表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第一章終了】千紫万紅の吸血鬼  作者: 小松羽咲/了一
【第一章】君と僕のさよなら
63/63

【第一章最終話】君と僕のさよならⅩ

 ――聞こえるかい?


 隣にいる琥珀は何故か思念波で蒼羽に話しかけてくる。


 ――聞こえるけど、なんでわざわざ思念波なんだ?

 ――秘密の話だからだよ。ここから脱出する案が浮かんだ。僕が合図したらお姫様と一緒に真上に跳んでくれ。


 正直跳ぶだけでここから逃げられると思えない。瞬間移動でもする気だろうか。


 ――分かった。


 だが、今は琥珀のよく分からない案に乗るしかない。

 蒼羽は絲を横向きで抱きかかえた。


「え、あ、あお?」


 混乱している絲をよそに、蒼羽は琥珀の合図を注意深く待っていた。


「逃がさんぞ」


 今にも蒼羽に襲い掛かろうとしている中将のそばへと桃簾が歩いていく。


「あんた達はこっちよ」


 桃簾の目が桃色に近い赤に光ったかと思うと、中将も千草も武器であるはずの剣を手から落としてしまった。


「何が起こったんだ?」


 蒼羽が驚いて呟くと琥珀が「あれが彼女の能力だ」と答えた。

 中将達の表情から怒りが完全に消える。


「今だ」


 琥珀の合図で蒼羽は思い切り上に跳んだ。

 その瞬間浮遊感に襲われ絲を抱きしめたまま思わず目を閉じる。

 ゆっくり目を開くと沢山の蝙蝠達にドアの外へとすごい勢いで運ばれていた。

 琥珀の姿も蝙蝠へと変わったのか周囲には見えない。


 背後で爆発音が聞こえ、蒼羽と絲は肩を震わせた。

 後ろを見て確認すると爆発したのはあの部屋ではなさそうだったが、安全とは言えない。

 千草達は大丈夫だろうか。

 それに肝心の救い出すべき人物が残ったままだ。


「心配かい?」


 すぐ近くで琥珀の声が聞こえる。

 姿は見えないがやはりすぐ近くにいるらしい。


「……まぁな」

「君はどっちの心配してるんだろうね」


 呆れたような声の後、落ち着いた声で彼は続けた。


「大丈夫だよ。桃簾は薬を飲んだおかげで多少回復しているし、簡単にはやられない。俺達が出てすぐ、こちらに猛スピードで向かっているはずだ」


 その話を聞き、半分安心し、もう半分が更なる心配に変わる。

 千草達はあんな朦朧とした状態で放置されたら逃げ遅れるに決まっている。

 琥珀は蒼羽の考えを見透かしたように付け加えた。


「あぁ、あの人間達も碧王のここにいる人間を殺さない、に入るからね。桃簾が能力使ったまま外までは連れてくるだろうから安心しなよ」

「そか」


 蒼羽は琥珀の話に胸を撫でおろした。


 あっという間に階段につき、そのまま一気に上がっていく。


「あー、アンバー遅いよー」


 入り口ではポムフィが頬を膨らませて待っていた。

 入り口まで着くと蝙蝠達はその場でくるくると飛んでその場に留まった。

 蒼羽は絲を抱えたまま跳ぶように床に足を下ろす。


「あ、あお、私もう歩けるよ」

「あ、うん」


 絲は恥ずかしがりながら蒼羽の手から下りて床に足をつけた。

 小さな蝙蝠達は蒼羽のそばを回り、その中から人の姿の琥珀が現れる。


「ボクもチューちゃん達も、こんなおじさんと二人で待ってるなんてすっごくつまんなかったんだからあ」

「悪かったね。悪いついでだけど、このまま脱出しようと思うんだ」


 琥珀の言葉にポムフィは更に不機嫌になったが、納得はしたらしく渋々頷いた。

 よく見るとポムフィの足元では大将が気絶して倒れている。


「このおっさん、なんでこんなことになってるんだ?」

「あぁ、この人ぉ?」


 ポムフィは心底つまらなさそうに大将の腹を蹴とばした。


「よく分かんないけど、チューちゃん達が近くに来たとたん気絶しちゃったんだよね。なんか赤いぶつぶつ出てるし気持ち悪い」


 失神している彼の顔には小さな発疹が沢山出ていた。


「どうやらアナフィラキシー持ちらしい。噛む前に精神的にまいってしまったんだろうね」

「アナフィ……?」

「あぁ、えっとようは命の危険がある、天敵のようなものだよ」


 琥珀の早口の補足でとりあえず納得した蒼羽は大将から視線を外し、絲の手を引いて第三書庫の入り口を目指して駆け出した。


「早く火を消させなきゃ」

「……どこまでもお人よしだな、君は」


 琥珀は蒼羽の横を走りながら琥珀色の猫に、ポムフィは小さな鼠に姿を変えた。

 吸血鬼の自由自在な変化を少し羨ましく思いながら蒼羽は出口を目指す。


 第三書庫の扉を開けると気絶から回復した兵と、なかったであろう本を探し終えた兵が意味のない見張りを続けていた。


「蒼羽⁉ お前どこから……てか、本なんてどこにも」

「そんなことどーでもいい! 中の、奥の部屋が火事なんだ! 総司令も中将も兄貴もまだ中にいるんだよ」

「火事⁉」


 見張りの兵は頷きあうと一人は中へ向かって走っていった。これで、千草達は見つけてもらえるはずだ。


「蒼羽はここにいろ。俺は他の奴らを連れてくる、それから消火作業だ」

「分かった」


 もう一人は大声で家事を知らせながら寮の方へ向かった。


「ごめん、みんな」


 蒼羽は二人の姿が見えなくなると、絲と二匹の動物と共に玄関へと走り出す。


 玄関を開け外に出ると蒼羽の暗い心とは裏腹に満点の星と輝く月が迎えてくれた。

 思わず足を止めて空を見上げる。

 隣で琥珀とポムフィが再び人型になった。


「私達と行くのはやめておくかい?」


 琥珀の問いかけに蒼羽は空を見たまま鼻で笑った。


「今更……ここにいられるわけねーじゃん」


 そう、このままここにいられるわけがない。

 六歳から十年間、生まれてからの多くの時間をここで、彼らと共に過ごしてきた。

 後悔が全くないと言えば嘘になる。


「……行くよ、俺は進むって決めたから。それが茨の道でも」

「そうか」


 振り向いてそう答える蒼羽を見て、琥珀は嬉しそうな寂しそうなよく分からない笑顔を見せた。

 大量の蝙蝠が再び蒼羽達を囲む。


 その瞬間だった。


「琥珀!」


 蒼羽が琥珀を突き飛ばす。


 静かな森に銃声が響き、弾は真っすぐ蒼羽の左胸に飛んだ。

 反動で蒼羽が後ろに倒れる。


「あお!」


 絲の悲痛の声が森にこだまする。


「あ、なんで……蒼羽……お前……」


 撃った人物の手から銃が滑り落ちて地面にぶつかり重い音を響かせたる。

 かすんでいる視界の中で親友の姿が見え、蒼羽は彼の名前を呼んだ。


「た、つもり……」


 辰森は膝から崩れ落ちて震えている。


「吸血鬼を、倒して、蒼羽を、助けなきゃ……」


 琥珀は憐みの目で彼を見ると、彼のそばにいる桃色の蝶を見て頷いた。

 蝶が辰森のそばを一回りすると彼は意識を失い地面に倒れた。

 桃色の蝶は琥珀の傍まで飛ぶと桃簾へと姿を変える。


「相変わらず人使いが荒いわね、あんた」

「助かったよ」

「思ってもない事を口にするところも相変わらず」


 桃簾は文句を言うとそっぽを向いてしまった。


「あお! あおー!」


 べそをかきながら蒼羽の名前を呼ぶ絲に蒼羽は苦笑で応える。


「心配すんなって、死んでないから。多少びっくりして転んじまったけど」


 蒼羽はゆっくりと体を起こし、左胸の内ポケットからお守りを取り出した。


「これが守ってくれたんだ」


 名月にもらったお守り。中に入っていたのは石だと本人は言っていたが、相当硬い大きめの鉱石だったらしい。探したというのは河原かどこかかと思っていたが、もしかしたら店で購入したものだったのかもしれない。

 このお守りがなければ死んでいたと思うと少しぞっとする。

 衝撃で少し痛むが致命傷にならなかったのが幸いだ。


「キミねー、無茶しないの。アンバーなら多少撃たれても回復できるけど、キミ人間なんだから一発でゲームオーバーだよ?」


 ポムフィは背中についた小さな蝙蝠のような羽根を動かて浮遊しながら蒼羽に説教し始めた。こういう時はポムフィより琥珀がいつも何か言うものだが、珍しく彼は何も言わず静かだ。


「琥珀?」

「えっ」


 蒼羽が不思議に思い彼の顔を覗き込むと、彼は真っ青な顔で固まっていた。


「え、なに、やっぱ怖かった?」


 蒼羽は首を傾げて尋ねる。

 心臓を貫けば吸血鬼でも一発で殺せるような武器だ。そんな武器で攻撃されれば怖くなるのは当たり前だ。


「いや、その武器が怖いんじゃなくて……」


 琥珀の言いたいことが理解できず更に首を傾げる蒼羽に、琥珀はなんでもないとだけ告げた。


「辰森は⁉ 辰森はどうなったんだ⁉」


 痛みが引いてきて親友のことを思い出した蒼羽は慌てて大声を出してしまい盛大に咳き込んだ。

 桃簾が蒼羽を不機嫌そうに眺めながら長い髪を揺らして答える。


「大丈夫よ。眠らせておいただけだから。今頃幸せな夢でも見てるわよ」

「幸せな、夢……」


 眠らせるというのは桃簾の能力なのだろう。

 辰森に視線を移すと彼は玄関の近くで気持ちよさそうに眠っていた。

 それを見て蒼羽は大きく安堵の息を吐く。


「……ありがとな。風邪、ひくなよ」


 蒼羽は誰にも聞こえないくらい小さな声で親友に告げる。言いたいことはあるはずなのに、それ以上はかける言葉が見つからなかった。

 彼は何も悪くない。どうか気に病まないでほしい。無責任にそんなことを願いながら彼から視線を外した。


「早くしないと追手が来るわよ、琥珀。私は先に行くから。もう人間なんかに捕まるのなんて御免だわ」


 桃簾はそれだけ伝えると大きめの蝶になり、ひらひらと宵闇の向こうへ飛んでいってしまった。

 琥珀は肩をすくめてそれを見つめる。


「同じ場所に行くのに、せっかちな奴だよ」


 薄々感じていたが、琥珀と桃簾はあまり仲が良くないらしい。

 琥珀は一つ咳ばらいをして、空中で回転すると大きな琥珀色の鳥に姿を変えた。


 ――ポムフィ。


 琥珀に唐突に声を掛けられ、ポムフィは不満げな声を上げる。


「えー、やだよー。このリボン気に入っちゃったんだもん」


 ポムフィは言われることが分かっているのか口を尖らせていたが、琥珀の無言の圧力に負け、指を鳴らしてどこかから青色のリボンを取り出した。


「ちぇ」


 不満げにしながらも琥珀の首に巻いていく。


 ――さぁ、行こうか。遠慮なく乗っていいよ。


 どうやらここからは鳥になった琥珀に乗っての移動になるらしい。

 ポムフィは振り落とされないよう手綱代わりにリボンをつけてくれたようだった。

 手綱があってもこの巨大鳥は操ることができなさそうだが。


「さっきみたいに蝙蝠に乗ってくんじゃねーのかよ」


 ――あの吸血鬼達じゃ着く前に力尽きてしまうからね。


 目的地は相当遠い場所なんだろうか。

 今更ながら臆病な気持ちが芽生えかけて蒼羽は勢いよく首を横に振った。

 今余計なことを考えるべきではない。急がないとさっきの銃声を聞いた兵が来るかもしれない。


 蒼羽は意を決して大きな鳥の背中に乗った。さらさらとした羽根が心地よい手触りだ。


「ほら、絲」


 絲に手を差し伸べて引き寄せ、自分の前に座らせた。

 ポムフィは空中でくるっと回ると小型の鳥になった。


 ――ボク、先に行くねー。


 先に飛んでいった小鳥が消えると、琥珀は大きく羽ばたき始める。


 ――行くよ。


「おう」


 蒼羽の返事で高い空へと上がっていく。

 風圧で閉じていた目と口をゆっくり開くと、満点の星空がさっきよりも近づいたように感じた。


 蒼羽は絲と一緒に手綱を持ったまま、振り向く。

 少しずつ小さくなっていく建物を見て、溢れそうになる涙を唇を噛んで止める。


 ここにはもう帰ってこないのかもしれない。

 もう、彼らに会うことはないのかもしれない。


「辰森……兄貴……みんな……さよなら」


 それでも進むしかないから。


 蒼羽は小さく別れを告げ、前を向いた。






 その日、俺は育った場所に別れを告げた。


 これが正解だったのか


 兄貴じゃなくて琥珀を信用してよかったのかは


 今の俺にはまだ分からない。





 二部へ続く……

一章はこのお話で終了、次からは二章となります。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

長い感想、二章更新予定についてはまた活動報告にでもつらつら書こうと思っているのでお暇でしたら遊びに来てやってください。

感想等いただけると嬉しいです!

第二章でもよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ