのだ。


 シャランジェールは、今自分が打てる最善手を常に選んで打っている。

 単に自分の気持ちに正直に行動しただけかもしれないが、それだけではない。

 そういう奴だ。

 仮に、私の気持ちの方が、シャランジェールよりも上回っていると計れたとしても、行動に慎重を選ぶ私はシャランジェールの様な行動をとらないだろう。


 プレアの目は、それら我ら二人の心情を悟っているかのようだった。

 私は、あくまで『暗殺者』としての自分にこだわっていた。

 そして、その気持ちに苦しんでいた。

 プレアの目は、それを静かに見ている様な感じがした。


 しばしの時の間を経て、プレアは何か決意したような表情を見せて、シャランジェールに顔を向けなおした。

 

 そして、……。

 

「わかりました。あなたの結婚の申し込み、お受けいたします。シャランジェール殿」

 プレアは、シャランジェールの申し込みに返事をした。

 

「プ、プレア様?」

「何ということを、人殺しの男と結婚などと……」

 ”最後の守護団”達は騒めいていた。


 ”後の皇帝”が、一人の女性神官に私達二人を任命したのは、こうなる事を避ける為のはずだった。

 だが、”後の皇帝”の思惑通りにいかず、親友シャランジェールが”後の皇帝”の使命の背くことになった。

 私も、暗殺者としての自分を忘れた。


(どうすれば良い。仮に、このまま許し見逃したとしても、長く逃げおおせるものではない。我々が失敗する可能性も考えていないはずはない。今は”前の国”の掌握を優先しているために、単に手が回っていないだけの事なのだ。失敗しとなれば、最優先事項に上げられて、次はないだろう。他の者に討たれるぐらいなら、いっそシャランジェール共々、この我が手で()るべきでは? しかし、この気持ちのままでは、まるで嫉妬して二人を殺すような愚か者の様にも思えて情けない。どうすれば正解なのか? どうすれば……)


 私は目をつむり、一人悶々と考えていた。

 すると……。


「!」


 突然後ろから誰かに打ち付けられ、私は気を失った。

 それをしたのは、間違いなくシャランジェールだろう。


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