コンティニュー
『GAME OVER』
この文字が出てくる画面ずいぶん久しぶりに見た。すっかり忘れていたけどまだこの『ゲーム』は続いていたと言うことか。結局この人生は何だったんだろう。
>> 生き返る
あきらめる
真っ暗な視界の中に以前にも見た様な選択肢が現れた。確か前はコンティニューと中断だったはずだけど今回は初めて見る選択肢だ。もちろん生き返るを選択するつもりだけど、あきらめたらどうなるのだろう。もしかして矢田恋に戻れたりするのだろうか。
それとよく見ると画面の端にステータスが表示されていた。そこには現在のレベルやヒットポイントなどが書いてあるのだが、その数字がなんだかでたらめでおかしなものだった。
『ええっと、レベルがいち、じゅう、ひゃく、せん――
えっ!? Lv 76,581,024ってどういうこと!?
ヒットポイントが…… 一億超えてるじゃないの!
こんなのでゲームとして成り立ってるのかしら』
その時どこからともなく誰かの声が聞こえてきた。また誰かがVRゴーグルを被ったのだろうか。でも俊介の声ではなく男性か女性かすらわからないような無機質な声だ。
「レン、聞こえますか?」
『はい、聞こえます。
あなたは誰? ゲームの中から聞こえてるの?』
「答えはイエスでありノーでもあります。
私は一般的な言葉でいうと神ということになります」
「ええ!? 神様って本当にいるものなの!?」
『これまでの行動をずっと見守ってきました。
実はルルリラと恋を入れ替えたのは私なのです。
このようなことを今になって聞かされても驚くかもしれません』
「驚くと言うより納得できません。
今まで見ていたならどれほど大変だったか知っているでしょ?」
『もちろんわかっています。
しかしことは急を要するものだったのでこのような対応をさせてもらいました。
あなたがすでに亡くなっていることは知っていますね?』
「それはどっちの私のことですか?
矢田恋が事故死したのは知っています。
それなのに最後の希望だったレンまで死んでしまいました……」
『矢田恋が事故死することは前もってわかっていました。
たとえ入れ替わりが無くてもそれは変わらなかったのです。
実はかねてよりあなたには目をつけていました。
あまりに不幸な境遇を送った人々へ第二の人生を与えるのが私の仕事なのです』
「第二の人生? それがあのルルリラとの交換と言うことですか?
はっきり言って別の人として生まれるところから始まっていればもっとマシな人生でしたよ?
私があんな性格の悪い人になるなんてありえないですから」
『それはその通りでしょう。
そのことについては大変申し訳ないと思っています。
しかしルルリラをあのままにしておくことはできなかったので緊急措置を行いました。
それが矢田恋との交換だったのです』
「まもなく事故死するからですか?
死んでから別の人として生まれ変われなかったんですか?」
『あの時、グランと言う男と始めて対峙した時のことです。
ルルリラが勝っても負けてもその後グランは盗賊討伐にあい処罰される運命でした。
あの世界ではその処罰が切っ掛けで盗賊による貴族刈りが常套化することになります。
やがてそれは大規模なものになっていき、やがて民衆を巻き込む大虐殺へと繋がるのです』
「そこまでわかっているならどこかで止めればいいじゃないんですか?
グランを助けてもいいし処罰されないよう逃がしても良かったはず。
それなのになんで私をルルリラと入れ替える必要があったのかわかりません」
『私たちには人へ直接手を下すことはしないという決まりがあります。
出来るのは不幸に育った人を転生させることくらいなのです。
転生させるのは誰でもいいわけではなく、事前に調査して決めた一人のみ。
つまりあのタイミングでの候補者は矢田恋のみということです』
「だからその転生? できる私を都合よく使ったってことですね。
いくらなんでもひどすぎじゃありませんか?
人の人生をなんだと思ってるんですか!」
『そのことについては重ね重ねお詫びします。
ですのであなたが慣れない世界に来て不慮の事故で死んでしまわぬよう考えました。
その結果、ゲームの中に組み込むことにしたのです。
これならもしもの時にはコンティニューできますからね』
「ちょっと意味がわからないこともありますけど大体わかりました。
じゃあこの世界は実在すると考えていいんですか?」
『その通りです。
この世にはいくつもの世界があり、様々な文化を育んでいます。
矢田恋がいた宇宙を基幹とする世界、今いる世界もほぼ同じです。
そのほかには天動説と言われるような大地が中心の世界も存在します』
「亀の上に地上が乗ってるやつですか?
世界の果てが滝になってたりするアレ?」
『良くご存知ですね、まさにその通り。
他にもいろいろありますが人型の生物が発達していることが多く見られます。
腕が六本有ったり羽のある人類の住む世界もありますよ』
「なんだか話をそらしてうやむやにしようとしてませんか?
それでゲームの中にいるのは私だけなんでしょうか」
『はい、この世界であなた以外は皆ごく普通に生きています。
ゲームと言う枠組みであなたは保護されていると考えてください』
「ではあきらめるを選んでも元に戻れるわけじゃないんですね。
なんだか悲しいです……」
『あきらめるを選んでも結局この画面に戻ってきてしまうので生き返るのがおすすめです。
それにもし矢田恋に戻ったとしてもすでに埋葬済みですよ?
それでも良ければ戻すことも可能ですがどうしますか?』
「それじゃ意味ないじゃないですか。
もうこのままでいいですけどもう一つ聞かせてください。
子供なのにというか人間とは思えないこの力はなんなんですか?」
『それは…… まことに言いにくいのですが……
ゲーム用語で説明するならばバグです。
急いでいたので既存のゲームを現実へ当てはめるような形で準備したのです。
その時にどこかを間違えてしまい行動するたびにレベルが上がってしまいまして……』
「意図しない現象ってこと!?
神様なのにそんなミスするんですか!?」
『申し訳ありません、ゲームは素人なものですから……
レベルが上がるとヒットポイントをはじめとするステータスが上昇します。
力が強かったり俊敏に動けるのはそのためです。
ただ残念ながら知力はレベルと共に上がってはいきません』
「ホント残念、ちゃんと勉強しないと賢くならないってわけね。
魔法とか使えたりしないの?
ゲームならそう言うのよくあるでしょ?」
『元にしたゲームに無かったので魔法のようなものはありません。
特別な力と言えばそのステータスとコンティニューできることくらいです』
「それでも十分特別すぎるわね。
もしかして私は永遠に死なないの?」
『なんとも言えませんが年を取ればやがて老衰にはなるかと……』
「バグがなければ、ってことね。
大分事情が飲みこめたわ。
なんで今更こうやって説明してくれたの?」
『それはですね……
バグを出したことが上級神にばれてしまいまして……
これから何十年か研修に出掛けることになりました。
その間はあなたを見守ることが出来ません。
ですから全てを説明しておこうと考えたのです』
「それはどうもご丁寧に。
神様にも研修なんてものがあることに驚きだわ。
では研修頑張ってくださいね」
「はい、ありがとう。
レンも人生を楽しんでください」
私はホントか嘘かわからないような神様との会話を終えてから、ゆっくりと『生き返る』を選択したのだった。