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魔王伝  作者: kyow
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第四話

 坂本城内の鍛冶場で、エルナは昼夜の別無く鍛刀を続けていた。

 刀だけではない。鎧、鉄砲、その弾、ありとあらゆる武装を作り続けている。

 そうしてでもいなければいたたまれなかったのだ。


 坂本城に戻った直後、光秀は倒れた。

 魔剣を失った光秀の魔人の体は「魔界」から離れるごとにその力を失っていく。

 明智軍団の集結地たる丹波亀山まではとても辿り着けなかっただろう。

 安土からさほど遠くないここ坂本ならば辛うじて光秀はその体を養うことができた。

 坂本城の後背、叡山跡に安置された邪悪な偶像の影響もあるのかもしれない。

「魔人がなぜ魔剣を肌身離さぬのか、我が事ながらようやくにわかった。」

 光秀はそう言って笑ったが、エルナにはその笑顔すら見ていて辛かった。


 光秀の容態は(はなは)だ芳しくなかったが明智家中の総意は既に固まっている。丹波亀山と連絡を取り合い謀略と合戦の準備を進めていた。


 グンヒルドもまた坂本城にあった。

 グンヒルドの傷も深い。左手を失い、顔の半ばを削がれ、妖気も未だ脚に(わだかま)っている。

 口にこそ出さないが、グンヒルドはエルナには想像もつかないほどの苦労をしてきたようだ。

 グンヒルドが日本に辿り着いたのは、エルナに先立つこと二ヶ月ほどだ。

 オーディンのマントに身を隠し、主に空から、邪神の痕跡を捜索していた。

 グンヒルドの探索行はエルナほど楽なものではなかった。

 なにより、人々の中を訊ね回るにはグンヒルドは美しすぎた。

 地上に降りて程なくグンヒルドはそれを悟り、人里を避けランの足取りを辿らざるをえず、思うように情報を得ることはできなかった。


 男物の白い内着を着たグンヒルドは、エルナにあてがわれた職人頭の部屋から庭を眺め、

「このような姿では、楚王さまには二度とお目にかかれないわね……。」

と悲しげでもなく呟いた。

「…グンヒルド……、」

 傷ついたグンヒルドを見ているのはエルナのほうが辛かった。

 美神の如き美貌の半面は引き裂かれたかのように赤い傷口を晒している。

 グンヒルドはニコリ、と笑い、

「心配しないで、私なら大丈夫。…ランを倒すまでは死ねないもの……、」

 エルナには胸が詰まって何も言えない。


「…エルナさま、よろしゅうございますか?。」

 控えていた職人が光秀の入来を告げた。

 左馬助光春を伴い現れた光秀は自分の足で歩いてこそいたが、憔悴の色は濃い。

 エルナは無言だ。

 光秀の躰を「死」は確実に蝕んでいる。

 ゆっくりとした足取りで敷物に座ろうとした光秀に、光春が駆け寄り腕を貸す。

 4人が座に着くと、光秀は重々しく口を開いた。

「今のところ、安土にも右大臣家にも変化はない。」

 先日のような焼き討ち紛いの出来事も織田軍団には表向き何の影響も与えてはいないのだ。

「しかし大名たちは、とうに異変には気付いている。もし安土に呼ばれれば唯では済まぬことを知っているのだ。

 北陸方面軍の柴田勝家、関東管領軍の滝川一益などは言を左右にして安土には近寄らぬ。

 …だが、有力諸将の中で右大臣家に逆らおうという者が果たしているかどうか…。」

 それはエルナにもわかった。魔人による恐怖の支配は織田家中の隅々にまで行き渡っている。

「右大臣家がいかに変わろうとも変わらぬ忠誠を尽くすのは今や羽柴筑前守のみ。…あれは既に盲従といえよう。

 いずれにせよ、諸将に対して密かに根回しは出来ようが、我らと共に右大臣家と合戦に及ぼうという者は現れまい。」

 明智軍団一万二千のみで、五十万余の織田軍団全軍を相手にすることになる。

「…それに、我らでは……森蘭丸や織田信長公を討つことは適うまい。ご両所の力をお借りせねばならん。」

 グンヒルドは小さく頷いた。

「…はい、私たちの責任でもあります。微力を尽くさせていただきます。」

 光秀も頷き返したが、ふと、エルナに向き直り、

「そう、エルナどのには、ひとつ申しておきたいことがあった。少しよろしいか?。」

 そう言い庭のほうを指さした。

「僭越ながら、一手、指南を差し上げようと、な。」

「お館様!。」

 光春が異議を唱えた。エルナも光秀の身を案じたが、

「いまさら体のことを言ってみてもはじまるまい。」

 と笑い、

「それに、相手が魔人でなくては稽古にもなるまいよ。」

 そう言うと光春に何やら言いつけ、庭へと降りた。

「エルナどのの間合いでの撃ち込みは魔人でも躱せまい。しかし、自分の間合いで戦えねば相手に押されまくることとなろう。」

 エルナは頷いた。団忠正や塚原右近、落合兵八との戦いがまさにそうだった。

 光春が赤樫の六尺棒を持って現れた。光秀は受け取ると、棒の半ばあたりを右手で握る。

「さ、参られよ。」

 心配げに見守る光春を横目にエルナはショートソードを構えた。

 間髪を入れず、エルナは二歩踏み込み、光秀の脳天めがけショートソードを撃ち込んだ。

 光春の目には留まらぬ速さの踏み込みと撃ち込み!。

が、

 カッ、という音を立て、ショートソードは弾かれ、向きを返した棒の先がエルナの胸元に突きつけられていた。

「もう一度。」

 光秀の言葉に、エルナは棒を断ち切る作戦に出たが、今度は縦横無尽に翻弄され、棒を斬るどころかろくに間合いを取ることすらできない。

 光秀は決して大きな動きをしているわけではない。なのに半神たるエルナの速度をあっさり超えて、光秀の繰り出す棒は自在に動き回り撃ち回る。

 エルナは驚きを隠せない。

 ヴァルハラの勇者達の用いるいかなる槍術もこれほど洗練されてはいない。

「参りました!。光秀さまは剣の他にこんなことも出来るんですね!。」

「私は上泉伊勢守どのに棒術も学んだのでな。」

 光秀はそう言い小さく笑った。

「エルナどのには間合いを保つ工夫が必要と思う。」

 笑顔のまま、つ、と横に腕を伸ばした。

 気付いた光春が駆け寄り体を支える。

 光秀はよろめきかけていたのだ。

「やはり、少しムリであったかもしれぬな。」

 光秀は苦笑したが、心配そうなエルナの視線に気が付き、

「…心配されるな。そのときになれば、な。」

 エルナは無言で目を伏せた。

 光秀は、自身が魔界中枢へと攻め込むそのときには自分もまた魔人に戻ると言っているのだ。

「……情けないです。…光秀さまのお役に立てない自分が、本当に情けないです……。」

「…エルナどの……。」

「…せめて、わたしにグンヒルドほどの力があれば……、」

 光秀はエルナの言葉をきっぱりと遮った。

「そんなことはない。エルナどのがいなければ、私は魔道から抜け出すことはできなかった。容を救うことも……。

 エルナどのと出会ったことを、私は心から感謝している。」

 光秀の笑みは穏やかで慈愛に満ちている。

「そうそう、それに私の剣を鍛ってくれるのではなかったかな?、エルナどの。」

 エルナは泣き笑いに笑った。

「…おかしいですね、…わたしのほうが光秀さまより何十倍も年上なんですよ……?、」



 数日ののち、明智の本領、丹波亀山城から早馬が到着した。

 事後初めて、安土城からの使者がきたという。

 公式には光秀は亀山城に居ることになっているため、影武者の工藤三十郎を亀山城に立て、坂本に光秀()ることは明智軍団の将兵にさえ秘匿されている。

 光秀は書状にゆっくりと目を通すと、エルナにほろ苦い笑みを向けた。

「最後通牒だな。」

 それは信長の代理人として森蘭丸の記した光秀の国替の下知であった。

 現在の所領、近江、丹波の二国を召し上げ、出雲、石見(いわみ)に国替えせよ、という内容だ。

 出雲、石見は大国である。しかし、現在は敵国、毛利氏の領国である。

 戦って勝ち取れということだ。

 さもなくば明智一族と明智軍団に帰る場所は無い。


 表面的には理不尽で乱暴なだけの命令である。だが、それだけの問題ではない。

 光秀が釈明のため安土に出向けばよし、さもなくば出雲、石見への出兵を余儀なくされる。

 無論、魔人が魔剣無しに安土を、魔界を遠く離れられないことなど承知の上だ。

 そして拒めば命令違反という大義名分をもって織田軍団全軍を差し向けるに違いない。


「困りましたね。」

 そう言うエルナの口調はさして困ったものではない。

 状況は国替え云々などという悠長なものではないのだ。光秀の「人」としての寿命は既に限界に近づいている。

 光秀はしばし黙ったが、

「エルナどのにはおわかりだろうが…、「魔界」はその規模を拡げておる。」

「はい。」

 今までは、安土と叡山を結ぶ線上にしか存在していなかった「魔界」が今は面として大きく広がっている。

 安土城と比叡山延暦寺跡に安置された「偶像」の他にもう一つ、偶像がどこかに移されたことで3つの偶像に囲まれた「面」が魔界となったのだ。

 エルナが夜間、空から調べたところでは、魔界は安土城と延暦寺を通る線から南に延びている。

 琵琶湖の南1/3は魔界となっており、坂本城も現在は魔界の中である。

 魔剣を持たぬとはいえ、光秀の魔人の体が僅かに復調しているのはそのためだ。

「おそらく、邪神が元々宿っていた偶像を南へ、……おそらくは大和、奈良盆地の霊的聖地に運んだのでしょう。」

 安土と叡山、それと飛鳥の地のいずこかを結んだ細長い三角形。その中には京の東端も含まれる。

 膨大な面積の魔界だがそれだけでは済むまい。

 最終的には安土にある偶像、阿弥陀如来像を摂津の一大霊的聖地、石山本願寺跡に移すことにより、畿内のほとんどが強固な魔界となるのだ。


 光秀が小さく呟く。

「そこに我らの賭ける最後の好機があろう。」

 偶像が安土から移送されるということは、邪神の依代(よりしろ)たる織田信長も安土にとどまるわけにはいかない。

 偶像と共に摂津石山へと向かうだろう。

 無論、大軍とそれを率いる魔人たちに囲まれ、偶像を取り巻く魔界と共に移動する史上最強の軍団だが、安土城を力攻めするのに比べればまだチャンスがあるといえた。




 その日からエルナは休みなく鍛冶場へと籠もった。

 膨大な量の鉄を運び込み、火縄銃とその弾丸を作り始めた。

 鏡のように延ばした鉄板を型枠にはめ込み、ハンマーで叩き曲げて銃身を作る。

 半神のエルナの作である。その精度には1/100mmの狂いもない。

 同じく数万発に及ぶ弾丸も手づからこしらえた。

 鋳造と切削からなる鉄弾と切削の銀弾である。

 すばらしい精度を誇るエルナの銃は初速が速い。鉄の弾丸の貫通力は敵集団を圧倒できるだろう。

 銀の弾丸は、対魔人の破魔の弾丸だ。

 エルナに魔力付加の力はないが、銀の武器の魔物への効果は折り紙付きだ。

 その傍らには職人たちが昼夜交代で付き添い、銃床を削り、火縄銃を組み立て、弾丸を磨き仕上げていく。


 その合間に、エルナはグンヒルドの義手を作り上げていた。

 切り落とされた左手の代わりに、鍛えに鍛えた鋼の義手を作ったのである。

 義手を腕の断面に押し当て、革のベルトで肩から二の腕に固定する。

 グンヒルドは感嘆した。鋼の指が、手首が思うように動く!。

「グンヒルドなら、きっと「気」で動かせると思ったから。…そんな怪我、天上(ヴァルハラ)に戻ればすぐに治るけど、しばらくは不自由だろうけどそれを使って。」

 照れくさげなエルナに微笑みかけたグンヒルドは、しばらく新しい手指を動かしていたが、エルナが携えている鉄の棒のようなものに目を止めた。

「それは何?。」

 エルナはニッ、と笑う。

「ちょっと、相手をしてもらってもいい?」


 二人は初夏の太陽の照りつける鍛冶場の裏庭へと出た。

 エルナは四尺(120cm)よりやや長い鉄の棒のようなものを携え、グンヒルドは以前エルナが戯れに鍛えた刀を提げている。

 無造作に10歩程の距離を取ると二人の間に緊張が満ちた。

 何事か、と鍛冶職人や小者が集まり、物陰から覗き込んでいる。

 グンヒルドは声もなく斬りつけた。

 その撃ち込みはあまりに速く白い光としか見えぬ。

 グンヒルドの刀をエルナは棒の根本近くで受け、その反動で棒の反対側をグンヒルドの胴に向けて繰り出す。

 これをグンヒルドは体を(ひね)って躱し、振り向きざまにエルナの頭部を薙ぎ払ったが、待ち受けていたかのように棒に弾かれた。

 グンヒルドの剣はそこで止まらない。

 棒に弾かれた一刀は速度を変えることなく方向を変え、エルナの棒を撃ち落とす!。

 鋭い一撃に棒は大きく揺らいだ。その隙を逃さずグンヒルドの神速の突きがエルナの喉笛を襲う。

が、


 キーン!


 世にも美しい音を立てて折れ飛んだのはグンヒルドの剣だった。

 グンヒルドの突きの軌道を正確に読んでいたエルナが腰に帯びたショートソードを抜き打ったのだ。

 棒によって自分の間合いを巧みに保っていたエルナの見せた僅かな隙は、グンヒルドの突きを誘う罠であった。

 必殺の間合いでのエルナの抜き打ちはグンヒルドの突きさえ封じたのだ。

 グンヒルドは輝くような笑顔を見せた。

「見事だわ、エルナ。」


 回りで見ていた職人たちも感嘆の溜息をつく。

 二人のやりとりは日本語ではなかったので何を言っているのかはわからなかったが、美しい天人ふたりの剣技はまさに神業(かみわざ)だったのだ。


 エルナもグンヒルドに小さく笑い返した。

 エルナは自分がグンヒルドに勝ったわけではないことを知っている。

 グンヒルドの手にあるのがフンディングスバナであったなら折れていたのはエルナのショートソードの方であったろう。また、本気のグンヒルドを相手にしたわけでもない。

 たまたま一本取ったというだけだ。


「いや、(まこと)、お見事。」

 鍛冶場の方から声が掛かった。光春に付き添われた光秀である。

 離れに渡ろうとしたところエルナとグンヒルドが庭に降りるのが見えたため、鍛冶場の方に回って見ていたのだ。


 ともに職人頭の客間に戻ると、エルナは光秀の求めに応じ、鉄の棒を手渡した。

 長さは三尺七寸(140cm)ほど、根本が一寸ほどの太さがあり、先に行くにつれやや細くなっている。

 先端が小さな鎚になっているのがエルナらしい洒落っ気だろう。

「…棒、というよりは(じょう)であろうか。エルナどのは杖の技を()く自分のものとされたな。」

 光秀は満足そうに微笑んでいたが、真顔に戻ると杖をエルナへと返した。

「安土に出した密偵より連絡が入った。…織田右大臣家、御自らが軍を率い、摂津石山へと向かったそうだ。」




 中国出兵のため丹波亀山に集結した明智軍団、その数1万余。

 大将たる惟任(これとう)日向守光秀は馬上より織田右大臣家の使者に激励の品への礼を述べ全軍に出撃の号令をかけた。

 (おう)!!

 亀山城外に控えた軍勢はどよめきでこれに答え、明智軍団は一糸乱れぬ行軍で亀山を後にする。

 中国の雄、毛利氏を討ち、その領国である出雲、石見の二国を切り取るためだ。

 この一戦に勝利なくして明智軍団とその家族に帰るところはない。


しかし、

 明智軍団が羽柴秀吉率いる中国方面軍と合流することは永遠にない。

 日が落ちると明智軍団の行動は一変する。

 (あらかじ)め伏せてあった荷駄部隊と合流し、武装や兵糧を牛馬に載せて身軽となると、旧街道を京めがけ駆け戻りはじめた。

「急げ!、明日の夕暮れまでには御館さまと合流いたすぞ!。」

 馬上より光秀が、否、光秀の影武者、工藤三十郎が呼ばわった。


 ランや魔人たちにとって、光秀率いる明智軍団が毛利攻めに出陣した、という報告は織田軍団と事を構えようという宣戦布告に他ならない。

 魔人である光秀が魔力の中心たる近江を遠く離れることができようはずがない。丹波亀山の光秀が影武者であろうことは明らかだった。

 にも関わらず、坂本に信長からの働きかけは何らない。


 一方、一昨日安土を出発した織田信長の軍だが、旗本、菅谷長頼率いる足軽隊1000人は本隊を残し昼夜を問わぬ強行軍で一路摂津石山を目指す。残された本隊500人のほとんどは徴発された近在の人足であり、兵は供回りを含め僅か70余人。仏像を運ぶとのことで山車(だし)の如く巨大な荷車と同道しているがその歩みは遅々として進まぬ。

 畿内、近江は織田軍の聖域である。信長が供回りのみで移動したところでなんらおかしな所はない。

が、光秀と事を構えるに至っている以上無防備に過ぎる。



 大量の武器弾薬が荷駄に積まれ、坂本城の中庭で出陣を待っている。

 エルナと、50人の職人たちが不休で作った1000丁の火縄銃と5万発の弾薬(早合)。

 弾薬の半数は破魔の銀弾である。他に3000丁に及ぶ旧来の火縄銃も、その全てがエルナにより銃腔を磨かれ、機関部に調整が施されていた。

 エルナのここ数日の戦場であった鍛冶場も今は静寂に包まれている。

 銃も弾も運び出され、がらん、と空いた土間でエルナは割れた櫛の欠片(かけら)を拾い上げた。

 おそらくは弾丸の仕上げ作業をしていた女房のものである。男女に関わらず、必死に作業に従事していたのだ。

「エルナさま。」

 鍛冶職の頭が鍛冶場の板敷に座り平伏している。

「お疲れではございませぬか?。」

 頭の問いにエルナは微笑んで応えた。

「あなたこそ。昨夜も一昨日も休み無く(ふいご)周りの監督をなさってましたね。」

 頭は疲れの色濃い顔に、しかし満面の笑みを浮かべ、

「なんの、エルナ様の(わざ)を間近に拝見致し、まこと眼福にございました。」

 そう言い、横から角盆を引き寄せた。

「差し出がましきことながら、お召し物を整えさせて頂きましてございます。」

 角盆の上の薄布を()けると、そこにはエルナが天上(ヴァルハラ)からの出立時より来ていた服が載っていた。

 エルナの木綿の胴衣(チュニック)と巻きスカートは小さなほころびまで丁寧に繕われ、洗い張りされたのであろう、清潔に洗濯されている。

「ありがとう!、助かります。……そうだ、あなたから娘や女房たちに渡していただけますか?。」

 エルナはそう言うと、懐から畳んだ紫色の布を取り出した。

 板敷きの床の上に広げると、中から銀を刻んだ櫛が現れた。

 薄く延ばした銀板を僅かに(たわ)め、櫛の歯を付けたのみで何の装飾もない櫛である。

 しかし、微妙な曲げ、板の厚さと調和のとれた優美な弧、全体のバランスを支配する歯の長さ、と地味ながらも趣深い。

 櫛は9つあった。

 頭は櫛の一つを掌に戴き、じっ、と見入っていたが、

「…エルナさまは日本(ひのもと)の美の心をまこと、ご自分のものとされましたな……。」

 布ごと櫛を(かしこ)まって押し戴く。



 行灯(あんどん)の明かりのみでランは自分の刀箪笥の中をあらためていた。

 行軍中ゆえ刀身、柄とは分けられず、ただ鞘のみが刀身を休めるための(ほお)の白鞘である。

 全て抜き出された四段の引き出しの中には黒い大太刀、大小の刀、そして、

(……、)

 更紗の上に横たえられたのは半ばから折れた剣。

 かつてのランの佩剣、エルナがランのために鍛えた剣だ。

 その剣に伸ばしかけたランの手が不意に止まった。

「来たか。」

 ランはその(くち)に不敵な笑みを浮かべ黒い大太刀を掴んだ。


 うわあああああっ!

 (とき)の声と共に明智左馬助光春率いる先鋒隊2000が本能寺正門に攻めかかった。

 本能寺は(ほり)に囲まれた城郭造りの寺である。その正門は最も防護が堅い。

 しかし、なればこそ正門を制圧せねばならぬ理由が光春にはあった。

 光春の合図を受け、杉の大木の丸太を引きずった20騎ほどが軍勢の間から現れる。

 丸太を乗せた(こも)を曳きながら正門前に迫り、濠の手前で左右に分かれた。

 放たれた丸太は菰ごと石畳の上を跳ね上がるも速度を減じることなく厚板の扉に激突する。


ゴーン! バリバリバリ!!


 丸太は(かんぬき)をへし折り、扉をなぎ倒して門内へと飛び込んだ。

 間髪を入れずに松明(たいまつ)を持った騎馬がなだれ込む。

 門内の暗闇にチラチラと光る多数の火縄の明かり!。

「撃てーっ!。」

 待ちかまえていた小姓、伴太郎左衛門(ばんたろうざえもん)の号令に鉄砲足軽20名が火縄銃を発砲した。

 先鋒隊の人馬は銃弾防護に鎧の上から竹の鎧を重ねていたが、一斉射撃を受け、先頭の数騎が、どう、と倒れる。

 しかし、騎馬の勢いは止まらない。

 左右に展開した騎馬からの馬上筒での一斉射で鉄砲足軽は沈黙した。

が、十数発の弾丸を受けたにも関わらず太郎左衛門は倒れない。

「ハァッ!!」

 鮮血の尾を引きながら魔剣を手に飛ぶように走る。

ガガーン!!

 入れ替わった騎兵が太郎左衛門に向け馬上筒を次々と放つ。

 対魔人用の純銀の弾丸だ。

「……!」

 太郎左衛門は何かに弾かれるように止まった。

 鉄や鉛に比べ柔らかい銀の弾丸は貫通力こそ劣るものの目標に当たると容易にひしゃげ(・・・・)、運動エネルギーの全てを叩き込む。

 生身の部分に当たったならば絶大な破壊力を(あらわ)すのだ。

 しかし、それだけではない。

 破魔の銀弾は手足をもがれようとも力を闘志を失わぬ魔人の魔力そのものにダメージを与えるのだ。

「撃てーっ!。」

 銀弾の第2射が太郎左衛門の全身で血煙を上げた。

 手足の肉は()ぜ、血しぶきは松明(たいまつ)の灯りに煌めいたが太郎左衛門は倒れない。

 ここは魔の聖域。魔人はそう簡単には死なぬのだ。

 五体の動きをを縛る破魔の弾丸を撃ち込まれながらも太郎左衛門の闘志は衰えない。

 自由に動かぬ手指が脚と腕の銀の弾丸を次々と穿(ほじ)り出した。

 自ら銀弾の呪縛を解いた太郎左衛門は火縄銃の再装填の隙をついて再度肉薄する。

しかし、

 側面から走り寄った光春の人馬が太郎左衛門とすれ違う。

 すれ違いざまに鉄の(あぶみ)で蹴られ蹌踉(よろ)めいたところを光春の剣が一閃し太郎左衛門の首は宙に舞った。


 小姓、伴太郎左衛門を討ち取ったものの、松明の明かりに照らされた明智軍団の将兵の顔は蒼白だ。

 ここは「魔界」の中心である。立ちこめる妖気にさしもの明智軍団の精鋭も萎縮している。

「…捜せ!、他にも2、3の魔人が潜んでいるはずだ!。」

 左馬助光春が呼ばわり、本能寺正門から続々と鉄砲隊を中心とした本隊が境内へと入ってくる。が、いずれも本殿に突入しようという気配はない。

 本能寺の外壁に沿って内側と外側から1万3千の軍勢を展開させている。あたかも本能寺に立て籠もり外からの攻撃に備えるかのようだ。

 しかし、あくまでスピード命の奇襲である。明智軍団には時間がない。

「周辺の防備を固めよ!、混乱に隙をつかれるな!。」

 光春が馬上から叱咤を飛ばしたそのとき、

 血塗れで横たわっていた太郎左衛門の死体が自らの首を掴んで立ち上がった。その右手には黒い魔剣。

 このありうべらぬ怪異にさしもの名馬も竿立ちになった。光春は抜き合わせることもできず必死に手綱を操る。

 太郎左衛門の魔剣が光春の人馬に迫る。

 次の瞬間、太郎左衛門の両眼に投げナイフが突き立った。

「…ぐっ」

 太郎左衛門は一瞬怯んだが、その体は止まらない。見えぬ目で魔剣を大きく振りかぶった。

が、光春の眼前でその体は両断される。投げ出された首も縦に割られ転がった。

「首を()ねたからといって油断してはならぬぞ。」

 馬をようやく抑えた光春の足下で光秀が刀に拭いをかけている。

 見れば門を潜ったばかりの光秀の愛馬からは50m近くの距離がある。

 光秀は一瞬にしてこの距離を走り寄り太郎左衛門を斬ったのだ。

 そして光秀の全身から放たれる異様な闘気。それは太郎左衛門を遙かに凌駕する!。

 左馬助光春は小さく震えた。

 今の光秀は以前と変わらぬ魔人なのだ。


 馬を下り駆け寄ってきたエルナに光春は頭を下げる。

「エルナどの、(かたじけ)ない。」

 投げナイフで太郎左衛門の動きを止めたことに対する礼だ。

 応えて微笑んだエルナは胴衣(チュニック)の上から胸甲を着け、オーディンのマントを纏っている。

 頭には椎の実型の白銀の兜を付けている。以前の鉢金と同じく、白い羽根飾りが両脇に立っているのは戦乙女(ワルキューレ)にとってなにか意味のあることなのかもしれない。


 明智軍団1万2千は本能寺内外への展開を終えたが本能寺には特に動きはない。

 伴太郎左衛門の一隊が正門前を固めていたことを思えば極めて不自然だった。

 しかし光秀たちには時間がない。

 本殿を全て囲んだ上で光秀率いる本隊の精鋭500名と後詰めの鉄砲隊1000名余が正面から突入した。

 龕灯(がんどう)を先に立て、襖を蹴倒し、壁を打ち壊しながら進む。

 畳敷きの広間に進んだ所、奥に多数の火縄の明かり!。

「いかぬ!、伏せよ!。」

 光秀の叫びに兵は伏せ、先頭の兵は竹束を立てて人垣を作る。


ドドーン


 屋内での火縄銃の一斉射に広間は濛々たる黒煙に包まれた。

 殺傷可能距離の遙かに内側では防弾の竹束もさして役に立たず、前列の兵がばたばたと倒れる。

うわあああああっ!

 間髪を入れずに雄叫びが上がった。

 濛々たる爆煙の中、足軽たちが槍衾(やりぶすま)そのままに突進してきた。

 天井の低い室内で、野戦そのままの長槍での突撃である。

 視界の利かぬ中、6mの長槍は明智軍の隊列に深々と食い込み大混乱をもたらした。

 しかし、狭い部屋の中では槍を持ったままでは(あと)に戻ることもかなわぬ。自殺的な突撃に過ぎない。

 槍を手に狂ったように突進する足軽も次々に討たれた。が、


ドーン


 そこに火縄銃の第二射が襲った。

 敵味方構わぬ一斉射撃である。

 前列の兵が弾かれたようにバタバタと倒れる。

「よし、突撃じゃ!、日向めの首を挙げよ!。」

 足軽指揮の小姓、高橋虎松が呼ばわり、火縄銃兵も皆抜刀し突撃する。

と、混乱しているかに見えた明智軍の隊列が、さっ、と左右に分かれた。

 その背後には明智の鉄砲隊の隊列が!。


ドドーン ドドーン


 列を替わりながらの三連射は突撃に転じた足軽隊を一瞬にして壊滅させた。

「…おのれ……!。」

 数多の銃弾を体に受け、血塗(まみ)れとなりながら、高橋虎松は黒い魔剣を引き抜いた。

 次の瞬間、黒煙を切り裂いた閃光のような斬撃に虎松の胴は鎧ごと両断される。

 黒煙の中を走り寄り、自分を斬った相手を虎松は見た。

「…惟任(これとう)日向(ひゅうが)……!。」

 光秀の返す刀が虎松の首を刎ね飛ばす。


 光秀率いる精鋭は本殿を駆け抜け前庭へと到達した。

 目指すは偶像が運び込まれたと思しき本能寺本堂。それと信長の座所である寝殿である。

 途中、側面からの襲撃を防ぐため、板戸、壁は残さず倒して進んだが他に兵が伏せてある風はない。

 前庭を抜け、本堂の前に出ようとする光秀をエルナが腕で制した。

「待って。」

 闇に目を凝らすと、灯り一つ無い本能寺本堂の前に二つの人影がある。

「のこのこと現れおったな、日向よ!。」

 大音声(だいおんじょう)で呼ばわるは少年の声だ。

 小姓、森坊丸、力丸の兄弟。いずれも元服して間もない年若い少年だ。

 しかし、幼げな口元に浮いた邪悪な笑みと体から放たれる妖気は兄弟を見た目通りの存在ではないことを示していた。

「上様と兄上のご恩を頂戴しておきながら狼藉に及ぶとは不届き千万。この場にて一族郎党もろとも成敗してくれる。」

 兄上。兄とは森蘭丸、ランのことか。

「…おまえたちの(まこと)の兄はどうなったのだ?。」

 二人の少年は光秀の問いにもニヤニヤと答えない。

 集結した鉄砲隊が兄弟へと狙いを定めるも身を隠すことも、まして怯える様子などない。

「よいのか?日向。われらに銃を向けても。仏罰が、……下るぞ!。」

 坊丸が一声(おめ)くと周囲の妖気が爆発的に増大する。

 エルナは、光秀は、この感じを以前にも味わっていた。それは……、

「一同、散れっ!、散るのだ!!。」

 光秀が叫ぶと同時に兄弟の背後の本堂の中から夜目にも赤い二筋の奔流が隊列を薙ぎ払った。

 破壊光線の如き血流!。本堂の中には仏像が、阿弥陀如来座像が「居る」のだ。

「下がれ、下がれっ!。」

 血流は瞬く間に数百人を撃ち倒し、軍勢は大混乱に陥る。

 しかし、仏像は夜目が利くわけではないらしく本殿の際まで逃れると血流の放射は止まった。また100mも離れると殺傷能力は無いらしい。


 打ち捨てられた死体の山の中で坊丸は呵々大笑した。

「ばかめ!、(おび)き出されたことにまだ気づかぬか!。全ての魔人が本能寺めざし集結中じゃ。今宵、本能寺が明智軍団の墓場となるのだ!。……聞くがよい、もう始まっておるぞ。」


ドドーン


 轟いた爆音に光秀は、はっ、と寺の外を振り向いた。




 明智軍団の防御網はそこかしこで破られつつあった。

 旧街道から森を越え、次々と現れる馬廻、母衣(ほろ)衆!。

 そしてついに爆弾を抱いた足軽の自爆により本能寺の外壁に大穴があいた。


ドドーン


 壁にあいた穴は即座に大きく崩され、黒煙を突き破り(ほり)を飛び越えた騎馬が次々飛び出してくる。

 竹束を横抱えにした騎馬武者はそのまま突破をはかりかけるが鉄砲隊の一斉射撃に馬を倒される。

 魔人は馬上槍の束を抱え倒れる馬から飛び降りた。

 赤母衣衆、福富(ふくずみ)秀勝!。

 飛び降りざまに秀勝が(なげう)った馬上槍は鉄砲衆4人を一度に串刺しにした。

 火縄銃の火線が集中する中、秀勝は左右に駆け回りつつ槍を投擲する。

 亜音速で飛来する馬上槍は竹束で築いた(にわか)造りの防壁などものともせず火縄銃の射手を貫いた。

 明智軍も必死に応戦するが、引鉄(ひきがね)を引いてから撃発するまでに一瞬のタイムラグのある火縄銃では移動目標に的を絞るのは難しい。

 なにより夜間に黒色火薬の濛々たる黒煙は視界を妨げること著しかった。

 秀勝は槍衾(やりぶすま)の前を駆け抜け急造の陣地の脇から中へと乱入せんとする。

 そこに左馬助光春率いる騎馬隊が現れた。

 秀勝は槍衾と防壁の間で身を躱す場所はほとんどない。

「撃てっ!。」

 号令一下、馬上筒の一斉射撃が秀勝を襲った。そのまま場所を変わることなく銀弾の一斉射。

 光春隊の騎馬兵は鉄弾用と銀弾用の二挺の馬上筒を装備している。

 秀勝の五体は血煙に包まれた。

 光春の人馬が駆け寄り、かすめ斬りに一撃。秀勝の構えた魔剣もろとも首を刎ねた。

 続いた騎兵が秀勝のよろめく体を馬上槍で突き倒す。

「怯むな!、陣列を立て直せ!。」

 光春が大声で檄をとばしたそのとき、


ズズーン


 轟音と共に外壁の土塁を人の頭ほどの大きさの鉄の弾が貫通し、内側にいた兵を薙ぎ払った。

 続いてもう一発

 二発目の鉄弾は土塁とその上の板壁を崩し、外壁にはまたも人馬の通れる幅の隙間ができた。

 たちまちに濠に板や梯子が渡され、そこから槍を抱えた足軽が飛び込んでくる。


 早合による次発の装填を終えた鉄砲隊がこれを撃ち倒したが、足軽たちは狂ったように飛び込んでくる。

 弾尽き、再装填にかかろうというところに、外壁の間から大筒を担いだ大男が現れた。

魔人、伴正林(ともしょうりん)。信長お抱えの士分の相撲取りである。

 伴正林は巨体を揺すると火縄大筒を片手で掴んで無造作に発砲した。

 四十匁の鉄弾は鉄砲隊の槍衾を貫き蹴散らした。

 防御陣地はパニックに陥った。

 伴正林は打ち終えた大筒を足元に放り投げると、足軽が二人がかりで担ぎ上げた次の大筒を手に取った。




ドドーン


 またも響く轟音。続いて怒号とも悲鳴ともつかぬどよめき。

「ははははっ!、助けにゆかぬのか?。」

 森坊丸の哄笑が響く。

「くっ…、」

 光秀が悔しげに吐き捨てる。光秀率いる一軍は完全に本殿脇に釘付けになっていた。

 エルナは無言だったが、光秀の前に進み出ると

「あとは…わたしとグンヒルドで。」

と真顔で頷きかけた。

「!、しかし…、」

 エルナは反論しようとする光秀を遮り、

「光秀さまの指揮無しには明智軍団の精鋭といえども、魔人たちの前には総崩れとなるでしょう。」

 暫しの沈黙の後、光秀は口を開いた。

「…あいわかった。我らはそなたたちが後背を取られぬよう死力を尽くそう。…どのみち、私では右大臣家の首は取れぬ。」

 光秀はエルナに近づき、その手を取った。

「エルナどの、(かたじけ)のうござった。エルナどのの力なくば未だ魔道から抜けることかなわなかったに相違ない。我らのためにも右大臣家を倒し、本懐を遂げられんことを!。」

 エルナは頷き、目を僅かに伏せ光秀の手を、そっと握り返した。

「…お別れです。もう生きてお会いすることは無いでしょう…。」

 光秀は無言で頷いた。既に自分の死期は悟っている。

「天人のエルナどのにこう申すもおかしき事ながら、…お健やかにあられるよう。」

 エルナはさらに俯き、光秀の手を握る掌に力を込めた。

「?、エルナどの…?。」

 エルナは俯いたまま、ささやくような声で呟いた。

「……お慕いしておりました、…光秀さま……。」

「…!?。」

 エルナは光秀の手を離し、くるり、と回って体を離した。白いオーディンのマントが軽やかに舞う。

「エルナどの!。」

 エルナは照れくさげな笑みを浮かべて振り返った。

「わたしの()った刀が光秀さまをお守りできますように!。では!。」


 エルナはオーディンのマントを裏返して姿を消すと本殿の陰から飛び出した。

「む?、」「ぬっ、」

 坊丸、力丸の兄弟は異変に気づき黒い魔剣を抜いた。エルナの姿は見えぬものの、その気配は感じる。


 エルナは本堂へと一直線に走る。本堂の中の仏像もエルナの気配に気が付いた!。

 本堂の壁を切り裂き破壊的な血流がエルナに迫る。

 エルナは空中に逃れた。安土城の天主内と違い、十分に(かわ)すスペースがある。

 急上昇し懐から取り出した爆裂弾を本堂めがけ投げつけた。

 戦乙女のエルナが投擲した超高速の爆裂弾は本堂手前で仏像の放つ血流に貫かれる。


ドーン


 爆裂弾は眩い閃光を発して四散した。閃光は長く宙に留まりゆらゆらと消える。

 それが合図だった。

 空に現れた朱い輝点が仏堂の遙か上空で止まった。

 朱く輝く()()は、

 グンヒルドが構えるフンディングスバナ、その刀身に刻まれた呪歌(ガドルン)が輝いているのだ。

 急降下に移ったグンヒルドはさらにフンディングスバナに神気を籠める。

 高度千数百mからの急降下。何者もグンヒルドを止められない!。


ドドーン!!!


 グンヒルドが渾身の気合いで放った炎呪は魔界の妖結界さえ貫き、本能寺本堂の屋根を丸ごと吹き飛ばす。

 そして邪悪な阿弥陀如来座像は神の炎の直撃を受けた。


グケェェェェェエッ


 この世の物とも思われぬ悲鳴を上げ、邪悪な偶像は、燃え、熔け、そして炎に押し潰された。

「おおっ!。」「おのれっ!」

 爆炎を吹き上げ燃え上がる本堂を振り返り驚愕する坊丸、力丸兄弟にエルナが肉薄する。

「やあっ!。」

 坊丸が頭上のエルナに黒い魔剣を抜き合わせるがエルナの鉄杖に弾かれた。

 すかさず差し添えの脇差しを(なげう)ったがエルナにはかすりもしない。

 着地したエルナの背後から力丸が神速の突きを放つ。が、


どかっ


 力丸の体は魔剣ごと肩から膝まで大きな刃物に両断された。

 音もなく飛来したグンヒルドに斬られたのだ。

「り、力丸っ!おのれっ!。」

 坊丸が怒声を上げる。そこにエルナの鉄杖の突きが喉元を襲った。

「くっ!」

 坊丸は返す刀で辛うじて杖を弾く。

 そこをエルナのショートソードが一撃する。

 魔剣は折れ飛び、坊丸の首も飛んだ。


 エルナは本殿の向こうの光秀に大きく手を振った。

 光秀も手を挙げて応え、部隊は助けを待つ明智軍団の元へと急ぐ。

「さようなら、光秀さま…、」

 エルナは口の中で小さく呟くと、グンヒルドと共に朱く燃える空へと飛翔した。



 奇襲により偶像の一つを撃破したが、これで魔界の規模が縮小したわけではない。第六天魔王、織田信長そのものが邪神の依代(よりしろ)なのだ。

 織田軍団を動かし、数々の非道にて数十万の怨霊を取り込んだ邪神、織田上総介信長

 しかし、今は意志を持たぬ巨大な力にすぎぬ。

 その意志を司るは邪神に魂を虜とされた戦乙女のラン。


ドーン


 炎呪の劫火が、寝殿を守る小姓、馬廻たちを次々に蹴散らした。

 グンヒルドが気を溜める隙を衝いて魔人たちが肉薄するが、グンヒルドの至近をエルナが守っている。

 改良型の爆裂弾は魔人の足を止めるに十分であり、その一瞬後には炎呪が全てを灼き尽くすのだ。

 魔人たちの勢いが途絶えた隙を逃さず、グンヒルドは寝殿そのものに向け渾身の炎呪を放った。


ドドーン


 巨大な火球の激突に伽藍は崩れ、屋根瓦も梁も紙のように燃え吹き飛んだ。が、寝殿の中央部は火すらつかずに完全に無傷だ。

 魔界の中心はそこにある。


ビシッ!


 一条の光線がグンヒルドの額に直撃した。

 グンヒルドの体は人形のように弾き飛ばされる。

 超高温のプラズマ流となった信長の血流だ。

 距離があったのが幸いしたか神具足を貫くには至らなかったが、膨大な熱量、膨大な質量である。

 これに比べれば偶像の血流など児戯に等しい。

 もはや破壊光線と化した血流がグンヒルドとエルナを次々と襲う。

 攻撃は唐突に止んだ。

 どうやらグンヒルドの放った炎呪に対する自動反撃のようなものだったらしい。

 魔力は増大しているが、信長自身はいまだ意志を持たぬ傀儡(くぐつ)に過ぎぬ。


「来たな!、グンヒルド、エルナ!。」

 燃え残った寝殿中央の一角の唐紙を開け、ランが姿を現した。

 漆黒の黒糸威(くろいとおどし)の二枚胴も黒羽を飾った椎の実型の兜も過日そのままだ。

 手には黒い大太刀を提げている。

そして、

 寝殿の周りから次々と現れる魔人たち!。

 幾人かは明智軍団の包囲を突破してきたのだろう、着衣に穴や血の痕がある。

 ここは魔の中枢。魔人たちは最高の力を発揮する。


 しかし、グンヒルドとエルナにそれをおそれる風はない。

 魔剣を手に、完全武装の魔人たちが二人の半神に殺到する。


ドドーン


 正面の魔人は炎呪の炎にたちまち消し飛んだ。

 グンヒルドはそのまま飛翔しランへと突進する。

 ランは薄く微笑み黒い大太刀を抜いた。

 数十人の魔人がエルナめがけて押し寄せたが、エルナはオーディンのマントに身を隠したのみだ。

 しかし、エルナの気配めがけ魔人たちの刃が殺到する。

 その魔人たちの前にいくつもの爆裂弾が投げ出された。

 魔人たちは怯まず飛び込んでくる。


ドーン! ドーン!


 次々に爆発する爆裂弾。その鋭い破片はエルナの鍛えたナイフと何ら変わらない。甲冑さえ紙のように貫き、次々と魔人たちに突き刺さった。

 傷に構わず魔人たちはさらに数歩を駆け、そして痙攣するように倒れた。

 魔人たちの足並みが乱れたところに更に数発の爆裂弾が投げ込まれた。

 既に立っている魔人は一人として無く、皆、地面をのたうち回っている。


 魔人には弱点があったのだ。

 エルナは爆裂弾の内部に附子(ぶす)石見銀山(いわみぎんざん)を仕込んでいた。トリカブトと砒素である。

 魔人は超人的な回復力を持ち、魔界の内部であれば五体をバラバラにされても死なぬほどであり、外傷は致命傷にはなり得ない。

 しかし、その肉体は人と同じく刃物で傷つき、鉄砲で穴が開く。ことに神経系、代謝系は基本的に人間そのままであり、毒物に対しては死なぬまでも恢復には人間並みに時間が掛かる。神経系や筋肉組織を誤動作させる速効性の毒物には為すすべもない。

 人の体の限界。それこそが魔人が超えることの出来ない弱点であった。

 動けぬ魔人に用はない。エルナは爆裂弾を掴んで寝殿の中へと走った。

 織田信長の座所に!。


 エルナの動きにランが気が付いた。

 空中でグンヒルドと打ち合っていたが、宙を蹴って急降下する。

 寝殿の中央部、二つの灯明に挟まれるように信長が床几に腰掛けているのが見える。

 エルナは渾身の力で爆裂弾を投擲した。

 しかし、15mも離れたところで信長が目から放った血流に撃ち落とされ爆発した。

 魔人、否、邪神の依代(よりしろ)を相手に殺傷距離には程遠い。

 信長はピクリとも動かぬまま、破壊的な反撃を開始した。

 信長の回りから途轍もない密度の妖気が盛り上がり、巨大な蛇のように鎌首を高く持ち上げ……、一気に落下した!。

 エルナは大きく身を躱したが、膨大な妖気の生み出す質量が空間さえねじ曲げ、エルナの体を引きずり込まんとする。


ドドドドド!!!


 間一髪で逃れたが、左腕の毛細血管は皆破裂し、手指の太さは瞬時に2倍にもなった。

 手に持った鉄杖もひしゃげている。

 地面には大きな穴が開き、その深さは500mにも及んだ。恐るべき邪神の妖気、(まさ)

神の力!。

 地面に膝をついたエルナを更に破壊光線が襲う。

 一瞬飛び退くのが遅れたエルナは右足のふくらはぎを撃ち抜かれた。肉が大きくこそげ取られる。

「……くっ!。」

 次なる攻撃はなかった。信長が(気が済んだのか)自動反撃を終了したのだ。


 ランの哄笑が高らかに響く。

「はははっ!、まだわからないのか!。おまえたちは(おび)き出されたのだ。

 今宵、この場所での邪神の力は安土城に数倍するのだぞ!。」


 ランを追って降りてきたグンヒルドはフンディングスバナを構え、神気を溜め始めた。

 それをランは鼻で笑う。

「ムダだ。貴様ごときが放つ炎呪が上様まで届くと思うのか。」

 グンヒルドは微動だにしない。フンディングスバナの刀身に刻まれた呪歌(ガドルン)は超新星の如く輝いた。

そして、神の炎は解放された。

 ランに向けて!。


ドドーン!!!


 咄嗟に避けたものの、グンヒルド渾身の炎呪は避けきれるものではない。

 ランの体は炎に弾き飛ばされ本殿の向こうまで転がっていく。

 グンヒルドの狙いはランを信長から引き離すことだった。

 身を翻したグンヒルドは大剣を掲げ、濃密な妖気の中を信長へと突進する。

 近距離で放たれた炎呪に信長は反応した。

 自動反撃の血流がグンヒルドを襲う。

 近距離での破壊光線をグンヒルドは避けられない。

 神具足の表面で赤い火花を飛ばし、ついに貫通した!。

 グンヒルドの胸を、首を、脚を、幾筋もの血流が貫いた。

 それでもグンヒルドの突進は止まらない。

 飛翔し、信長へと肉薄する。

 信長の反応が変わった。

 目は依然、死人のように虚ろだが、その瞳は確かにグンヒルドの姿を捉えている。

 グンヒルド渾身の突きが信長の首を襲った。頸鎧(あかべよろい)の下、かつての傷跡を目がけて!。

 信長の左腕が無造作に上がった。

 膨大な妖気を纏った左腕はグンヒルド渾身の突きをあっさりと止め、そのまま元通りに下げられる。

 フンディングスバナを握ったグンヒルドの右腕が破裂した。

 妖気を纏った邪神の左腕は、流石にフンディングスバナを壊すことはなかったが、かすっただけでグンヒルドの右腕を付け根から破壊しもぎ取った。

 グンヒルドは妖気に弾かれ仰向けに倒れる。

 信長の視線がゆっくりとグンヒルドを追いかけ、その額を見つめて止まった、虚ろだった瞳孔が大きく開く。と、

くるり

 信長の目玉が白目をむいた。

 見れば土気色だった顔が紫色を帯びている。

 グンヒルドは信長の額に小さな傷跡を見た。

 エルナの放った爆裂弾の破片はほんの小さな傷を信長に負わせていたのだ。

 小さな傷とはいえ、トリカブトの毒は半数致死量0.3ミリグラム。

 僅かな毒が信長の、邪神の依代の人間の体にダメージを与え、筋肉の動作に障害を与えている。

 グンヒルドは、よろよろと立ち上がった。

 左手のエルナの作った義手を貫手(ぬきて)の形にし神気を溜めた。

 グンヒルドの気の集中を受け、貫手は白く輝く。

 歩み寄るグンヒルドに信長は震える手を上げた。


ドン


 信長の手の先から妖気の柱が伸びグンヒルドの鳩尾(みぞおち)を貫通する。

 グンヒルドはそのまま進んだ。

 痙攣しながら戻ってきた虚ろな瞳がグンヒルドの姿を捉え、血流がグンヒルドの肩を深々と切り裂いた。

 グンヒルドは止まらない。

 信長の正面に立ったグンヒルドは輝く左手を僅かに後ろに引き、そのまま一気に信長の頸を貫いた!。

 そのままブチブチと首を引きちぎる。

 邪神の首は痙攣しながら乱杭歯を剥き出し、グンヒルドの手に噛み付こうとするが、鋼鉄の義手には傷が付いたのみ。

 グンヒルドの()に迷いなし!。

 義手に集めた渾身の気をグンヒルドは解放した。

 気の爆発に信長の首は、鋼鉄の義手は、(ひと)しく砕け散った。



おおおおおおおおおおおっっっ!!!


依代(よりしろ)の肉体を介して地上に繋ぎ止められていた邪神はその存在を失った。

 数十万人分の怨霊を糧として魔界を構築していたエナジーは瞬時にエントロピーと変わったのだ。

 瞬間、炎を食い止めていた結界が消滅し、寝殿の中央は思い出したかのように燃え上がり、たちまちのうちに劫火と変わる。

「ああああっ!、上様──────っ!。」

 よろよろと歩いて戻ってきたランは絶叫した。

 魔力の源を失い、魔剣は、そして魔人は崩れ朽ちていく。

 半神の肉体を持つランを除いて。

 しかし、ランの手の中の黒い大太刀もみるみるうちに半ばから折れ砕け赤錆と化していった。

「うおおおっ!、剣、剣だ、わたしの剣はどこだぁっ!。」

 ランは半狂乱となり瓦礫と劫火の中を這いずって剣を捜す。

 しかし、全ての魔剣は急速に朽ちていった。

 ガラクタと錆ばかりが散らばる中、ランの指に何かが触れた。


 脚を引きずり、ショートソードを手に近寄るエルナへと振り向いたランの手には、半ばから折れた剣が握られていた。

 かつて、エルナがランのために鍛えた剣。病んだ剣。

「…ラン……、」

 エルナの目が見開かれ、そして眉が悲しみに歪んだ。

 二人はそのまま暫し見つめ合う。

 そして、エルナの瞳に涙が溢れ、ショートソードはその手を離れて地面へと突き立った。

 悪鬼のようなランの形相がほろ苦い笑みへと変わる。

「…エルナ、恨むよ。お前のせいだからな……、」

 言うなり刃を返し自らの左脇腹から右首までを一気に掻き斬った。

「ラン!!」

 ランの肩から上は傷口から滑り落ち、残りの胴体もそれを追うように炎の中に倒れた。

「ラン──────っ!!」

 エルナの叫びは倒壊する寝殿の劫火の中に消えていく。




 不意に大気はその姿を変えた。

 劫火に包まれる本能寺を背後にして追いつめられつつあった明智軍団だったが、大気を支配する異様な妖気が消え失せるとともに、勢いを取り戻す。

 左馬助光春は悟った。

(やったか!、エルナどの!。)

 鬼神の如く力を奮っていた魔人たちは皆苦しげに体を二つに折った。

 その手の黒い魔剣も力を失い割れ砕けている。

 邪神は滅び、魔界は消滅したのだ。

「今だ!、一気に押し返せ!。……御館さま?!。」

 叱咤の叫びを上げる光春の横で、光秀が馬上からゆっくりと滑り落ちた。




 織田右大臣家を本能寺にて討ち果たし、天下人となった惟任日向守(これとうひゅうがのかみ)光秀だったが、信長に盲従し、復讐の怒りに燃える羽柴筑前守秀吉と山崎にて合戦となる。

 人外の魔人と戦い続けた明智軍団は心身ともに燃え尽きていた。

 明智軍団は敗走し、光秀は僅かな供廻りとともに坂本めざし落ちていく。

 魔力の源、第六天魔王織田信長を滅ぼした光秀はもはや廃人同様だった。


 街道を外れ、50人余になった軍勢は山科の竹藪にさしかかる。

 竹藪の出口に二つの白衣の人影があった。

 白い頭巾の上に笠をかぶり、笈仏(おいほとけ)を背負ったその姿は修験者である。しかし、錫杖の代わりに腰に刀を帯びている。

「ぬ、何奴。」

 光秀の旗本、安藤永広が馬を進め誰何(すいか)する。と、

 二人の修験者は無言で抜刀すると怪鳥(けちょう)の如く跳び上がり永広の頭上を越えた。

 頭を割られた永広が、どう、と落馬する。

 隊列の中に跳び込んだ修験者は駆け回りつつ刃を奮った。

 たちまちに供廻り20人が斬り倒される。尋常の相手ではない!。

「…く、く、われらを見忘れたか、日向守どのよ!。」

 笠をはねのけた下には青黒く(ふく)れた死体のような(かお)

 しかし、その顔に光秀は見覚えがあった。

馬廻、団忠正!。

赤母衣衆、落合兵八!。

 兵八は、粘つく口を開き、死人のような声で、

「われらは信貴山へと詰めておったのだ。…われらが本能寺にあればこのような不首尾にはせぬものを……、」

 見ればその背の笈からは強力な妖気を感じる。

 光秀は悟った。二人の背中の笈には信貴山に運ばれた偶像の断片が入っているのだ。

「見ての通り、われらも()()同様長くはもたぬ。しかし、日向守、うぬだけはこの手で討ち果たさずにはおかぬ!。」

 忠正は、兵八は、指の欠けた手指に力を籠める。魔力に依存したその体はすでに腐りかけていた。

 その手にあるのは魔剣にあらず、ただの凡刃(なまくら)だ。しかし魔人の手にかかれば名刀の切れ味を持つ。

 光秀は最後の力を振り絞り腰の刀を抜いた。

 魔剣でさえ及びも付かぬ、ワルキューレのエルナによる最高の剣!。

 光秀は自刃など考えなかった。

 この刀を持ちながら戦わずして自害するなどエルナに申し訳が立たない。

 光秀はゆっくりと馬を下りた。

 魔人二人と対峙し、剣を構える光秀に迷いはない。

 戦いのうちに死ぬることこそ重要だと感じた。

 天人は強者(もののふ)しか相手にしないとエルナも言っていたではないか。


 二人の魔人は光秀の口元に浮かんだ笑みを不審に思ったが、彼らにも時間がない。

 忠正は一刀、兵八は二刀を構え光秀へと殺到した。

 光秀は僅かに左足を引き、刀を中段へと落とす。


カッ


 まばゆい火球が兵八を跳ね飛ばし竹林へと叩きつけた。兵八はそのまま松明(たいまつ)のように燃え上がる。

「何っ!。」

 忠正は火球の飛来した方向に目を向け、そして、

 最期に見たのは白い天人が大剣を自分めがけ振り下ろす姿だった。


 フンディングスバナを手にしたエルナは輝くような笑みを浮かべ、地に膝をついた光秀へと手を伸ばした。

「光秀さま。行きましょう、一緒に。」

 言葉もなく光秀は(てのひら)を上げエルナの手を取った。



大昔にコミケで発表した作品です。全四話。

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