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【第一章終了】千紫万紅の吸血鬼  作者: 小松羽咲/了一
【第一章】君と僕のさよなら
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君と僕のさよならⅥ

「あともう一つ、君に言っておきたい」

「なんだよ、まだあんのかよ」

「……無茶だけはしないでくれ」


予想外すぎる発言に蒼羽はただただ目を丸くする。


「は?」

「僕達は吸血鬼だから多少の怪我はどうってことない。けど、君達は人間だ。人間はとても脆い。君達もそれはよく分かっているだろ?」


広場の凄惨な現場は思い出そうとしなくてもすぐに頭に浮かぶ。

絲も蒼羽と同じようにあの日のことを思い出したようで震える手で蒼羽の軍服の袖を握っていた。


「まぁ、お前等吸血鬼に比べれば、な」

「その上、君らは軍の関係者だ。内部で動きやすいが、その分、バレればどんな処罰があるか分からない」


吸血鬼を滅するはずの軍の人間が、吸血鬼と手を組んだなんて知れたら。

想像するだけで寒気がしてくる。


「人間にとっては少しのことが命取りだ」

「そうだな」


右手で胸元を握りしめた。

ここから先は失敗は許されない。琥珀の言う通り、覚悟して臨まなければならない。

ただ、同意できる琥珀の発言の中で、蒼羽は一つだけ違和感を感じていた。


「でも……なんでお前がそんなこと言い出すんだよ。心配なんて気持ちがお前らにあんのか」


吸血鬼である琥珀が何故そんなことを言い出したか、だ。

人間も仲間も平気で消せる吸血鬼が、ただの人間の心配をするなんて思えない。


「心配という気持ちは確かにないね。何故忠告したかの答えは……そうだな……」


琥珀は顎に手をやり視線を上げて少し考えた後、頷いた。


「碧王の望みだから、かな」

「白銀の?」


優しい笑顔の彼の姿が思い浮かぶ。


「そう。彼は君達に無事でいてほしいと願っている。まぁ、僕も無事でいてほしいとは思ってるよ。大事な協力者だし」

「最後のが本音だろ」

「えー?」


琥珀はわざとらしく笑顔で首を傾げた。 


碧王――白銀はやはり他の吸血鬼とは少し違う気がする。他の吸血鬼は琥珀の言うように心配という気持ちを持ち合わせてはいない。だが、白銀は違う。人間にとても近い感情を持っている。白銀と過ごした時間は短かったが、あの時の彼の言動は演じているわけではなく本心のようだった。

吸血鬼の王様は他の吸血鬼とは違う存在、ということなのだろうか。


「まぁ、捕らえられている桃簾も最上級と呼ばれる吸血鬼の一人だ。それなりに誇りもある。君らがそこまでの危険を冒さずとも、終わりを悟れば自らの命を絶……」

「それは駄目だ!」


琥珀の言葉に被せて蒼羽が大声を出し、琥珀も絲も目を丸くする。

当の本人の蒼羽も無意識のうちの行動に自分で驚いており、目を泳がせながら続けた。


「いや、えっと、自ら命を絶つなんて、その、いくら吸血鬼でも、駄目だ」


自分でも何を言っているのか分からず、話せば話すほど墓穴を掘っている気がする。


「に、人間なめんな! 自ら死なんか選ばなくても吸血鬼は俺が全部斬ってやるんだから! だから……馬鹿なことはさせんな」


言ってることが滅茶苦茶だ。蒼羽は自分でも嫌になるほどそう感じていた。

だが、自ら死を選ぶ道を誰にも歩ませたくはない。それだけははっきりしている。


「ふっ……あははははっ」


驚きで瞬きしていた琥珀ははじかれたようにお腹を抱えて笑い出した。

今度は蒼羽が目を見開いて黙り込む。


「今の桃簾に聞かせてやりたかったよ。泣いて喜ぶはずだ」

「お前、馬鹿にしてねー?」

「え? ちょっとだけね」


琥珀はいつもと少し違う心底楽しそうな笑顔を見せた。その表情は見た目よりもなんとなく幼く感じる。


「みんなが無事に、ね。なら君には死ぬ気で頑張ってもらわないとね」

「言われなくとも、やるからには手は抜かねーよ」


人物の特定はされていないが、この前第三書庫に忍び込んだことはおそらくバレている。気は抜けない。


「あぁ、それと、お姫様はさらわせてもらうね」

「あぁ分かっ……はぁ⁉」


了承の返事をしかけて蒼羽から驚きの声が漏れる。

琥珀の言っている意味が分からない。


「何言ってんだよ、無理に決まってんだろ! 交渉は決裂したって言ったろ⁉」


怒りで畳みかける蒼羽を前に、何故か琥珀は嬉しそうに笑っている。


「交渉は関係ないよ。最初からそのつもりだったから。ただ、相手がどういう反応をするか見たくてね、試させてもらったんだ」

「意味分かんねーし! とにかく絲を渡すなんて無理だからな!」


真紅の女王だから吸血鬼側に置いておきたいというのが彼等の思惑だろうが、そんなもの蒼羽にとって関係ない。


「えー、でも決まってることだしなぁ。このまま軍にいたら遅かれ早かれ酷いことをされてしまうよ? それに、どうせ彼女は君の元から離れられないんだから」

「お前が離れさせようとしてるけどな!」


琥珀は小さく首を横に振った。


「いや、彼女がそう望んで、君がそう望んでいる限り、お互い離れることはできないよ。ね、お姫様」

「え、あ、はい?」


急に話を振られた絲は驚きながらも反射的に頷いた。


「お前も分かんねーのに返事すんな!」

「あ、ごめんなさい……」


怒られて落ち込む絲に慌てて蒼羽はフォローする。


「あ、いや、違くて、お前が悪いんじゃ……」

「あーあ、お姫様泣かしちゃった」

「お前のせいだよ、黙ってろ。てか泣かせてねーし!」


琥珀に振り回されすぎて頭が痛くなってくる。


「少し話し込み過ぎたね。では、君達の活躍を期待しているよ。姫、今宵私と一曲踊りましょうね」


琥珀はわざとらしく絲にウィンクをし、蒼羽の気を逆なでして喜んだ。本当に性格悪い奴だ。


「おっまえなぁ」

「はははっ、ではまた夜に」

「えっ、ちょっと待っ」


琥珀が指を鳴らすと白い花びらで視界が覆われた。

すぐに前を確認するがそこにもう彼はいなかった。


「あいつ、何も詳しいこと言わずに行きやがったな」


神出鬼没傍若無人なのはいつものことだが、いつにもましてスピード感のあふれる自分勝手ぶりだった。

もしかしたら内心それだけ焦っているのかもしれない。


「……あおって、琥珀と仲良いよね」

「は? どこがだよ?」


仲良いの正反対を貫いているような関係だと思っている蒼羽は絲の言葉を聞いて思い切り顔をしかめた。


「ちょっと妬いちゃう」

「なんで⁉」


絲の目にはどう映っているのだろうか。

そもそも絲の周りにいる同い年くらいの女の子といったら千代くらいしかおらず、あとはほぼ年上のむさくるしい男どもだ。辰森や九十九くんは歳は近いが、絲と仲がいいかと聞かれるとまだそこまでの友達ではない気がする。

よって仲良いの基準がかなり低いと考えられる。


「絲……友達、作ろうな」

「え? 友達いっぱいいるよ?」


戸惑う絲の手を引きながら街へと向かう。

蒼羽は今夜の決戦の前に絲の友達計画を練ることを決めながら寮へと急いだ。







日が沈む。

決行の時間が近づいていく。





「さぁ、ショータイムだ」

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