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画面の向こう側  作者: 阿瀬 ままれ
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第四章 魔王息子のお話

 魔王には、それはもうとても可愛がっている一人息子がいます。体格は勇者と同じくらいで、魔王と同じぼさぼさな緑の髪に角が生えた頭、そしてミニサイズの漆黒のコートを羽織っています。

 魔王息子は、魔王と一緒にお姫様をさらい、助けに現れる勇者の行く手を阻みます。そして魔王共々、いつも返り討ちに遭ってしまいます。お姫様を救出されてしまい、めでたくハッピーエンドを迎えられてしまう。毎回そんな結果に終わるのが悔しくて仕方ありませんでした。そして、それでもなお平然としている魔王のことを嫌っていました。


 そんな魔王息子ですが、今日は魔王が出かける用事があるとのことで、お留守番を任されました。もちろん、そんな言いつけなど聞きたくありません。言うことを聞かないのもまた悪役の素質だとか、そんなことを考えていたみたいです。思春期真っ盛りですね。

 なので、お留守番をするふりをして、こっそり魔王の跡をつけることにしました。呑気な魔王のことだから、きっとパチンコとか、しょうもないことのために時間を費やすに決まっています。

 魔王息子は魔王と同様にドラゴンに化けることができるのですが、身体能力は当然魔王に劣ります。なので、翼を生やして飛んで行かれたら追いつけないと考えていましたが、今回魔王は徒歩で出かけるみたいでした。しめたと思い、物陰に隠れながら跡を追います。ところが――。


「魔王息子くん!」


 突然背後から名前を呼ばれました。隠れていたつもりが、他の誰かにばれてしまったみたいです。

 慌てて振り返ると、なんと勇者がこちらを見つめて立っていました。ライバルの登場に焦りながらも、魔王息子は小声で尋ねます。


「な、何しにここへ来たんだ、お前は!」

「いや、魔王に用事があったんだけど、電話しても留守って言われてさ。直接会いに行こうとしただけだよ。そっちこそ何してるの?」

「な、何って……」


 魔王息子がしどろもどろに答えました。


「お、親父が出かけるって言うから、跡をつけようと思ってだな……。きっと、パチンコとかくだらないことをしに行ってるだけに違いないからな!」

「あ、本当だ。魔王があそこにいる」


 魔王息子の言葉を聞いて、勇者はようやく魔王の存在に気付きました。


「パチンコはさすがにないんじゃないかな……。でも、跡をつけるのは面白そう! あたしも一緒について行っていい?」

「何だと……?」


 勇者の突然の願い出に、魔王息子は動揺を隠せませんでした。恋心とは少し違いますが、魔王息子は勇者に悪役として認めてもらいたいと考えていたのです。

 悪役ならばここは当然突っぱねるべきだと魔王息子は考えましたが、女の子のお願いを断るのも何だか気が引けます。仕方なく、魔王息子は勇者のお願いを聞き入れることにしました。


「今回だけだぞ。普通、俺達は勇者と馴れ合ったりなんか……」

「ありがとう、魔王息子くん!」


 魔王息子が言い切る前に、勇者は晴れやかな笑みを浮かべて礼を言いました。可愛さすら感じるその笑みに、魔王息子は頬を赤らめながらたじろいでしまいました。魔王息子は女の子に弱いみたいです。




 さて、しばらくこっそりと魔王の跡を追いかけていった二人でしたが、やがて不気味な雰囲気のレストランに到着しました。どうやら魔王息子のパチンコに行く線は外れてしまったみたいです。

 レストランの中に入ると尾行がばれてしまうので、窓からこっそり覗き込みます。すると、魔王が向かう先のテーブルには既に何人かが座っていました。ロボット科学者、長い太刀を持った剣士、怖そうな武闘家、スーツを着た検事など、様々です。


「やあやあ、『悪役の集い』へようこそ! はるばるゲームの枠を超えてよくぞお越しくださった!」


 魔王がテーブル席に座るなり、同席している人達に感謝しました。同席している悪役達は次々に拍手をしました。


「皆の活躍ぶりは聞いておりますぞ。新作が発売されてから大ヒットなされているとか。他にも、ゲームの枠を超えての出演をなされている方も沢山おられる!」

「うむ。全く持って羨ましい限りだ」


 魔王の称賛に続き、検事の人も感心してうなずきました。


「なに、検事殿は主役のゲームが発売されたと聞く。我々もまだ成し得ていないことだ」


 剣士の人が謙遜しながら言いました。


「わしは試合以外にもボウリングをさせられたからな。これを活躍と呼んでいいものか悩む」


 強面のまま冗談を言う武闘家に、一同はどっと笑いました。


「面白かったのは確かじゃろうな。さて、早速料理を運んでもらうとするかの!」

「そうしましょう!」


 ロボット科学者の提案に同意し、魔王は指を鳴らしてウェイターを呼びました。


「何だか、豪華なメンバーが揃っているみたいだね……」


 窓から覗き込みながら、勇者が魔王息子に耳打ちしました。魔王息子は信じられないといった様子で陰口を言いました。


「親父にこんだけの人脈があるとは思えない……いつも勇者に負けてばっかりのくせに……」

「でも、魔王は良い人だよ?」


 首を傾げる勇者に対し、魔王息子はむっとなって言い返しました。


「悪役が良い人であって良いわけないだろ! 本当は勇者を倒すために……」


 魔王息子が熱弁をしようとした、その時でした。


「誰かー! 食い逃げ泥棒だー!」


 ウェイターが突然叫んだかと思うと、レストランから男が全力疾走で出て行きました。あの男が悪いことをしているのだと、勇者達は直感します。


「待て、この……」


 魔王息子が呆然とする一方、勇者は走って追いかけようとします――が、それよりも早く、何者かがレストランから出て来ました。


「親父……!」


 レストランから出てきたのは魔王でした。魔王はドラゴンの翼を背中に生やして飛び、逃げている男にあっという間に追いついて、地面に押さえつけます。


「私が同席していたのが運の尽きだったな。大人しく観念しろ」


 いつもののほほんとした態度とは打って変わり、厳格に男を脅します。


「何で魔王が悪の邪魔をする! 悪役なら俺らの味方になれよ!」


 じたばたしながら男が言い訳をします。男の言うことはもっともだと魔王息子が思った矢先、魔王が男にげんこつをかましながら怒鳴り返しました。


「私は悪役であっても、悪人ではない!」


 魔王の一言が、魔王息子の胸に突き刺さりました。その言葉を完全に理解したわけではありません。しかし、何故だか魔王のことが格好いいと思えてしまったのです。

 他の悪役達も食い逃げ犯を取り押さえ、食い逃げ犯は無事、黒の世界の衛兵を通して、白の世界の衛兵に引き渡されました。


「ところで……なぜ息子と勇者がここにいるのだ?」


 悪役達とウェイターに称賛される中、魔王が隅っこにいた勇者と魔王息子に問い質します。


「えっと……普段魔王が何をしているのか気になって、跡をつけていたの」


 勇者が申し訳なさそうに答えるのに対し、魔王はいつものように笑って言いました。


「ハッハッハ! お前達が期待しているようなことは残念ながらしていないぞ!」


 そして、魔王は悪役達の方を振り向いて言いました。


「邪魔が入ってしまい申し訳なかった。そこに勇者と我が息子がいるのだが、同席させてもらっても構わないでしょうか?」

「もちろんじゃとも!」


 悪役達は二つ返事で承諾しました。勇者が万歳する一方、魔王息子は先程の魔王の言葉を反芻していました。


「なあ、親父」


 皆がレストランに戻っていく中、魔王息子が魔王に尋ねました。


「さっき言ってた、『悪役であっても悪人ではない』って、どういう意味か教えてくれない?」


 それを聞いた魔王は、またいつものように笑い、魔王息子を持ち上げて肩車しました。


「ハッハッハ! お前にはまだ難しいかもしれないな。でも、いずれ分かるときが来るさ」


 ちゃんと教えてくれない魔王のことを、魔王息子はケチだと思いました。ですが、魔王に肩車されて、何だか悪い気はしませんでした。

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