祭り
キャンピングカーの窓から外を見る。
猛吹雪で雪が上、横、斜めから降って来ているだけじゃ無く、風で巻き上げられた雪が下からも飛んで来ているキャンプ場。
当たりまえな事だが、今キャンプ場でキャンプしているのはソロキャンパーの俺だけ。
こんな猛吹雪に遭遇するのは想定外だったけど、断熱材をたっぷり使用して冬仕様にしたキャンピングカーなんで、外の気温がマイナス20℃だか30℃だったかの極寒でも車の中は結構暖かい。
寧ろ明日の朝、雪に埋もれているであろうキャンピングカーを掘り出す事を思うと憂鬱になる。
猛吹雪で一寸先も真っ白な景色を眺めながらコンロで煮込んでいるオデンを突っつき、熱燗を飲む。
荒れ狂う風に翻弄されている雪を眺めている俺の耳に、場違いな音が聞こえて来た。
ピーヒャラ〜ピーヒャラ〜ドンドコドンドン〜
ピーヒャラ〜ピーヒャラ〜ドンドコドンドン〜
幻聴か? と思いながらも耳を澄ました。
ピーヒャラ〜ピーヒャラ〜ドンドコドンドン〜
やっぱり聞こえる。
こんな猛吹雪の中、祭りでもやっているのか?
突然、吹き荒れていた雪が一瞬途切れた。
ピーヒャラ〜ピーヒャラ〜ドンドコドンドン〜
山の中腹にあるキャンプ場の下に広がる休耕田で、笛や太鼓の音に合わせて大勢の浴衣姿の人たちが踊っているのが目に入る。
その人たちの姿は直ぐに吹き荒れる雪に閉され見えなくなった。
そんなバカな……。
こんな極寒の地の夜中に猛吹雪の中浴衣姿で踊るなんて、幾ら雪や寒さに慣れている雪国の人たちだからといっても、無理だ……凍死してしまうぞ。
マグカップの中の日本酒に目を向け、酔ったか? と言う思いが頭を掠めるが、これっぽっちの酒で酔うものか? という考えがそれを否定する。
もう一度見えないかと窓の外に目を凝らし耳を澄ましているうちに眠ってしまったらしい。
朝、窓から射し込む日の光で目を覚ます。
昨晩の猛吹雪が嘘のように感じる程に、窓の外には青空が広がっていた。
地上は一面の雪景色。
昨晩大勢の人たちが踊っていた休耕田に目を向けると、そこには笛や太鼓を持ち浴衣を纏った沢山の雪達磨が立ち並んでいた。