決意の朝
「みんなー! 来てくれてありがとー……!!!!」
呼応するファンの大歓声。
どこまでも続く暗闇の中。
光るステージの上にナツキが立っていた。
「今日はみんなも、楽しんで行ってねー……っ!!」
ステージの終わりは暗闇の中でぷっつりと途切れて見えなくなっており、歓声につられるようにしてナツキは次第にそちらへ近づいて行く。
ダメだ、ナツキ。
そっちに行ったら落ちる。
「待って、ナツキ…………ッ」
「あっ、コウ……ッ!?」
嬉しそうにこちらを振り返った途端、俺の目の前で足を踏み外したナツキが奈落の底へ落ちて行く。
思わず駆け寄ったがすでに間に合わず、ステージの端から下を覗き込んでもあまりに暗すぎるせいかナツキの姿は見えなかった。
暗闇の中、無数に光る青いペンライトだけがゆらゆらと水面のように揺れている。それはまるで星明かりを映し出す静かな夜の海辺のようだった。
こちらへ来いと誘うような青い光に薄寒いものを感じつつ、ナツキのことを思って決意を固める。
助けて。と、どこからか声が聞こえた気がした。
待ってろ、ナツキ。
今行くからな。
腹を決め、俺も上から飛び降りた。
◇◇◇
はっとする。
今日も携帯のアラームより早く目が覚めた。
……またあの夢だ。
頭上から聞こえてくる規則正しい寝息で先日自分の身に起こった出来事を思い出す。
そうだ。
ここは学校の寮なんだった。
ベッドを抜け出し、はしごを使って二段ベッドの上の段を覗き込む。そこには寝相良くすやすやと眠るナツキの姿があった。
好きなアイドルの寝顔を見られるだなんて。
一体、ファンの中で誰が想像できただろう。
起こさないよう顔を洗いながら考える。
現状元に戻る方法は分からないが、このまま生活を続けても今のところ問題なさそうだ。
姫宮ナツキが死ぬという事実を変えることで未来にどんな変化が起こるのかは知らないが、とりあえず当面の目標はナツキのルームメイトのコウとして生活しつつ彼女の死を食い止めることである。
登校時間に間に合うよう急いで服を着替えて髪をとかす。しかし起きた時についていた寝ぐせがなかなか直らない。
元の我妻コウはどうやっていたんだろう。これからこの身体にも少しずつ慣れていかないとな。
寝ぐせ直しを早々に諦め、今度は服を着替えにかかる。ところが今度は下着のホックが閉まらない。背中に手を回して閉めるのが思った以上に難しい。これも練習が必要だな。
「……あ、おはよう、コウ」
「おはよう、ナツキ。今起きたのか」
「うん。って、ま……またそんな格好……っ!」
「い、いや、これは着替えてただけだって……あっ」
気が緩んだ拍子に下着がはらりと床に落ちる。
思えばスカートもまだ履きかけだった。
「うーん……やっぱり練習が必要だな」
「い、いいから早く服を着て…………ッ!!」