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意外な事実

 秘密の考え事をしているつもりだったがいつの間にか顔に出ていたらしく、クラリスがこちらを見て笑っていいるのが見えた。きっとまたいやらしい顔してるって思われているに違いない。当主らしくもっと威厳を持ってドンと構えていなければならない。こんな真面目な話をしているところなんだし……


「レン様、明日の朝には早馬を出せるよう準備してあります。

 場合によっては国王へ報告しても良いかと。

 ただその場合は――」


「即内戦になるかもしれないわね。

 これは私の勘で根拠はないのだけど、トーラス卿の後ろ盾はハマルカイト皇子ね。

 王位継承権が七番目から三番目に上がったことで欲が出たのかもしれないわ。

 今回の件はじゃまな私が発言権を持つのを嫌って南の国に攻め込ませたかったのよ」


「すると真の狙いは第四、第六皇子と言うことですな。

 第四皇子は王都で王政教育中でしょう。

 第六皇子は北との国境を任されているはず。

 狙うとすれば第四皇子のタマルライト皇子でしょうか」


「そうねえ、トーラス卿の軍勢で王都へ進軍するつもりで武装を固めているのかも。

 彼の鉱山の生産量が減っているように見えるのは自分で使っているからかしら。

 王都で内戦が始まったら北の国が攻め込んでくる可能性も高いわね」


「はい、そこなると第六皇子のゴーメイト皇子の身も危うい。

 トーラス卿とハマルカイト皇子にとってはまさに一矢二兎となります」


「王族が勝手に滅ぶなら好きにすればいいけど大勢の民衆が犠牲になるわ。

 それは見過ごせないけどここから王都は遠いしどうしたものかしら」


「やっぱり鉱山を奪っちまって武力を削ぐのがいいんじゃねえか?

 おそらく断ってくるだろうから、その時はこっちから侵攻しちまおう。

 先にトーラス卿を押さえちまえば皇子だけではなにもできねえさ」


「でもあくまで推測なのよねえ。

 大体トーラス卿とハマルが結託するほど近しい関係だなんて意外だわ。

 今までは皇子の教育係と言えばアーマドリウス家とモンドモル家だったのに」


 またまた捕虜の前でその主を懲らしめる算段をはじめてしまっていたが、ダグラスがどうするのかは彼の問題だ。細かい作戦を話し合っているわけではないから気にする必要もない。


 しかし当の本人はいたく深刻に受け止めているようで、真剣な面持ちでゆっくりと手を上げた。


「度々口を挟んで申し訳ございません。

 実はハマルカイト皇子とトーラス公爵のご息女は婚姻の予定がございます。

 慣習ではアーマドリウス家より輿入れでございましたが、なにか事情があるとかで」


 あちゃあ、事情と言うのはルルリラがハマルに切りつけた一件のことだろう。それではイリアはどうしたのだろうか。まさかあの後また婚約破棄でもしたのか、それとも婚約までこぎつけられなかったのか。


「ハマルカイト皇子には婚約者がいらしたわよね?

 その女性はどうなったのかしら」


「我ら騎士風情には預かり知らぬことでございます。

 ただトーラス公爵閣下のお子様はご息女お一人なのです。

 そのお方を嫁に出してしまうと家督を継ぐ者がいなくなりますゆえ養子を迎えるとか。

 話が進んだのがここ数か月のこと、随分急いた話だとは感じておりました」


「そのお嬢さんはお屋敷にいるのかしら?

 歳が同じくらいなら学園に通っていそうなものね」


 皇子たちと同じ学園にいるならルルリラやイリア、そして事件のことを知っているかもしれない。それを承知でハマルカイトと結婚しようと言うことなのだろうか。


「いえ、ご息女のモーデル様は南の国の教育機関へ留学中でございます。

 現在十五歳ですので新年を迎える前には戻り成人の儀に参加されるはずかと」


 てっきりイリアがルルリラに成り代わりハマルと結婚するのだと思っていたのだがどうやら違うようだ。じゃあ私がルルリラとしての人生を取り上げられたのは、ただ単に口止めと辺境へ留めておくためだったと言うことになる。


 それにしても王族や貴族と言うのは欲に塗れて生きているものだと言うのがよくわかる。金や地位、権力に繋がることなら何でもするし手段は問わないというのは良くある話だ。


「なんだか複雑な事情があるのかもしれないわね。

 とりあえず鉱山を取り上げると言ってみようかしら。

 寄こさないなら密書の件を監査役へ密告すると言ってね。

 ま、鉱山を取り上げることが出来ても出来なくても結局密告するんだけど」


「ひでえ、考え方が鬼畜だな」


「何言ってるのよグランたら。

 密告は武力を貯め込んで謀反の疑いありってことでよ。

 どちらにせよ再度の衝突は避けられないわ」


「しかし密告と言ってもすでにダグラス殿に全て聞かれておりますが……」


「別に構わないわよ。

 誰が聞いていてもやることは変わらないもの。

 それにね、私はトーラス卿が迎えに来るとは思っていないわ。

 もしダグラスが今すぐ帰りたいなら書状を持って行ってもらおうかしら」


「は!? それじゃ捕虜でもなんでもねえじゃねえか。

 みすみす向こうの戦力を上げるなんてバカみたいだぜ」


「それはダグラスが判断することよ。

 しばらくここに残って村の見学でもしていけばいいと思うけどね。

 あんな守る価値もない公爵のために戻って命を賭けるならそれまでの男ってこと」


「なあダグラス、あんたほどの男がなんでそんなに忠誠を誓ってやがんだ?

 あのトーラス卿にそんな人間的魅力や器の大きさがあるとはとても思えん」


「確かにここ最近の公爵閣下は変わられてしまいました。

 しかし先の大戦で母子二人になってしまった我らを助けてくださいました。

 それだけでなくご自身のお屋敷に我らの部屋をお与えくださり不自由ない生活まで。

 母はすでに亡くなりましたがその御恩は一生かけてお返しすると誓ったのです!」


「なあ、あんたそれって――」


「グラン! それ以上はいいわ。

 なるほどね、あなたにはあなたの正義があるのでしょう。

 でもその相手が誤った道を進むのを正すことこそ恩返しではないかしら。

 このままだと破滅の道を進むだけよ?

 たとえハマルカイトが王になったとしても大勢に恨まれて生きることになるわ」


 ダグラスはうつむいて考え込んでいた。見かけはもういい歳のおっさんだけど中身は結構純粋な子供みたいなところがありそうだ。きっと受けた恩義と言うのも表面的なものしか見えてないのだろう。


 だがあれこれ勘ぐっても仕方ない。今回はダグラスへ書状を託しトーラス卿の出方を待つことにしよう。その上でどうしても戦にしかならないのなら、今度はトップの首を獲るのみだ。



 翌朝目覚めると屋敷内が何やら騒がしかった。どうやらダグラスが居なくなったらしい。もしかしたら勝手に抜け出して帰ってしまったのかもしれない。警護当番だった兵士たちは平謝りしていたが、元々帰してあげる予定だったし気にすることはないとなだめた。


「彼は生真面目過ぎには見えましたが正義感の強い男だと感じました。

 もしわたくしたちと共に歩むと言ってくれたなら心強い味方になったでしょう」


「そうね、堅物のルモンドとはいいお友達になれたかもしれないし。

 今度会ったら遊びにでも誘ってみたらいいわ」


「姫様、そんなお戯れを。

 わたくしはそんなに堅物でしょうか」


「グランに比べたら大分ね。

 それよりもその呼び方久しぶりね、悪くないわ」


「これはついうっかり。

 こちらの方がよろしければそうお呼びしますがいかがいたしましょう」


「うーん、どちらでも構わないかな。

 魔女じゃなければ呼び方なんてなんでもいいわ」


「魔女? ですか?」


「ううん、なんでもないの。

 それより朝ご飯にしましょうよ。

 朝から大騒ぎだったから食べそびれていたわ」


 私はルモンドの手を引いて居間へ向かって歩き出した。


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