表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第一章終了】千紫万紅の吸血鬼  作者: 小松羽咲/了一
【第一章】君と僕のさよなら
52/63

今宵、王と惨劇のワルツをⅨ

 さっきから同じような文章が並んでいる本にため息をつく。


「これもハズレだな」


 蒼羽は読み終わった本を勢いよく閉じて、机に積み上がった本の上に重ねた。

 さっきからこれの繰り返しだ。


 蒼羽達は軍本部の中にある書庫に来ていた。蔵書はかなり多いのだが期待はあまり持てない。

 向かいに座る辰森は、片手で頬杖をついて積み上がった本を見つめてため息をついた。


「こんだけ読んでも駄目だったら、もうここにめぼしい情報はないかもな」


 吸血鬼は灰色の髪、赤い瞳が特徴的である。喋ることはなく、吸血の本能のみで動く。

 それが本当かはさておき書いてある情報はどれも誰もが知っているであろうことだ。そしてそれは最底辺の吸血鬼のことでしかない。


 辰森は先程から文句を言いながらもずっとページをめくってくれているが、やはり新たな発見はないようだ。

 蒼羽は本を見るのは一度やめて、今までの情報を書き出してみることにした。



 琥珀と出会ってから、本当に色々あった。




 ――琥珀と出会ったあの日。

 初めて知性があり喋る吸血鬼に遭遇した。

 琥珀に回収された吸血鬼は自分が本物の吸血鬼だと言っていた。

 後に千草から聞いた軍上層部しか知らない極秘情報の一部で、本物の吸血鬼とは下級、中級、上級吸血鬼のことを指していたのだと分かった。紛い物と呼ばれていた喋れない吸血鬼は下級にも入らない最底辺の吸血鬼だ。




 雨の日の少女亡霊事件の時には涙を流す吸血鬼が現れた。


 ――キ……ケ……テ


 ――ア……フ……ヨ


 あの時のあの吸血鬼の言葉の意味は結局わからなかった。

 そして、その吸血鬼を葬り去った何者かも分からずじまいだ。




 何故か琥珀に観光案内するはめになった日に初めて奴の名前を知った。見た目からしてこの國の者じゃない吸血鬼、ポムフィも連れていた。蕎麦やら百色眼鏡やら煎餅やら買わされたわりに、得た情報は曖昧で未だに納得していない。


 ――何故日中活動している? 何故瞳や髪色が今までの吸血鬼と違う? 吸血鬼って何なんだ? お前らの目的はいったい何だ?


 蒼羽はこれだけの情報をよこせと言ったが、琥珀から返ってきたのはつかみどころのない回答。


 ――日中に活動できるのはできる者とそうでない者がいる。瞳や髪の色は人間と一緒で生まれつきだ。吸血鬼が何なのかは人間が何なのかと同じくらい難しい。目的は僕が知りたいくらいだよ。


 全く持って答えになっていない。今思い返してみると上手く誤魔化されたと思う。

 軍の極秘情報によると吸血鬼は階級に分かれていて知能や強さは階級と共に上がる。階級は血筋で決まり、中級以上は日中に活動が可能な個体もある。階級が高い奴になると容姿や言動が人間そっくりになるようだ。

 琥珀の君というのは、吸血鬼で位の高い五人衆というやつのうちの一人らしい。全くそうは見えない。




 写真館のマドンナを追った時、久々に得導に会った。

 得導はおそらく今の蒼羽以上に情報を持っている。だが、それを買うほどの金は用意できそうもないため、今そこは頼りにできないかもしれない。


 ――彼らは秋に動く。これは止められない。奴等は繰り返す、賽は投げられた、王をこの手にと


 この予言の意味が今ならなんとなく分かる。

 秋に動くのは時計塔の完成記念祭。彼ら、奴等は吸血鬼。王は碧王、多分白銀のことだ。後半は詩的で分かりにくいが広場での惨劇のことだろう。

 そういえば、得導の予言は続きがあったような気がする。


 ――でも重要なのはその出来事じゃない。その先だ。蒼羽、君はどういう決断をするんだろうね。


 これは、起こった後どう動くかが重要、ということだったんだろか。



 そういえば翌日河原で寝てしまった時、何か夢を見た気がする。


 ――……どっかの国では夕暮れ時を誰そ彼時って……


 すごく安心した気がするのにどんな夢だかよく思い出せない。

 ただの夢だし、思い出せないということはあまり重要ではないのかもしれない。


 起きた後遭遇した吸血鬼はいつもの吸血鬼と違った。

 それまで最底辺の吸血鬼は皆、茅色の上下に分かれた簡素な洋装だった。

 だが、その時の吸血鬼は写真の中にマドンナに似た和装を身にまとっていた。

 それどころか最底辺の吸血鬼なのに流暢に言葉を話したのだ。


 ――愚問だね。ハジメマシテ、ニンゲン。僕の贈り物は気に入ってくれたかな? 君たちが探してるマドンナに似せてみたんだよ。お気に召したかな?


 あれは最底辺吸血鬼自身が喋れたわけではない。おそらく誰かに操られていた。


 ――僕は……彼は誰れ刻、かな。王様に伝えておいて、覚悟しときなよって。


 王様というのはきっと吸血鬼の王、碧王のことだ。何故かは分からないが、敵は蒼羽が白銀と出会うことを知っていた。

 彼は誰れ刻、奴には気をつけた方がいいことは間違いないだろう。




 そして、あの広場の惨劇の日。

 久々に出会った琥珀は言っていた。


 ――我らが宴にぜひご参加を。


 白銀も何かしら心当たりがあるようだった。


 ――今ので見つかった? どうしよう、計画が、早まるかも、想定外のことが、またあんなこと……。


 知っていて、何も言わなかったのだろうか。

 すべて計画されていたことで、あの二人も計画を企てた側だったのか。


 ――今宵は王の復活祭。赤き血を捧げ、王の復活を祝おうじゃないか。


 ――滑稽ですね。弱い生き物は大人しく血を差し出していればいいものを。


 あれが吸血鬼の本質だ。

 その、はずだ。

 それなのに、どこか違和感を感じる。今だから感じる違和感。以前どこかで経験した感覚に似ている。でもそれがいつだったのか思い出せない。



 吸血鬼である白銀も琥珀もあの惨事を企てた側なのだろう。

 だが、白銀と琥珀があの惨劇を終結させたのも事実だ。

 奴等は敵なのか何なのか。


 ――ごめんね……何もできなくて……でも守るために、僕は変わるんだ。名前をくれて、友達になってくれてありがとう。


 白銀の言葉の、気持ちのどこが嘘だったのか、矛盾と謎が多すぎて真実が見えてこない。


 ――うん! 僕、白銀になる! 僕の名前は白銀だ!


 吸血鬼らしくない吸血鬼。彼を言い表すならそんな感じだ。


 ――僕はね……人間になりたいんだ。


 彼のあの言葉は本心だったような気がしてならない。


 ――我は碧王。この国の吸血鬼の王である。警告しておこう。これ以上我が同胞を利用しようと言うのならば、お前達は……皆殺しだ。


 白銀の冷たい声が蒼羽の頭にこだまする。

 同胞を利用、人間が吸血鬼を利用しているということになるがそれだと意味が分からない。

 同胞は単なる吸血鬼という意味じゃないのかもしれない。




「あーわっかんね。あったま痛い……」


 単語を書き出してみるものの、やはり全てが繋がりそうで繋がっていない気がする。

 むしろ根本が間違っている気がしなくもない。


「……吸血鬼は敵か否か」


 敵に決まっている。決して許せない。

 なのに、それだけでは片付かない何かがある。

 謎が多すぎて視界がぼやけている。


「蒼羽大丈夫か?……何書いてんの?」


 辰森が急に覗き込んできたため慌てて両手で紙を隠した。


「……なんで隠すんだよ」


 辰森は明らかに不服そうな様子で目を細めた。


「い、いやぁ、なんとなく?」


 蒼羽はバツが悪くなり宙へと視線を移す。

 しばらく蒼羽を見つめていた辰森は諦めたのか呆れ顔でため息をついた。


「まあ、言えないならいいけど」

「え、なんで言えないって知って……⁉︎」


 驚く蒼羽に彼は「ほらな」と返した。


「お前顔に書いてあるから分かりやすいんだよ。言いたくてしょうがないって」

「悪かったな」


 当たってるだけに返す言葉が見つからない。


「辰森は知らねー方がいいんだよ」


 知ってもらって共有したい気持ちはあるが、そのせいで危険な目に合わせるわけにはいかない。特に軍の極秘事項なんて知ってしまったら、それがバレたらどうなるか分からない。


「ふーん……何に悩んでるか知らないけど」


 辰森は喋りながらも本に視線を戻し文字を目で辿っていく。


「蒼羽は思ったようにやればいいだろ。俺は基本的に長いもんには巻かれろ主義だけど、お前のことは多少信頼してるからな」


 そこまで言って手を止めた辰森は視線だけこちらに向け悪戯っぽく笑った。


「仕方ないから俺だけはお前の味方でいてやるよ」

「辰森……」


 蒼羽は辰森の予想外の励ましに目を丸くした。

 その後余計な一言に気づいてしまい、首を捻る。


「ん? 多少ってなんだよ多少って」

「いや全面的に信頼とか無理だろ」

「なんでだよ」


 失礼な同期だと顔を歪ませると辰森はケタケタ笑った。


「じゃあ、その失礼な同期からの助言だ。ここには蒼羽が探してるものはおそらくない。あるとしたら」


 辰森は声を潜めて言葉を続ける。


「第三書庫だ」

「第三書庫?」


 出てきた単語を蒼羽は繰り返す。


 蒼羽達が現在いるのは第二書庫で、軍に所属している人間なら誰でも閲覧することができる。

 第一書庫は入り口近くにあり、こちらは軍に所属していない一般人でも閲覧、貸出が可能となっている。

 対して、第三書庫は軍の中でも限られた人間のみが入ることができる、機密性の高い蔵書が取り扱われている場所だ。

 もちろん、蒼羽達に入る権限はない。


「あったとしても入れねーじゃねーか」

「まあ、俺や他の奴には普通無理だな」


 辰森は手に持っていた本を閉じながら頷く。その表情は言葉とは裏腹に可能を物語っていた。


「だけど、お前なら?」

「俺?」


 辰森に推薦された蒼羽は訝しげな顔で自分を指差した。

 辰森に無理なものをどうして自分が可能だと言うのか。


「お前、何歳の頃からここにいるよ?」

「何歳って……六歳だけど」


 蒼羽が軍に保護されて寮に住み始めたのは六歳の時だ。

 寮と繋がっている軍本部は必然的に蒼羽の遊び場だった。


「前言ってただろ、小さい頃秘密であちこち動き回ってたって」

「……あぁ! 通気口!」


 ようやく話が繋がり蒼羽は小さな声で呟いた。

 そういえば辰森には話したことがある。幼い頃通気口を利用してあちこちの部屋に移動していたと。

 そんなことをする者はいないと思われていたからか意外とバレないもので極秘の会議を覗いてしまったこともあった。

 辰森はささやくように蒼羽に確認する。


「結局バレたのは一人だって言ってただろ? その人も辞めたとかどうとか」

「あぁ、知ってんのはおっちゃ……じゃない、前の中将だけだ、けど」


 幸い見つかったのは当時の中将だけだった。蒼羽の保護者のような立場であったその人はもう二度としないことを条件に見逃してくれた。

 その約束を反故にするのは若干気が引ける。

 当時を思い出して黙り込んだ蒼羽を見て、辰森は小さく息をついた。


「ま、お前が乗り気じゃないんならこの案はなしだけど。そうなったらお手上げだなぁ、あと俺に思いつくのは得導さんに頼るくらい」


 辰森は頭の後ろで手を組んで体を後ろにそらし、背もたれに寄りかかった。


「……いや、俺もそれ以外今は思いつかねー。やってみる価値はある」


 得導は最終手段だと蒼羽は付け加えた。あんな犯罪級の価格を叩きつけられたら払い終わるのに何年かかるか分からない。

 辰森は体を戻して満足げに口角を上げる。


「そう言うと思ったよ」


 蒼羽は単語を書き連ねた目の前の紙を畳みながら口を開く。


「ただなー、ガキの頃みたく小さくねーからなー、通れるかどうか」


 その不安に辰森はなんでもないと言いたげに返した。


「だ、か、ら、お前なんだろ」

「あ? なんでだ?」


 蒼羽は辰森の言葉に首を傾げたが、すぐにその意味が分かり怒りの笑みを浮かべる。


「おっまえ、喧嘩売ってんだろ」

「はは、まっさか!」


 思ってますと言わんばかりの声色に蒼羽は不機嫌な表情で辰森を見つめた。


「で、蒼羽、いつやるんだ?」

「早い方がいいだろ、今夜とか」


 幸い、今は巡回免除期間な上、厄介な兄は入院中で忍び込むにはぴったりだ。


「お前……ほんと短絡的だよな」

「……善は急げな性格と言ってくれ」


 畳んだ紙をポケットにしまいながら蒼羽は立ちあがる。

「決行は、今夜だ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ