ヒトリジメ。
私の両親は、もうここには居ない。
二人はいつも私に笑いかけてくれた。
私がいじめに遭って、友達なんて一人も信じられなくなったときも、お母さんとお父さんのことだけは、信じられた。
不登校になったときだって、二人はずっと私の味方で居てくれた。
まだ死ぬべき人じゃなかった。
ましてや、殺人犯なんかに殺されるなんて。
二人が居なくなった途端、私の心の灯りはふっと消えてしまった。
いじめも酷くなっていって、ついには家に牛乳をかけられるようになった。
先生も最初は気にかけてくれていたけど、私の長期間の不登校に呆れたのか、今は放っておかれている。
もう生きてること自体にさえ、怠惰を覚えてしまう。
「…もう、どうすれば、いいの…」
「どうしたの?すごく悲しそうな顔だよ」
不意に聞こえてくるのは、優しい声だった。
「あなた…は…?」
「僕は神田蓮。君の名前も聞いていいかな?」
「……宮本…玲…」
「玲ちゃん、か。ありがと!」
こんなふうに優しく話しかけてくれる人に出会ったのなんて、いつ振りだろう。
「それで…何があったの?
僕で良ければ、聞かせてくれないかな」
「…はい。実は…」
どうして突然声をかけてきたのかわからないけれど、私が今縋れるのは、彼、蓮しかいなかった。
「……そっか。
…大変、だったんだね。」
「頑張ったね。」
"頑張ったね。"
その一言で、どれだけ救われただろうか。
―クラスメイトに冷たい視線を浴びせられる日々。
家に閉じこもっても、昔の暖かさに縋り付いて泣き喚くばかりだった。
そんな私を、肯定してくれるの…?
気がつけば私は、彼の腕の中にいた。
「もう、無理しなくて良いんだよ。
僕のもとへおいで」
「うん…!」
――中2の6月16日。
僕が最初に君に出会った日だ。
その頃僕はクラスメイトのみんなにパシられていた。
そんな時に助けてくれたのが、君だった。
「そんなに人をあごで使って、何が楽しいの?
みんなは頑張って働いてお金を貯めてるのに、自分たちだけタダで済ませようとしてること、
恥ずかしいと思わないの?」
君が大声でそう言って言ってくれたおかげで、
みんなが僕をパシることは少なくなった。
そしてあの瞬間、僕は恋に落ちた。
あの人を僕のものにしたい。
そう思った。
でも、君は別のクラスだったし、君は他の子からも人気だったから、あれ以来喋ることはほとんどなかった。
僕だけのものにしたいのに。
そうだ。
君の周りに僕しかいないようになったら。
君は僕に縋ることしかできなくなる…よね?
それからは、ただただ計画を練るのに明け暮れる日々だった。
とりあえず…親。
親が居なくなったら、君は感情が不安定になるし、誰かで心の傷を癒やしたいと考えるだろう。
あとは…友達。
流石に人数が多いから、消すのにも無理がある。
…そうだ。
友達が敵になればいいんだ。
人は「共通の敵」がいると、結束力が増すらしい。
二人で幸せに暮らすためには、友達を悪者にしなきゃ。
親を消すよりは簡単だから、先に済ませておこう。
友達に、君の悪い噂を流しておけば、君は仲間外れにされて、僕しか味方は居なくなるはずだ。
本当に君の幸せを願っているのなんて、僕しかいないんだから…。
そうして僕は、僕以外の君の仲間を消し去った。
ほら、これで君の味方は僕だけだよ?
二人だけの世界の完成だ。
君は泣いている。
絶望しているよね?
僕が助けてあげなくちゃ。
僕は、他人事みたいに君の隣で言った。
「どうしたの?すごく悲しそうな顔だよ」