問題発覚
「そんなに気にしなくていいのに。女同士だろ、一応」
「一応って何……?」
何とか着替えを終えた俺はナツキと一緒に学校へ向かっていた。寮から学校への道のりは短いためギリギリまで寝ていても間に合いそうだ。
最悪走れば十分で着く。
これは夜更かしをする学生達にはありがたい。
「走れば間に合うって……今朝だって寝ぐせのままじゃない。起きぬけ頭じゃ恥をかくわよ」
「だとしてもクラスメイトはみんな顔見知りだろ? そのくらい多少はいいじゃないか」
「よくはないでしょ、もうっ」
どうやら普段の生活では姫宮ナツキは案外常識的な人物のようだ。「内」と「外」との区別がはっきりしている。アイドルだからといって別段破天荒な性格という訳でもないらしい。
「寝ぐせくらいは直しなさいよ、恥ずかしい」
「ごめんごめん……で、でも、これはいいのか?」
「これって?」
「い、いや、だから…………これだよ、これ」
右手を軽く前に突き出して見せる。俺の右手は反対の手でこちらの寝ぐせを撫でつけて直そうとしているナツキの左手と繋がれていた。
「恥ずかしいって……何が?」
「だ、だから、この手だよ、手……! そろそろ学校も近づいてきたし、恥ずかしいのが嫌なら離さない?」
「別に恥ずかしくないでしょ。友達なら普通よ」
「そ、そう……」
ナツキは特に気にならない様子で前を向いて歩いている。もしかするとこんなことを気にしているのは俺がオタクだからで、まわりにとっては友達としてごく当たり前の行動なのだろうか。
オタクではない人々の常識が知りたくなった。
◇◇◇
学校に着いてからナツキとは別れた。
お互い別々のクラスのようだ。
「放課後、靴箱の所で待ってて。例のドラマの練習の件で、ちょっと付き合って欲しいことがあるから……」
「分かった。じゃあ、また後でな」
教室に入ってから座席表で自分の席を確認する。
窓際の一番後ろか。
アニメの主人公みたいな席だな。
「……でさー、それからさー!」
「マジでー!?」
「ちょーウケる〜!!」
うわ。
絵に描いたみたいなギャル達の会話だ……。
そういえば教室の後ろの方の席は何故だかヤンキーたちの溜まり場になりやすいんだった。俺のようなコミュ障のオタク達にとっては厳しい生存環境だ。
って、オイ、俺の友達はどこだ……?
ま、まさか、孤立か。
う、嘘だろ……おい……?